米国国立衛生研究所(NIH)の研究者らは癌治療に関する新たな戦略の可能性を発見

NIH(米国国立衛生研究所)ニュース 
2011年12月19日

マウスを用いた近年の実験結果より、エポキシエイコサトリエン酸(EET)として知られる小分子の生体内での産生を阻害することにより、癌に栄養を与える血管を断つという、新しい癌治療戦略が示された。この研究では、EETが血管成長を誘導するタンパク、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と共同作用するということが初めて明らかになった。EETとVEGFは癌細胞に栄養を供給する血管の成長を促し、転移もしくは癌増殖を促進する。 

米国国立衛生研究所の一部である国立環境衛生科学研究所(NIEHS)とその他数か所の施設の研究者らからなる研究チームが12月9日付The Journal of Clinical Investigation誌電子版にデータを発表した。 

以前の臨床試験において、糖尿病、高血圧、炎症、脳卒中、心臓発作などのさまざまな血管状態にある患者は、EET値が上昇することにより利益を被る可能性があることが示された。EETが血管を拡張させ、組織の炎症や細胞死を抑制するからである。しかし、以前の研究はまた、EETが腫瘍細胞を通常よりも早く成長、転移させることが示された。NIEHSの科学ディレクターであり、この論文の著者でもあるDarryl Zeldin医師は、ヒトの代謝はEETに関してある調和を得なければならないと考えましたと述べた。

「健康な心血管系を維持するために、生体は癌を増殖・転移させることなく十分なEETを産生しなければいけない。両刃の剣の均衡を保たなければいけません」とZeldin氏は述べた。

EETがどのように癌を進行させるのかを見い出すために、研究チームはEET値の高いマウス系統と低いマウス系統を作製した。

Zeldin氏は「EET値が低いマウスに比べ高いマウスの方がより転移性腫瘍の進行がみられました」と述べた。

また「腫瘍自体がより多くのEETを産生し、腫瘍の成長と転移を加速させることがありますが、われわれの解析では、周辺組織で産生されたEETが腫瘍の成長と転移を促すことが示されました」と述べた。

Zeldin研究グループのリサーチフェローであるMatthew Edin博士は、論文の著者の一人であり、マウス実験を進めた人物である。EETは、癌細胞が成長するために必要とする酸素や栄養を受け取るための新しい血管の形成、つまり血管新生を直接導く、と彼は述べた。彼は、建築者が新しい住宅を建築し始める際に生じることと、そのプロセスを同じように考えた。

Edin氏は「建築作業員が最初になすべきことの一つは、材料と作業員が目的地に移動できるように道を作ることです。癌において、EETは住宅開発を急速に拡大することができ、道路の形成を促進します」と述べた。

ボストンにある、ダナファーバー/小児病院がんセンターの研究員であり論文の著者であるDipak Panigrahy医師によると、EETは腫瘍の増殖と転移を促す強い刺激作用がある。マウスにおいて、この経路を阻害した化合物、EEZEのような新しい拮抗薬を使用することにより、この過程は効果的に阻害できる可能性がある。EEZEはヒトへの使用は認められておらず、研究にのみ使用される。

「EEZEは構造的にEETと類似しているが、EETの効果を阻害し、腫瘍形成を劇的に抑制します」とPanigrahy氏は説明した。

ダナファーバーから、この共同研究のもう一人の著者であるMark Kieran医学博士も、この研究の重要性についてコメントを述べた。 

「何年も研究された心血管病の古い経路を確認したところ癌関連死の主な原因である癌の増殖と転移を制御する新しい役割を発見しました」と彼は述べた。また「これらの発見が、癌発症の根底となるメカニズムをよりよく理解するための契機となり、癌患者に対する効果的な治療の進歩が、現実的なものに一歩近づくことになります」とも述べた。 

NIEHSはヒトの健康に対する環境の影響を理解するための研究をサポートしており、米国国立衛生研究所(NIH)の一施設である。環境衛生に関する詳細はwww.niehs.nih.gov.を参照。NIEHSニュース、プレスリリース、助成金、研修、イベント、出版物に関しては最新情報NIEHリスト(www.niehs.nih.gov/news/releases/newslist/index.cfm)を参照。

米国国立衛生研究所(NIH):米国保健社会福祉省の医学研究機関で、27の施設とセンターで構成されている。基礎、臨床、トランスレーショナル医学研究の実施と支援行う主要な連邦政府機関であり、一般的疾患および稀な疾患の原因や治療法の研究を行っている。NIHおよびNIHが提供しているプログラムに関する詳細情報はwww.nih.govを参照のこと。

翻訳担当者 小川明彦

監修 須藤智久  (薬学/国立がん研究センター東病院 臨床開発センター)

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