小児神経芽腫治療の進展が示された臨床試験

進行した神経芽腫の多くの子供にとって、治療の一環として2回の幹細胞移植を受けることは、単回移植よりも有益であった。これは、NCIがサポートする小児がん臨床試験グループ(COG:Children’s Oncology Group)が実施した臨床試験の結果によって示された。

この臨床試験の対象となった子どもは、特に悪性度が高く治療が困難な高リスクの神経芽腫の小児である。数週間開けて2回の移植を行った子どもは、単回移植よりも、がんの進行や他のがん関連の問題の発症もみられない無イベント生存期間が大幅に改善した、とシアトル小児病院のJulie Park医師と彼女の研究チームが8月27日のJAMA誌で報告した。

しかし、タンデム移植と呼ばれる2回の移植は、より強力な治療であり、タンデム移植を受けた子どもでは、入院がより長期間となったと研究者らは報告した。ただし、副作用がよりひどいということはなかった。

はじめにこの臨床試験結果が発表されたのは3年以上前の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で、それ以来、タンデム移植(今回の試験で行われたものと同一の導入療法および移植前処置+化学療法レジメンを併用する)は、米国における高リスク小児神経芽腫の標準治療となったと、NCIがん治療評価プログラムの小児固形腫瘍治療学の責任者であるNita Seibel医師は説明した。

さらなる進展や治療の選択肢が見込めそうである、とSeibel氏は続ける。他の治療アプローチもそれぞれ、高リスク神経芽腫の子どもにとって期待できるものであり、NCIは、COG主導によるこれらの治療アプローチを検証する臨床試験を支援している、と同氏は述べる。

「したがって、タンデム移植を現在の標準としながら、代わりとなる治療アプローチがこのような子どもの転帰をさらに改善できるかどうか、私たちはさらに多くの情報を得ようとしています」と語る。

より強力な治療の傾向が続く
米国では、毎年約800人の子どもが神経芽腫と診断されている。子どもの脳以外の固形腫瘍としては最も多くみられる。神経芽腫は未熟な神経細胞に由来し、腫瘍はしばしば腹部内および腹部付近、ならびに脊椎に沿った胸部または頸部に発生する。

神経芽腫と診断された子どもの約半数は、高リスクであると判断される。そのがんが高リスクとみなされるのは、がんが拡がっているか、特異的な遺伝子変異があるか、など、さまざまな特徴による。

長年、高リスク神経芽腫は、ほぼ治療不可能だと考えられていた。非常に悪性度が高く急速に致死的となるため、再発を防いだり遅延することができる治療の開発は、最優先事項であったとSeibel氏は述べる。つまり長い時間をかけて行われる治療はより複雑に、より強くなり、治癒率を50%以上まで押し上げた。高リスク神経芽腫患者の治療は、始めに複数の薬剤による化学療法レジメンと、可能な場合は原発腫瘍を外科的切除する導入療法を行う。次に、きわめて高用量の化学療法、および、保存しておいた患者自身の幹細胞を注入して自家移植をする地固め療法を行う。続いて、原発腫瘍部位、また時には転移部位に対して、放射線治療を実施する。最後に地固め療法後の治療を行うが、これは一般的にはisotretinoinと、免疫療法の薬剤であるジヌツキシマブ[dinutuximab](商品名:Unituxin)を併用する。

Seibel氏は、「治療は間違いなく複雑です」と述べる。「常に治療を提供することと、過度の毒性を回避することのバランスが慎重に保たれます」。

免疫療法が成功する機会を増やすか
10年以上前、何件かの小規模な臨床試験によって、高リスク神経芽腫患者に対してタンデム移植が期待できると示された後、小児がん臨床試験グループ(COG)は、タンデムアプローチが単回移植よりも優れているかどうかを明らかにするための大規模試験を開始したのであった。

試験参加者全員が同じ導入化学療法レジメンおよび外科的手術を受けた。続いて、導入化学療法後にがんが進行しなかった子どもを、1回の自家幹細胞移植を行う群か、タンデム移植を行う群に、無作為に割り付けた。

2007年から2012年の間に、650人以上の子どもが試験に登録された。しかし、1回もしくは2回の移植を行う群に無作為に割り付けられたのは、355人のみであった。いくつかのケースでは、子どものがんが進行したり、幹細胞移植を受けるほど健康ではなくなったのが理由である。より多くのケースでは、最初に登録した子供たちは、家族が2つの治療群のうちの1つに無作為に割り付けられることに反対したため、試験から去った。

それは予期できないことではなかった、と今回の試験の上級研究員であるダナファーバーがん研究所のLisa Diller医師はいう。「家族が下そうとしているのは、生命にかかわる疾患についての大きな決断なのです」と同氏はいう。そして、特に治療がさらに強いものとなるため、「きわめて難しい決断です」と述べる。

追跡期間中央値3年間で、治療グループに無作為に割り付けられた子どもの無イベント生存率は、タンデム移植群で61.1%、単回移植群で48.4%であった。

全生存期間の改善はみられなかったが、今回の試験は転帰の改善を調べるためにデザインされたものではなかった。理由の一つとして、再発がみられた場合は、ただちに新しい治療に移行するが、新しい治療の効果がどう生存率に影響するか、初期治療から紐とかねばならないことが問題となる、と研究チームは述べる。

