思春期小児および若年成人(AYA)のがん治療に関する意識調査

思春期小児および若年成人のがん患者には治療によって年齢特有の問題が生じる

Journal of Adolescent and Young Adult Oncology誌に掲載された論文によると、思春期小児および若年成人(AYA)のがん患者は、小児用や成人用のいずれかの施設ではなく、自分たちの年齢層に合った環境でがん治療を受けたいと考えている。こうした環境には、彼らが受けている治療や将来への影響だけでなく、AYAの問題にも熟知し十分な訓練を受けたスタッフが含まれる。

最近では、ケアと治療について、成人の介護者が若年層の意見を代弁していた状況から、AYA患者の意見を直接求める方向へと変化してきている。現在の見解は、AYA向けの医療構想の中心に、利用者が関わるというものである。

このため、Leeds Teaching Hospital Trustの聖ジェームズがん研究所(St. James’s Institute of Oncology:英国・リーズ)に所属するLucy J.W. Jones氏と、欧州小児若年成人研究ネットワーク(European Network for Research in Children and Adolescents:ENCCA)の共同研究者らは、欧州におけるAYAの全体像を把握するため、AYAのケアと彼らに対する医療の研究の優先順位に関して、欧州のAYAの意見を調査した。調査では、英国のAYA腫瘍専門医が作成したアンケートを欧州の11カ国語に翻訳し、欧州25カ国のAYAに配布した。

解析には、回答者301人のデータを用いた。回答者が多かった国はルーマニア、イタリア、フランスで、それぞれ65人、45人、34人だった。診断時の平均年齢は16歳(2〜24歳)で、治療終了時の平均年齢は22歳(13〜49歳)だった。大半の回答者は造血器腫瘍か肉腫の治療を受けており、半数近くが化学療法を受けていた。調査時点では、ほとんどの回答者が学生か被雇用者で、大多数が親と同居していた。

年齢別の施設で治療を受けたのはAYA10%未満

回答で明らかになったのは、彼らの年齢層の専用施設で治療を受けたAYA患者がほとんどいないことで、AYA専用の病棟を使用した回答者はわずか9%であった。治療中、回答者の62.5%が小児病棟に収容されて治療の一部を受けており、25.9%が成人病棟に入院していた。AYAの回答者で成人病棟で治療を受けた人の割合は診断時の年齢が上がるにつれて増加し、2〜12歳では12.2%、13〜16歳では17.1%、17〜19歳では32.4%、20〜24歳のがん患者では80.4%が、成人のがん患者用施設で治療を受けていた。

これは、AYA向けのケアに最適な年齢が16〜20歳であり、平均して19歳を小児病棟には「年長すぎる」とし、18歳を成人病棟には「若年すぎる」とする回答者の共通認識とは正反対の状況である。

アンケートにみるAYAに特化した医療の必要性

回答者の3分の2が、AYAに特化した医療が必要であることに賛同した。がん診断時の年齢が、AYAに特化した医療への賛否に大きく影響し、2つの年長層(17〜19歳、20〜24歳)の患者では年少層の患者に比べて、賛成する割合が特に高かった(p <0.004)。

AYAのがんケアについて回答者がもっとも重要として挙げたのは、心のケア、若い職員や理学療法士、十分な人員、AYAのニーズを理解しコミュニケーションに長けた医療従事者であった。彼らは有能なスタッフを求める一方で、親しみやすくポジティブで信頼でき、なおかつAYAのニーズを理解できる資質と専門性を備えたスタッフを特に重要視した。

AYAに特化した医療の重要な要素は、「人員」「設備」「治療」「環境」「活動」などであった。AYA患者らは理学療法士などの高い専門性を備えるスタッフや、心のケアが受けやすいことを望んでいた。その他に重視するものとして、快適な調度品、リラクゼーションエリア、屋外スペース、年齢に合った映画や音楽、ゲームなどが挙がった。

自分の治療と将来への影響について情報を求めるAYA患者ら

アンケートに回答したAYA患者らの要望は、介護者が自分のがんや治療について熟知しており、その情報を自分の年齢に適した言葉で伝えてくれることだった。また、介護者が妊よう性や身体イメージの問題について精通していることも望んだ。

AYAらの回答によると、今後研究すべきものは「治療後のモニタリング」「専門家と若年者とのコミュニケーション」「がんの研究」「妊よう性の温存」「復職や復学についての情報」などだった。

AYAの大半は国際人権憲章を知らない

AYAは、がん治療を受けている患者の基本的な権利を述べた国際人権憲章の内容に賛同したが、彼らの大半がその存在を知らなかった。

結論

著者らは、今回のプロジェクトを遂行する上で欧州のAYA患者らと専門家との協力は実行可能なものだったと結論づけたが、国際人権憲章が欧州で影響力を持つには、より広範に普及させる必要があると指摘した。

加えて、この研究で得た知見が、医療を受けるAYAの視点を重視した医療文化の発展に役立ち、ケアに関する問題と改善法や、将来の研究分野への提案など、AYAが重要だと考える事項に対する理解をもたらしたと指摘した。著者らは、今回の調査結果を北米およびオーストラリアと比較することが、AYAのケアに関する今後の研究に役立つ可能性があると示唆している。

また、今回の調査はAYAの専門家の経験に基づく質問であったため、AYA患者に特化した既存の患者報告アウトカム尺度を使用して、この集団の経験を調査するのは興味深いと考えられる。

情報開示

研究・技術開発・実証に関する欧州連合第7次フレームワークプログラムによる支援が公表された。

参考文献

Jones LJW, Pini SA, Morgan SJ, et al. How Do Teenagers and Young Adults with Cancer Experience Their Care? A European Survey. Journal of Adolescent and Young Adult Oncology 2017;6(1):102-110.

翻訳担当者 筧貴行

監修 北丸綾子(分子生物学)

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原文掲載日 

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