あなたの微生物叢(マイクロバイオーム)とがん:知っておくべきこと

◆ あなたの微生物叢(マイクロバイオーム)とがん:知っておくべきこと

人体には、食べ物の分解から病気との戦いまであらゆることを助けてくれる数多くの有益な細菌が存在しています。微生物叢(びせいぶつそう)と呼ばれるこれらの細菌は、私たちの健康と生命を維持するのに役立っています。

では、病気と闘ったりその症状を和らげたりするのにこれらの細菌が利用できたとしたらどうでしょうか。科学者たちは、微生物叢の補充によりがん治療の有効性を高めたり副作用を和らげたりする可能性について研究しており、初期段階の研究では潜在的なメリットとリスクが示されています。ここでは、微生物叢とは何か、なぜそれが重要か、そして、がんやがん治療における微生物叢とその役割についてがん患者が知っておくべきことを学びましょう。

◆ 微生物叢とは何でしょうか?

微生物叢とは微生物のコミュニティーです。あなたの体内には、微生物叢と総称される何兆個もの細菌やその他の生物が生着しています。人間の細胞の10倍以上の細菌が体内に存在しているのです。

新生児は生まれたときから、遺伝、生活習慣、年齢やその他の因子により生涯を通して変化する微生物叢を育て始めます。あなたの微生物叢のほとんどは腸に存在しています(*腸内フローラとして知られる)。

微生物叢は人により異なり、何が健康で活発な微生物叢を作るのかについては、なお議論の的でありさらなる研究が必要です。しかし、私たちの微生物叢が時にバランスを崩し、そのことが大腸がんを含むある種の疾患と関連することについて医師たちは合意しています。

◆ 微生物叢とがんの研究は何を示しているのでしょうか?

微生物叢とがんについての研究は初期段階にあります。これまでに分かったことのなかには、マウスでの研究に基づいているものもあります。例えば、マウスの腸内微生物叢の構成が肝臓がんの腫瘍の大きさや数に影響することを研究者らは示してきました。

人のボランティアを対象とした別の研究では、さらに多くの関連が見つかりつつあります。例えば、より多様な微生物叢は皮膚がんでの免疫療法の効果を改善できる可能性がいくつかの研究で示されています。また別の研究では、より多様な腸内微生物叢をもつ患者は、骨髄/幹細胞移植の3年後も生存している可能性がより高いことが示されました。健全な微生物叢が他の多くのタイプのがんや関連した治療法にどのような影響を与える可能性があるかについてもっと知るための臨床試験が進行中です。

◆ 食品、医薬品、サプリメントは微生物叢にどのように影響するのでしょうか?

食物繊維を多く含む栄養価の高い食品や新鮮な野菜や果物を食べることで、あなたの腸にすでに生着している有益な、すなわち“善玉”の、細菌に栄養を与えることができます。これらはプレバイオティクス食品と呼ばれます。有益な細菌を含む食品をとることで、腸内微生物叢を再生着させることを助けることもできます。ヨーグルト、ザウアークラウト、昆布茶といった発酵食品にはそのような細菌が含まれています。これらはプロバイオティクス食品と呼ばれます。

食品以外にも医薬品やサプリメントがプレバイオティクスやプロバイオティクスとして作用する事があります。シンバイオティクスとは、プレバイオティクスとプロバイオティクスを組み合わせたサプリメントのことです。

化学療法や放射線療法といったがん治療は腸内微生物叢を破壊することがあります。研究者らは、がん治療を受けている人の微生物叢のバランスをプロバイオティクスでもとに戻せないか研究しています。たとえば、ある研究では、肺がんの化学療法を受けている人や大腸がん手術を受けた人の下痢をプロバイオティクスが軽減することが示されています。

他の研究者は、プロバイオティクスの安全性とリスクについて心配しています。たとえば、多くのプロバイオティクスが栄養補助食品として売られていますが、このことは、それらが米国食品医薬品局(FDA)により規制されていないことを意味しています。

プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクスを含むどんなサプリメントでも摂取することを考えているならかならず主治医に相談してください。このことは、がん治療を受けているときはとりわけ重要です。

◆ 糞便移植はがん患者の微生物叢を補充するのにどのように役立つでしょうか?

糞便移植では、健康な人から採取した糞便試料を別の人の体内に入れます。糞便移植には、飲み込む錠剤、大腸内視鏡検査中の注入、鼻からの注入、といったいくつかの形態があります。

現在、糞便移植によりがん患者の腸内微生物叢がどのように補充されるかが研究されています。ある種のがん治療には、善玉腸内微生物叢の数や多様性を減らすといった副作用を伴うことが多く、例えば、このような善玉腸内微生物叢がないと、同種骨髄/幹細胞移植を受けた人は移植片対宿主病と呼ばれる深刻な副作用を伴う可能性が高くなります。移植片対宿主病は、患者の体内に移植された幹細胞が体内の健康な細胞を異物とみなして攻撃し始めることで起きます。

現在、糞便移植により善玉細菌を補充できるかどうかを確かめる臨床試験が進行中です。糞便移植についての重大な懸念は、悪玉の薬剤耐性細菌を移植してしまい、それが体を攻撃してしまう可能性があることです。糞便移植は実験段階でありFDAの承認は受けていません。

あなたの微生物叢の多様性と健康を維持するための最も良い方法について質問があるときは主治医に相談してください。あなたが考えているかもしれない選択肢について、起こりうるリスクと利益を話し合うことができるでしょう。

翻訳担当者 伊藤彰

監修 大野智(補完代替医療、免疫療法/島根大学・臨床研究センター)

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