試験に参加した多くの子どもは、ジヌツキシマブによる治療に進んだが、試験期間中、ジヌツキシマブは、高リスク神経芽腫の子どもに有効なものとして浮上してきていた。今回の試験でジヌツキシマブによる免疫療法を受けた子どもは、事実、FDAが高リスクの子どもに対してジヌツキシマブを承認することになった別のCOG試験の一環として、この薬剤の投与を受けた。

Park氏と研究チームらは、ジヌツキシマブの投与も受けた試験参加者のみを抜き出して生存率を調べることにした。タンデム移植を受けた子どもは、免疫療法を受けてから3年後、無イベント生存率(73.3%対54.7%)と全生存率(84%対73.5%)が、単回移植の子どもと比較して、大幅に改善された。しかしこの分析も、今回の試験の一環としては計画されていなかったものである。

タンデム移植後にジヌツキシマブの治療を受けた群の生存率が改善したのは、いくつかの要因によると考えられる、と試験の研究者らはいう。例えば、タンデム移植は、単回移植よりも体内のがんの範囲を減らすことにより、免疫療法による疾患の制御を改善させたことが考えられる、と述べる。

言い換えれば、「[免疫療法]にお願いする仕事を減らしてあげるのです」、とDiller医師はいう。しかし同氏はまた、「別の説明も考えられ」、何が起こっているのかを理解するためにはさらなる研究が必要である、と注意を促した。

生存率の改善と副作用の低減を目指し続ける
全体として今回の結果は、「このプレシジョン医療の時代においても」「高リスク神経芽腫の多くの患者に対して」タンデム自家幹細胞移植を行うべきであることを明らかにした、とフィラデルフィア小児病院のRochelle Bagatell医師、トロントの小児病院(Hospital for Sick Children)のMeredith Irwin医師は、JAMA誌の付随論説の中で述べた。

しかし、タンデム移植の優れた有効性は、今回の試験で行われた導入療法や地固め療法後治療の流れの中で考えられなければならない、と同氏らは忠告する。他の治療アプローチが、より効果的で、より毒性が低いことが判明する可能性がある、と同氏らは書いている。

欧州では例えば、多くの臨床医が現在高リスク神経芽腫の子どもの治療に単回幹細胞移植を行っているが、COGの臨床試験とは異なる導入療法および移植前処置レジメンが用いられている。大規模な国際臨床試験では、欧州式導入療法後に(欧州式の移植前処置レジメンによる)単回移植を受けた子どもでは、欧州式導入療法後にCOGの臨床試験で用いられる前処置レジメンによる単回移植を受けた子どもよりも、大幅に無イベント生存率が改善した。

COGは実際、高リスク神経芽腫と新に診断された子どもに対して、第3相臨床試験を開始し、子どもを5つの治療群に分け、そのうちの1群は、欧州で用いられている前処置レジメンを受けることになっている。

この試験は、別の薬剤I 131 MIBG [イオベングアン](商品名:Azedra)も含むが、これは治療早期に再発した神経芽腫の子どもに対する臨床試験において現在検証中の薬剤である。現在進行中のCOGの臨床試験では、放射線を直接がん細胞に送達させるI 131 MIBGが導入療法の一環として試験されている。今回の臨床試験では、腫瘍に特定の遺伝子変異がみられる子どもに対する分子標的薬クリゾチニブ(ザーコリ)についても調査している。

小規模で初期段階のCOG試験では、標準の導入化学療法にジヌツキシマブの追加投与について試験中である。

これらの臨床試験に関しても、進展が必要な重要な分野がある、とBagatell氏とIrwin氏は述べている。タンデム移植に伴う「強力な治療により、高リスク患者全員が同様に利益を受けられるのかどうかは現在の時点ではっきりしないのです」と、同氏らは強調する。

したがって、今後の重要なポイントは、完了した試験や進行中の試験から得た腫瘍およびその他組織標本の、データや分析結果を利用し、「個々の患者の腫瘍で何が起こっているか、また、治療に対する腫瘍の奏効率の個人差をより生物学的に理解することです」とDiller氏は述べる。

そうすることで研究者らは、より強力な治療が必要であったり、特定の治療に奏効する可能性が高い高リスク患者のバイオマーカーやサブグループを同定できると考えられる。

「しかしそのためには、より多くの患者さん、多くの研究、それから間違いなく国際共同研究が必要となるでしょう」と同氏は述べる。

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高リスク神経芽腫についてもっと知る
研究者らは、高リスク神経芽腫の子どもの転帰をさらに改善することを目的とした臨床試験を行い、治療がサバイバーに与えた影響について現在進行中の試験を含めてさらなる研究を行っている。

第3相試験:I-131 MIBGまたは標準治療の一部としてのクリゾチニブ(英語)

第1/2相試験:初期治療の一部としてのジヌツキシマブ(英語)

集団ベース研究:治療後の影響について知る(英語)

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翻訳担当者 平沢沙枝

監修 吉原 哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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原文掲載日 

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