キャンサーリサーチUKとの新プロジェクトで9研究に支援
米国国立がん研究所(NCI)
米国国立衛生研究所(NIH)の一部である米国国立がん研究所(NCI)とキャンサーリサーチUKは、がん研究における重大問題に取り組むことを目的とした9つの新しい研究課題を発表した。この世界規模の研究支援は、NCIとキャンサーリサーチUKが2020年に開始したプログラムであるキャンサー・グランド・チャレンジ・プログラム(Cancer Grand Challenges program)の一環として行われる。
この研究プロジェクトは、がん研究を前進させがん患者の転帰を改善する多大な可能性を秘めた、新しく大胆なアイデアを引き出すことを目的とする。2023年3月8日ロンドン開催のキャンサー・グランド・チャレンジ年次科学サミットAnnual Scientific Summitで発表された今回の応募は、2023年6月22日に締め切られる。
NCIのディレクターであるMonica M. Bertagnolli医師は、「キャンサーリサーチUKとのパートナーシップによって、がん研究の最も複雑な課題に取り組む、世界中の研究コミュニティにいる優秀な人材を支援するというわれわれの使命が明確になります」と述べた。今回のチャレンジから生まれる魅力的な研究アイデアを楽しみにしています」。
国際的・学際的な研究チームに対し、9つのうちのどの課題にどのようにアプローチするのか、提案を募集する。2024年、最大4つの受賞チームそれぞれに対し、5年間にわたって、研究を完遂するための資金約2500万ドルが授与される。
NCIの科学戦略・開発担当副部長であるDinah S. Singer博士は、「これらの課題は、がん科学を大きく前進させる素晴らしい機会です。これらに取り組む創造的で斬新なアプローチを提案するチームを募集しています」と述べる。「多様なチームによる大胆で学際的な研究を奨励することで、米国、英国、そして世界中でがんに罹患している数百万人の転帰を改善し、より多くの治療選択肢を提供することを望んでいます」。
2022年、キャンサー・グランド・チャレンジ・プログラムは、4つの学際的チームに1億ドルを授与した。この4チームの研究テーマは以下のとおり。
● 悪液質として知られる、がん患者の筋肉が衰える症状の研究
● がんにおける染色体外DNAの生物学的特性
● 小児の固形がんに対する新しい免疫療法
● がんを引き起こす変異を有する正常な細胞が腫瘍細胞に変化するきっかけ
これまでのところ、他に7つの学際的プロジェクトが、前回以前のキャンサー・グランド・チャレンジを通じて資金提供を受けている。
「がんは世界的に重要な問題であり、世界的な協力が必要です。キャンサー・グランド・チャレンジは、世界の科学コミュニティが一丸となって変化を起こすための比類ない機会を提供します」と、キャンサーリサーチUKのキャンサー・グランド・チャレンジ担当ディレクター、David Scott博士は述べる。「このプログラムは新しいアイデアを引き出します。世界クラスの学際的なチームを集めて、がんの最も複雑な問題に対する大胆で新しい解決策を見つけ出します。これらは壮大なプロジェクトですが、この規模の投資によって、世界が緊急に必要としているがん対策を促進することができるのです」。
新しい9つのチャレンジは以下のとおり。
【小児固形がん】 小児の固形がんの発がんドライバーを標的とする治療薬を開発する
・このチャレンジは、小児固形がんのドライバー遺伝子を標的とする新しい治療法を特定し、生存率を向上させ、既存の治療法による生涯にわたる副作用を軽減することを目的とする。
【がんの不平等性】 遺伝学、生物学、社会的決定因子が多様な集団のがんリスクと転帰に影響を与えるメカニズムを理解し、がんの不平等を軽減するための介入を動機付ける。
・この課題は、がんの原因に関する遺伝学、生物学、社会的要因の相対的寄与を理解し、がんにおける不平等や格差を減らす方法を新しく開発するために利用できるような基礎的知識を提供することを目的とする。
【肥満、身体活動とがん】 肥満と身体活動ががんリスクに影響を与えるメカニズムを明らかにする
・このチャレンジは、肥満と身体活動ががんリスクに与える影響の生物学的プロセスを理解し、リスク変化につながる介入の開発についてよりよい情報を提供することを目的とする。
【加齢とがん】 老化した体細胞組織とがんとの関連性の根底にある機能的基礎を解明する
・このチャレンジは、加齢に伴う分子変化が、さまざまな臓器におけるがんリスクにどのように寄与しているかを理解することを目的とする。この知識は、高齢者集団のがんリスクを低下させる新しい標的治療の開発に利用できるかもしれない。
【T細胞受容体】 T細胞受容体のがん認識コードを解読する
・このチャレンジは、免疫細胞の一種であるT細胞ががん細胞を認識する仕組みについて理解を深め、がん免疫療法の改良と普及を目的とする。
【早期発症のがん】 成人における早期発症がんの発生率が世界的に上昇している理由を明らかにする。
・このチャレンジは、50歳未満の成人に発症する早期がんの増加の背景にある生物学的要因・環境要因のメカニズムを理解し、この知識を用いて最終的に同定されたリスク集団を守るための介入を開発することを目的とする。
【がん細胞の可塑性】 がん細胞の可塑性およびその汎治療抵抗性獲得への寄与を解明する
・このチャレンジは、がん細胞がどのように異なる種類の細胞の特徴を取り入れて自分自身を変化させ、がんの進行や治療抵抗性に寄与するのか、また、この変化をどのように制御すればがん治療の効果を高めることができるのかについて理解を深めることを目的とする。
【レトロトランスポーザブルエレメント】 がんにおけるレトロトランスポーザブルエレメントの役割を解明する
・このチャレンジは、レトロトランスポーザブルエレメント(数百万年前に感染したウイルスに由来するヒトのDNAの一部で、DNAの異なる場所に移動することができる)が、ある種のがんの発生と進行にどのように寄与しているかを解明することを目的とする。
【化学療法による神経毒性】 化学療法による神経毒性および神経障害を解明し、予防する
・このチャレンジは、一部の化学療法が神経系への長期的な損傷など特定の副作用を引き起こすメカニズムをよりよく理解し、最終的には、この副作用の予防・治療に関する情報を提供して患者のQOLを向上させることを目的とする。
今回の9つのチャレンジは、国際的なワークショップや、がん研究コミュニティやがん患者からの公募を通じて生まれた300以上のアイデアの中から選ばれたものである。このうち、最も魅力的なアイデア数件ががん研究の専門家によって評価され、キャンサーリサーチUKに推薦された。資金提供パートナーである米国国立がん研究所(NCI)とキャンサーリサーチUKは、キャンサー・グランド・チャレンジの課題について最終決定を行った。
関心のあるチームは、2023年6月22日までに関心表明(expression of interest)を提出する必要がある。キャンサー・グランド・チャレンジの科学委員会が審査し、最終候補者をキャンサーリサーチUKに推薦する。この推薦を受けて、NCIとキャンサーリサーチUKは候補チームの最終選考を行い、2023年8月に発表する。2024年3月、NCIとキャンサーリサーチUKは、最大4つの受賞チームを選抜し発表する予定である。
キャンサーグランドチャレンジプログラムの詳細については、こちらをご覧ください。
- 監訳 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学病院 呼吸器科)
- 翻訳担当者 奥山浩子
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- 原文掲載日 2023年3月8日
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