かつて失敗作と呼ばれた血管新生阻害薬ががんの増殖を止める/ハーバード大学GAZETTE

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かつて失敗作と呼ばれた血管新生阻害薬ががんの増殖を止める
By William J. Cromie 2005/7


ハーバード大学 GAZETTE Harvard News Office

癌の成長は、それらに血液を送るための毛細血管をブロックすることで止めることができる、縮小さえ可能であると1960年代にジューダ・フォークマン(Judah Folkman)が主張したとき、誰も信じなかった。しかしながら、長年彼は自説を否定する専門家たちの批判にも屈せず、自らが予見した薬剤の開発に勤しんだ。

1998年、彼が研究室で開発したいくつかの血管成長阻害剤のひとつエンドスタチンが、さまざまな癌を「治癒する薬」としてメディアに大きく宣伝された。そしてそのわずか7年後、フォーチュン誌はそれを「失敗作」だと嘲った。どちらの文言も行き過ぎた誇張表現であった。

ボストンのハーバード大学医学部(Harvard Medical School)とChildren’s Hospitalの小児外科と細胞生物学教授であるフォークマンは、今日の科学情報誌(一般誌ではないが)を見て興奮した。フォーチュン誌が失敗作と呼んだエンドスタチンが、中国で486人の肺癌患者の治療に用いられたのだった。ボストンのDana-Farber Cancer Instituteでは、薬を服用していた4人の成人患者に新たな人生を与え、また脳腫瘍他の癌の子供たちに恩恵を与えている。

関連薬アバスチンは2004年2月米国で承認され、以来27の他の国で大腸癌治療に許可されている。アバスチンはまた、腎臓癌、乳癌、卵巣癌患者に対する試験が行われている。また、同じく血管成長ブロッカーのタルセバは米国で肺癌治療に承認された。

研究者らは、血管の過剰成長と老人の失明の主な原因である黄斑変性症との関連をつきとめた。FDAもこれらの患者に血管新生ブロッカーが効くことを認め、2004年12月、その用途にmacuganと呼ばれる薬剤を承認した。ジェネンテック社のアバスチンも黄斑変性症に有望であることが示されている。

一般的な抗生物質のドキシサイクリン(doxycycline)も抗血管成長の特性をもつことがわかった。広く用いられている鎮痛剤セレブレックス(セレコキシブ)も同じである。

30から40もの血管成長阻害剤がさまざまな癌種の患者で試験中である。またさらに多様な薬剤が他の疾病の治療に開発中である。毎週、生みの親であるフォークマンはそれらの薬剤の嬉しい研究報告を目にするが、彼自身は勝ち誇ったり、弁明に大声を上げたりする人間ではない。「これは、大きく動きの早い分野だ。このような超高速の進歩を目にするのはわくわくするね。」と、彼は穏やかに言った。

アップ、ダウン、そしてまたアップ

フォークマンは、高校生の頃、オハイオ州の自宅地下室でマウスの心臓から血液を送る手製のポンプを作り、医学に大革命をもたらす人物である片鱗を見せた。1950年代の医学生の頃には、フォークマンは友人の1人とともに弱った心臓を正常のリズムに戻すためにショックを与える埋め込み式ペースメーカーを作った。しかし、今の彼の人生を支配する発見をしたのは1961年であった。

フォークマンとそのグループは、マウスの悪性腫瘍を、体から取り出した臓器に移植しても針先ほどのサイズ以上には成長しないことに気づいた。しかし、それらの腫瘍を生きた動物の体内に再移植すると、あっという間に腫瘍は広がった。このことからフォークマンは、腫瘍はその栄養を獲得し老廃物を運び出すために、髪の毛ほどの細さの血管を成長させる蛋白質を分泌しているという当時としては急進的な考えを思いついた。彼はこのプロセスに‘アンジオジェネシス’(血管新生)-血管の誕生の意-と言う言葉を用いた。

2005年、血管新生の存在やその癌における重要な役割に異論を呈する科学者や医者はいないが、1970年代前半にはフォークマンの考えは痛烈な批判を浴びた。一部の専門家からは「幻想である」とレッテルを貼られた。

1997年までに、 ボストンのChildren’s Hospitalでフォークマンとそのグループは、血管の成長をブロックして腫瘍を縮小させしながら通常の化学療法のような重い副作用のない天然物質エンドスタチンを発見した。

しかしながら、この薬の効果に関するバトルはいまだ鎮火しない。1998年にはその薬を製造した会社EntreMedの株価は381%に跳ね上がった。しかし、その会社は破産し、エンドスタチンの製造は中止された。

フォークマンは言う。「医師がどのように抗癌剤の成功と失敗を判定するかという大きな問題がまだ残っている。腫瘍が50%以下に縮小した場合に、その治療は「部分奏効した」と判定され、50%以下だと「奏効しない」と判定される。エンドスタチンは一部の患者で3年以上の期間、癌の進行を止めた、もしくは非常にゆっくりと腫瘍を退縮させた。その縮小は50%以下の奏効ではあるが、一部の患者は仕事に復帰し、ゴルフを楽しんでいる。3年半の間、薬を投与している患者のうち4人は現在も普段と変わらない人生を楽しんでいる。「その患者らは、エンドスタチンが失敗作だったというメディアの報告にがっかりしている。」と、フォークマンは述べた。ハーバード関連のChinldren’s HospitalやDana-Farber Cancer Instituteの医師らは、ほしいだけ薬が入手できるわけではない。Children’s HospitalのMark Kieran氏は、小児の脳、骨、筋肉などの多様な固形腫瘍にエンドスタチンをテスト中である。

ブームがきた

メディアの評判も良好なアバスチン(一般名ベバシズマブ)は、フォークマンのこの33年の研究が正しいものであったことを証明した。「アバスチンは、腫瘍に養分を運ぶ血管のネットワークをターゲットにすることで腫瘍を効果的に抑制することが可能であると証明した。」Dana-Farber Cancer Instituteで患者を治療しているハーバード大学医学部準教授Joseph Paul Eder氏は述べた。

その薬は大腸癌治療における成功により、世界中で政府から承認を受けた。門戸が開くとともに、研究者らは他の癌種の治療を試みている。Leonard Appleman氏は、Dana-Farberにおいて腎臓癌のテスト中である。同施設のHarold Burstein氏は、乳癌女性の臨床試験をほぼ終えており、12月には報告の予定である。他の研究者は卵巣癌を治療している。

結果はどれも公式には発表されていないが、その試験の関係者らは、単独または化学療法との併用薬アバスチンは、血管新生阻害剤のブームがやってきたことを表しているという。これらの薬に何年も関わってきたある科学者(身分を公表するのを望まない)は、「もし、私が癌になったら、エンドスタチンやアバスチン、またはその両方を使用したいね。」と述べている。

[フォークマン氏の写真 (原文参照)]
ジューダ・フォークマンは癌腫瘍(額写真の左)への血管(右)の成長をブロックすることで、腫瘍の成長を止める、または縮小させるという概念を築いたパイオニアだ。30年もの長い論議の末、彼の研究室で開発された薬は、彼が正しかったことを証明しつつある。(Staff photo Jon Chase/Harvard News Office)

(野中希 訳・榎本 裕(泌尿器科)監修 )

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