生体肝移植は肝がん患者の延命につながる可能性

生体肝移植ドナー候補者の存在により、移植待機中の肝がん患者の死亡者数が減少する可能性があると研究者らは示唆した。

「肝細胞がんのいわゆる治癒的切除を受ける患者は非常に多いですが、3年後の再発率は約60%です。肝切除患者の大半は、生体肝移植によって長期的に治癒していたはずです」と、ルーヴァン大学(ブリュッセル)のJan Paul Lerut医学博士は、ロイター・ヘルスに電子メールで述べた。

JAMA Surgery誌で報告されているように、Lerut博士の研究チームは、ヨーロッパ、アジア、米国の12施設で一次移植待機リストに登録されている肝細胞がん患者3,052人のデータについてITT解析(治療意図による解析)を行った。初回紹介時の年齢中央値は58歳で、80%が男性であった。患者の約3分の1は生体肝移植を受ける見込みであり、それ以外の患者は脳死肝移植の待機リストに登録されていた。

トロントで行われた別の単施設コホートは、人口統計学的に同様の属性を持つ患者906人で構成され、患者の約4人に1人が生体肝移植を受ける見込みであった。

生体肝移植候補者は、肝移植候補を決めるミラノ基準を超える病変を有することが多かった。

治療企図の死亡は、何らかの理由で発生した患者の死亡と定義され、待機リスト登録時から最終追跡日(2019年12月31日)までの期間で算出した。全体の追跡調査の中央値は3.3年であった。

脳死肝移植の平均待機期間は6カ月であった。その間に、患者の約15%が、待機中の死亡、腫瘍の進行、その他の要因により待機リストから除外された。生体肝移植の平均待機期間は1カ月で、腫瘍の進行や死亡により待機リストから除外された患者はいなかった。生体肝移植候補者の約8%は、死亡したドナーが現れたり、生体ドナー の肝臓量が不十分であったりしたため、脳死肝移植待機リストに移行した。

トロントの患者を除くと、逆確率重み付け(IPTW)解析の結果、ITT解析での5年および10年生存率は、生体肝移植群ではそれぞれ79%と64%、脳死肝移植群ではそれぞれ72%と49%であった。このパターンは、トロントのコホートでも同様であった。

生体肝移植により、IPTW解析で全死亡リスクが33%減少した。トロントのコホートでは、生体肝移植によりIPTW解析で全死亡リスクが48%減少した。

追跡期間中、肝細胞がん再発率は生体肝移植を受けた患者と脳死肝移植を受けた患者で同程度であった。

「生体肝移植は、ドナープールを拡大する一つの方法ですが、がん再発のリスクが非常に高い患者はどちらのタイプの移植候補にもなりにくいため、そうした患者を特定できる方法で行う必要があります」と、関連論説の共著者であるノースカロライナ大学チャペルヒル校のDavid Gerber医学博士は、ロイター・ヘルスへの電子メールでコメントしている。

フィラデルフィアのテンプル大学ルイス・カッツ医学部腹部臓器移植外科部長であり、テンプル大学病院腎臓・肝臓・膵臓移植/生体移植外科部長でもある Antonio Di Carlo医学博士もメールで次のようにコメントしている。

「最大の懸念は、広範囲に及ぶ肝臓手術を受ける必要のない健康な生体ドナーへの影響が看過されていることです。米国でも、今後数年で生体肝移植の件数が増えていくのが現実です。しかし、生体ドナーへの影響を評価することなく、単純に生体肝移植のメリットを評価することはできません。本研究では、レシピエントの転帰の説明に際して、ドナーへの配慮がなされていません」。

「生体ドナーとレシピエントの選択は、責任を持って行われなければなりません」と、同氏は続けた。「さらに、技術革新が進む中、健常者に過度の圧力をかけないようにするために、”死亡臓器ドナープール “を拡大するべきです」。

「これまで廃棄されていた、死亡したドナーの肝臓を “調整 “する技術が今はあります」と、同氏は付け加えた。「より革新的な最新研究では、こうした臓器プールと比較して転帰が検証されるでしょう」。

出典: https://bit.ly/36UGqy8 、 https://bit.ly/3hVsE4p  JAMA Surgery誌 オンライン版2021年7月14日付

翻訳担当者 有田香名美

監修 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)

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