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移植前の放射線や化学療法が不要な新しい幹細胞移植方法

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移植前の放射線や化学療法が不要な新しい幹細胞移植方法

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

 

スタンフォード大学医学部の研究者らは、マウスを使った概念実証研究において、最初に放射線療法や化学療法を行わない造血幹細胞移植(骨髄移植ともいう)に成功した。

 

通常、移植前に骨髄に存在する幹細胞を除去するために放射線療法や化学療法を実施するが、今回の概念実証研究では、患者の体に負担のかかるこうした前処置療法の代わりに、2種類の生物学的製剤を使用した。これらは、移植を受けるマウスの造血幹細胞を選択的に除去するが、他の組織や器官には損傷を与えなかった。

 

この技術をヒトに応用することができれば、「現状では骨髄移植の前処置療法に十分に耐えられない患者(虚弱な 高齢者など)にも、造血細胞移植を実施できる可能性が出てきます」と、NCIがん療法評価プログラムのRichard Little医師(今回の研究メンバーではない)は話す。

 

研究結果は、8月10日Science Translational Medicine誌で公表された。

 

新しい幹細胞の妨げになるものを除去

 

幹細胞移植は、白血病やリンパ腫などの血液腫瘍を主とする複数種類のがんの患者にとって救命治療となり得る方法である。

 

しかしながら、その治療は患者にとって時に過酷なもので、危険を伴う可能性もある。移植前に、骨髄に存在する幹細胞を死滅させるために放射線治療や化学療法を行うことが多い。これは、移植後にドナー幹細胞が成長し、正常な血液細胞を体内に供給する(この過程を生着という)安全な場所を確保するための前処置である。また、遺伝的に似ているが同一ではないドナーからの造血幹細胞移植(同種移植)の場合には、こうした前処置療法は、移植された細胞に対する免疫反応の抑制に役立つ。

 

しかし、前処置療法は患者の造血幹細胞だけではなく正常な細胞や組織にもダメージを与えることがあり、その結果、感染症、呼吸障害、臓器障害などの副作用が起こり、ごく一部の患者では死に至る可能性もある。

 

本研究の統括著者Judith Shizuru医師(博士)の説明では、移植前処置が正常細胞に及ぼすダメージを少なくすることができれば、その治療法をがんだけではなく他の疾患にも適用できる可能性がある。適用例として、血液細胞や免疫細胞の機能不全による疾患(自己免疫疾患、異常ヘモグロビンを特徴とする鎌状赤血球貧血やサラセミアなどの血液障害など)の治療、遺伝子治療や組織移植の改良がある。

 

スタンフォード大学の研究チームなどによる先行研究から、造血幹細胞が多くの正常細胞機能のために使うタンパク質c-kitを標的とする生物学的製剤は、免疫系機能に異常があるマウスにおいて造血幹細胞を除去することが実証されている。しかし、それ以前の研究では、免疫系が正常なマウスにおいて、上記タンパク質を標的としても造血幹細胞を除去することはできなかった。

 

そこで、同研究チームでは、c-kitに加えて第2のタンパク質CD47を標的とした場合、免疫系が正常なマウスにおいて造血幹細胞を除去できるかどうかを検証した。CD47は、造血幹細胞および他の数種類の細胞の「自己マーカー」として作用し、免疫系にそれらの細胞を攻撃しないように命令する。特別にデザインした分子でCD47をブロックすることにより、造血幹細胞がc-kit標的薬の効果を受けやすくなることを研究者らは期待した。

 

2剤の組み合わせはうまく作用した。免疫系が正常なマウスに2剤を投与した結果、標的とした造血幹細胞は10,000分の1に減少し、「もはや計測できない」レベルになったと、本研究の筆頭著者Akanksha Chhabra氏(博士)は話す。

 

追加実験では、免疫系が正常なマウスに2剤またはc-kit標的薬単剤のいずれかを投与した後、一部変更した方法で の自家幹細胞移植を実施した。2剤を投与したマウスは、c-kit標的薬のみを投与したマウスと比較して、骨髄におけるドナー幹細胞の生着が100倍であり、移植された造血幹細胞から作られた正常細胞が血液、脾臓、骨髄、胸腺で検出された。

 

さらに研究者らは、ある種の同種移植において一般的移植アプローチがうまくいくかどうかをマウスで検証した。移植された細胞を免疫系が攻撃しないように、マウスには2剤による移植前処置および生物学的製剤の追加投与を行って免疫細胞(T細胞)をできるだけ減らした。移植は成功し、ドナー細胞は移植レシピエントの骨髄でうまく定着し、正常な血液細胞と免疫細胞を生成した。

 

臨床試験に向けて

 

c-kitとCD47を標的とする薬剤は、健康なボランティアやがん患者が参加した試験でそれぞれ検証されており、重大な副作用は認められなかったと、Shizuru医師は説明する。さらに研究チームはこのほど、重症複合免疫不全の小児患者向けc-kit標的薬を用いる臨床試験の患者登録を開始した。Chhabra医師の補足説明によれば、マウスではc-kit抗体により毛の灰色化や精子数減少が認められる例があったが、「治療中止後に精子数は元に戻った」とのことである。今回の研究では、妊孕性への長期的影響の検証は行われなかった。

 

次の段階は、人間以外の霊長類における造血幹細胞移植の前処置としての上記2剤の併用を検証することであるとShizuru医師は話す。これらの薬剤は単剤としては人間での安全性検証がすでに始まっているため、造血幹細胞移植前2剤併用に関する初期臨床試験は3~5年以内に開始されると同医師は予測する。

 

「今回の研究のゴールとして私たちが明らかにしたいことは、血液と骨髄の移植方法を遠からず変える過程にあるということです」とShizuru医師は話す。「今後、移植はより安全に行えるようになり、より多くの患者さんがこうした治癒可能性のある細胞療法を受けられるようになると予測しています」。

原文掲載日

翻訳山田 登志子

監修吉原 哲(呼吸器内科/日本医科大学付属病院 がん診療センター)

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