ニボルマブが、難治性または転移性肛門がんに効果

MDアンダーソン主導、転移性肛門がんに対する初の免疫療法

MDアンダーソンがんセンター ニュースリリース

治療歴のある転移性肛門管扁平上皮がん(SCCA)患者を対象とした初の臨床試験で、大半の患者に免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ (商品名:オプジーボ) が有望性を示したことが、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターによる研究で明らかになった。

本試験は、この患者集団に対する免疫療法を初めて調査した試験でもある。米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で、MDアンダーソンがんセンター消化管腫瘍内科教授で本試験の全米臨床試験責任医師であるCathy Eng医師が、前向き第2相試験の調査結果を発表する予定である。

アメリカがん協会は、2016年には米国で8,000人超が肛門がんと診断され、1,000人超が同疾患で亡くなると予想している。診断された患者のうち、約20%が転移性肛門管扁平上皮であり、早期と診断された患者で後に転移性肛門がんとなる患者がさらに20%いるとEng医師は説明した。

「これは希少な悪性腫瘍ですが、罹患率は増加傾向にあり、HPVウイルスと深い関係があります」と、本試験の統括著者で、MDアンダーソンがんセンターのHPV関連がんムーンショット計画 (HPV-related Cancer Moon Shot)共同責任者である Eng医師は述べた。「転移性肛門がん患者には標準治療の選択肢がないため、初回の治療で効果がえられなかった患者さんの、次の治療を受けたいという要望へいまだ応えられない状況です」。

ニボルマブは、特定の標的をもつ細胞、ウイルスやバクテリアを見つけて攻撃する白血球細胞であるT細胞上で、PD-1と呼ばれるタンパク質の活性化を阻害し、免疫システムのがん攻撃を促進する。PD-1は、活性化したT細胞の活動を停止させるブレーキまたはチェックポイントとして働く。PD-1は、がん細胞や他の種類の細胞にしばしば見られるリガンド PD-L1によって活性化する。

米国国立がん研究所(NCI)の実験治療学臨床試験ネットワークおよびがん治療評価プログラム (Experimental Therapeutic Clinical Trial Network and Cancer Therapy Evaluation Program)を通じて行われた本臨床試験NCI9673には39人の患者が参加し、そのうち37人の患者は治療中であった。MDアンダーソンがんセンターは18人の患者を登録した。患者は全員、治療歴があるが、免疫療法の経験者は含まない。PD-L1の発現は臨床OS)、無増悪生存率 (PFS)、毒性は二次評価項目であった。

本試験は急速な集積率のために開始後5カ月以内に終了し、この患者群の治療要望が満たされていないことを明確に示した。

本臨床試験は、HIV陽性患者やB型またはC型肝炎患者も組み入れて完了した最初の抗PD1試験であることにも留意すべきである。本試験には2人のHIV陽性患者が参加した。

「免疫抑制状態はこの疾患の危険因子として知られています。HIVは患者の免疫システムを易感染性にするため、肛門がんの明確な危険因子となります」とMDアンダーソンがんセンターの消化管腫瘍内科助教Van Morris医師は述べた。「この疾患の典型的な患者群を組み入れることは重要でした」。

患者全員にニボルマブが2週間ごとに投与された。治療意図に基づく反応が評価可能であった37人の患者のうち、2人(5%)が完全奏効、7人(19%)が部分奏効、17人(46%)が病態安定を示し、70%の病勢コントロール率であった。無増悪生存期間の中央値は3.9カ月であった。6人の患者が試験を続行している。もっとも頻繁にみられる有害事象には疲労、貧血および発疹があり、間質性肺炎が1件あった。

「われわれの発見は、標準の治療法がない患者にとって胸躍る前進の一歩です。研究をさらに進めて、免疫療法剤の併用をさらに検討するつもりです」とEng医師は述べた。

研究者らは6月下旬にESMO消化器がん学界会議で、追加のバイオマーカーサンプルに関する報告も行う。MDアンダーソンがんセンターの研究員らは4月にAACRで先行相関研究を発表した。

Eng医師とMorris医師のほかに、 MDアンダーソンがんセンターからこの試験に参加している著者は以下の通りである。Robert A. Wolff, M.D.; Padmanee Sharma, M.D. Ph.D.; Jane Rogers; Manolo Pasia, Jr.; Gail Bland; Aki Ohinata and Chimela Ohaji. Additional authors include: Kristen Ciombor, M.D. and Tanios Bekaii-Saab, M.D., both of The Ohio State University Comprehensive Cancer Center, Arthur G. James Cancer Hospital; Mohamed Salem, M.D., Lombardi Comprehensive Cancer Center, Georgetown University; Halla Nimeiri, M.D., Robert H. Lurie Comprehensive Cancer Center of Northwestern University; Syma Iqbal, M.D., University of Southern Caliornia/Norris Comprehensive Cancer Center; Preet Singh, M.D., Washington University, Siteman Cancer Center; Blasé Polite, M.D., The University of Chicago; Dustin Deming, M.D., University of Wisconsin Hospitals and Clinics; Emily Chan, M.D., Ph.D., Vanderbilt University Medical Center; James Wade III, M.D., Cancer Care Center of Decatur; Hope Uronis, M.D., Duke University Medical Center

 
本試験はMDアンダーソンがんセンターのHPVムーンショットプログラムと、HPVおよび肛門がん基金、E.B.肛門がん基金、NIH N01賞と慈善団体の寄付によって支援されている。

翻訳担当者 三木村 秋

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

その他の消化器がんに関連する記事

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果の画像

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果

ダナファーバーがん研究所意図せぬ体重減少は、その後1年以内にがんと診断されるリスクの増加と関連するという研究結果が、ダナファーバーがん研究所により発表された。

「運動習慣の改善や食事制限...
進行性神経内分泌腫瘍に二重作用薬カボザンチニブが有効の画像

進行性神経内分泌腫瘍に二重作用薬カボザンチニブが有効

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)・ 腫瘍細胞の増殖と腫瘍血管新生を標的とするカボザンチニブ(販売名:カボメティクス)は、膵外神経内分泌腫瘍および膵神経内分泌腫瘍の患者において、プラセボと比...
前がん病変治療でHIV感染者の肛門がんリスクが低下の画像

前がん病変治療でHIV感染者の肛門がんリスクが低下

HIV感染者を対象とした大規模臨床試験から、肛門の前がん病変である高度扁平上皮内病変(high-grade squamous intraepithelial lesions:HSIL)の治療により、肛門がんの発症率が半分以下に減少することが
前がん病変治療でHIV感染者の肛門がんリスクが大幅に低減の画像

前がん病変治療でHIV感染者の肛門がんリスクが大幅に低減

治療の高い成功率により、米国の画期的な臨床試験が早期終了に HIV感染者の肛門がんは、その前がん病変を治療することで本格的ながんに進行するリスクを大幅に低減可能であることが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者らが実施し