2007/08/07号◆特集記事「一般的な癌と融合遺伝子との関連性」

同号原文NCI Cancer Bulletin2007年8月07日号(Volume 4 / Number 23)

2007年度エルメス・クリエイティブ賞
Eニュースレター部門金賞受賞

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◇◆◇特集記事◇◆◇

一般的な癌と融合遺伝子との関連性

新たな研究から、遺伝子融合(ゲノムの異なる部分に由来するDNAの融合)は一般的な癌の発症において重要なイベントであることが示唆された。

融合遺伝子およびその原因となる染色体再配列は、白血病、リンパ腫、およびその他の血液癌の顕著な特徴であるが、2005年まで固形腫瘍では同定されなかった。ミシガン州立大学医学部のDr. Arul Chinnaiyan氏らが行った画期的な研究によって前立腺癌の70%に融合遺伝子が認められ得ることが報告された。

現在、同大学の研究グループによる前立腺癌での融合遺伝子に関する追跡調査研究、および肺癌で遺伝子融合が初めて報告された研究が、Nature誌8月2日号に掲載されている。これらの試験結果は、融合イベントを同定することで診断ツールおよび白血病治療薬であるイマチニブ(グリベック)(融合遺伝子BCR-ABLのタンパク質産物を阻害)をモデルとする標的治療薬がもたらされる可能性を示唆している。

上記の肺癌試験では、日本人の研究者らが非小細胞肺癌(NSCLC)患者にて融合遺伝子を検出した。EML4遺伝子とALK遺伝子との間の融合イベントにより、ALKチロシンキナーゼが活性化される。同チロシンキナーゼは、その他のタンパク質をコントロールし、NSCLCの原因であろうと考えられている。

チロシンキナーゼは多くの癌に関与し、治療薬剤の重要な標的となっている。例えば、キナーゼ阻害剤であるエルロチニブ(タルセバ)およびゲフィチニブ(イレッサ)は、EGFR遺伝子またはHER2/neu遺伝子の変異を有する肺癌患者にとって有益である。

自治医科大学の研究者らは、EML4-ALK融合遺伝子の構造から同遺伝子が薬剤標的になりうるとNature誌に記している。彼らは研究対象とした患者75名中5名にてEML4-ALK融合を検出した。

ダナファーバー癌研究所のDr.Matthew Myerson氏は論評にて、「一般的な癌における薬剤標的の必要性を考慮すると、今回の発見は重要なものである。」と述べている。

前述の前立腺癌試験においてDr.Chinnaiyan氏らの研究チームは、前立腺癌でさらなる遺伝子融合を同定した。これらの遺伝子融合は異なった型の染色体再配列を示しており、各型は前立腺癌の特定のサブタイプと関連しているのかもしれない。

各サブタイプには、白血病のサブタイプと同様に、原因となる遺伝的欠陥に合わせた治療が必要となるかもしれない、研究者は述べている。

融合イベントによってハイブリッド遺伝子が生成され、アンドロゲンホルモン(前立腺癌の成長の原因となり得る)がそれを活性化させる場合もあるが、そうでない場合もある。

例えば、同定されたある融合遺伝子はアンドロゲンによって不活化される。また、アンドロゲンは、同定されたその他の融合遺伝子の活性に影響を与えないこともある。

これは、各患者にホルモン療法を使用するか否かを決定する上で、医師にとって有用な情報となるであろう。

また、Dr. Chinnaiyan氏らの研究チームは、前立腺癌の細胞および動物モデルにおいて、融合遺伝子が前立腺癌の原因として十分であることを報告している。

Dr. Chinnaiyan氏は、「今回の研究は、細胞や動物モデルにおいて遺伝子融合の産物が発癌カスケードの発端になることが初めて示された。」と述べている。同氏は、前立腺癌を対象としたNCIの早期発見研究ネットワークおよび特定優良研究プログラムの助成金を受けている。

さらにDr. Myerson氏は、「肺癌や前立腺癌に関する本所見から、染色体再配列に起因する融合遺伝子の活性化はおそらく固形腫瘍でも一般的かつ重要であることが示唆される。」と記している。

同氏は「このような融合の発見および臨床の場におけるこれらの活用は、一般的な癌の原因の理解において『大きな一歩』になるだろう。」と付け加えている。

—Edward R. Winstead

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斉藤 芳子 訳
榎本 裕  (泌尿器科医) 監修 

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