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HotSpot3Dツールの開発により’遺伝子変異-薬剤標的’解析が可能に

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HotSpot3Dツールの開発により’遺伝子変異-薬剤標的’解析が可能に

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向

 

新規に開発された解析ツールにより、新薬または既存薬の標的となる可能性があるがん細胞における既知の遺伝子変異の数が増える可能性がある。

 

研究者らは最近、HotSpot3Dという解析ツールにより、遺伝子変異がタンパク質の機能と相互作用の様式を変えてがん化を促進する過程の3次元モデル化を実現したことを発表した。また、それにより、既存薬の標的となる可能性がある800件超の新たな遺伝子変異を特定することができたという。

 

2016年06月13日、Li Ding博士およびFeng Chen博士(セントルイス・ワシントン大学)が主導したHotSpot3D開発研究チームは解析ツールを使用したこの最初の大規模研究の結果をNature Genetics誌に発表した。

 

2次元の指示、3次元の機能

 

 DNAは細胞に直線的な一連のタンパク質産生のための指示をする。しかし、細胞はこうした指示書を使ってタンパク質を産生する際、タンパク質は自然にその機能を決める複雑な立体構造に折り畳まれる。

 

直線的に互いに遠く離れているDNA(DNA鎖上で互いに遠く離れている)の変異が、タンパク質が活性を示す構造に折り畳まれる時点で、その近くに位置するタンパク質の部位をコードしていることがある(そして、互いの機能に影響を及ぼす可能性がある)。遺伝子変異に由来するタンパク質構造の変化が、それらのタンパク質の活性を制御する他のタンパク質や低分子との相互作用に影響を与える可能性もある。実例として、タンパク質がその正常な細胞にある受容体や制御分子と結合することができないと、分子経路におけるシグナル伝達系に異常が生じ、最終的には細胞分裂が制御されなくなり、腫瘍が発生する可能性がある。

 

タンパク質の構造に対する遺伝子変異の影響の側面の一部を解析するツールはこれまでも存在した。しかし、Ding氏とChen氏はがんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas;TCGA)のために膠芽腫標本のゲノム配列を解析している間に、本研究のためにさらに改良されたツールをすぐに開発する必要があることに気付いた。

 

「私たちは心から遺伝子変異の相互作用機序を、さらに重要なことですが、遺伝子変異と薬剤との相互作用機序も理解したいと思ったのです」とDing氏は述べた。

 

そこで、開発研究チームは10年近くにわたって進行中のプロジェクト内で、TCGA から得られた遺伝子変異データを、タンパク質構造を目録化した2つの大規模公開知的資源へ紐付けるためにHotSpot3Dを作成した。HotSpot3Dはこうした知的資源を利用して、遺伝子変異が、(単一タンパク質における領域間の)分子内相互作用、(複数のタンパク質間の)分子間相互作用、および(タンパク質とその活性を抑制または亢進するよう設計された薬剤の間の)薬剤―タンパク質間相互作用という異なる3種類のタンパク質の相互作用に及ぼす影響を3次元モデル化する。

 

「ゲノム配列の解析データにおいて、がん標本で検出される(DNA)変異は膨大な量になる傾向があります」とChen氏は述べた。「機能的影響はわずかなDNA変異もあれば、実際にがんのドライバーになる変異もあります」。どのDNA変異が実際にタンパク質の折り畳みと機能を変えるのかを知ることで、HotSpot3Dはさらなる解析対象の候補となるDNA変異を絞り込む手助けをすることができるとChen氏は説明した。

 

分類作業の迅速化

 

Nature Genetics誌によると、研究者らはHotSpot3DをTCGAによるゲノム配列解析を受けた腫瘍標本4,400個超に適用した。これらの腫瘍標本では19種類の腫瘍における約500,000種類の遺伝子変異が認められた。HotSpot3Dは遺伝子変異によって、一部は稀な変異によって引き起こされる、がん発生にとって重要になる可能性がある分子内相互作用と分子間相互作用6,000件超を特定した。

 

HotSpot3Dは、薬剤-タンパク質間相互作用を比較することでBRAF阻害剤などの既存の薬剤の標的の可能性がある遺伝子変異800件超も特定した。遺伝子変異により変化したタンパク質構造と結合する可能性があるとHotSpot3Dが予測した薬剤の多数は、既存の抗がん剤ではなく抗炎症薬、カルシウム拮抗薬、および抗痙攣薬などの他の薬剤である。

 

研究室における概念実証実験として、研究者らは数種類のがんでよく知られているドライバーである、EGFRというタンパク質に影響を及ぼす可能性があるとHotSpot3Dが予測した複数の遺伝子変異を特定した。細胞株では、数件の遺伝子変異は、DNA上ではEGFR遺伝子から遠く離れているものの、通常より高いEGFR活性を示した。

 

どのようなHotSpot3Dによる結果でも実験検証が必要になるだろうが、HotSpot3Dは研究者らが特定の腫瘍で認められる多数の遺伝子変異を迅速に分類し、より詳しく研究するべきゲノム領域を見出す手助けとなりうるとJacqueline Milne博士(NCIがん研究センター電子顕微鏡コア長)は論評した。

 

この種類の遺伝子変異―薬剤解析はがん以外の疾患に対する治療計画を含む個別化治療計画の開発に使用される可能性があるとDing氏とChen氏らは記述した。こうした解析は、研究者らによる既存のFDA承認薬剤の再利用も導きうるとMilne氏は言い添えた。

 

HotSpot3Dで特定された遺伝子変異の多くに対する分子標的薬は存在しないが、さまざまな腫瘍由来の遺伝子変異の一群が全て特定のタンパク質のある立体空間に影響を及ぼすとなると、医薬品開発技術者はこうした領域を詳しく研究することに強い関心を抱くかもしれないとMilne氏は結論付けた。

 

HotSpot3D解析ツールは、遺伝子変異(球状の塊)がタンパク質(らせん状のリボン)の構造にどのように影響を及ぼすか、およびこうしたタンパク質がどのように薬剤と相互作用するかを3次元モデル化する。
解説:セントルイス・ワシントン大学/Li Ding博士およびFeng Chen博士

原文掲載日

翻訳渡邊 岳

監修花岡 秀樹(遺伝子解析/サーモフィッシャーサイエンティフィック)

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