甲状腺未分化がん

MDアンダーソン OncoLog 2016年4月号(Volume 61 / Issue 4)

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甲状腺未分化がん

迅速な評価や臨床試験が患者の転帰を改善

甲状腺未分化がんは極めて進行が速く、診断から1年間生存する患者は20%にすぎない。このため、患者を迅速に評価し治療することが必要となる。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのプログラムにより、この治療困難ながんを抱える患者が、有望な新治療法を行う臨床試験への参加も含めて、可能な限り最良の治療を受けられるように、ケアの迅速化が進められている。

甲状腺未分化がん患者は進行性かつ症候性疾患を有することが多い。実際、甲状腺未分化がんはAJCCがん病期分類マニュアル第7版において、すべて病期IVとされている。「患者の病状は重く、気管を圧迫する非常に大きい腫瘤が頸部にみられることが多いため、甲状腺未分化がんの管理は困難です」と、内分泌腫瘍・ホルモン障害部門の准教授Maria E. Cabanillas医師は述べた。

甲状腺未分化がんは甲状腺がんの1%を占めるにすぎないが、その悪性度から注目に値する。「急激に増大する頸部下部腫瘤がある場合には、甲状腺未分化がんを疑うべきです」と、放射線腫瘍学部門の准教授、G. Brandon Gunn医師は述べた。「そのような患者については緊急評価のため、三次医療センターへ紹介するよう薦めています」。

「腫瘍の増大が極めて速いため、迅速に介入することが必要なのです」とCabanillas氏は述べた。「甲状腺未分化がんの大きな課題は、治療を受けるのが困難なほど患者の病状が悪くなる前に、甲状腺未分化がん専門医の診察を迅速に受けられるようにすることです」。

迅速評価

甲状腺未分化がん患者が適切な時期に治療を受けられるように、Cabanillas氏と同僚ら(特に頭頸部外科部門の准教授Stephen Lai医学博士)は甲状腺未分化がん専門治療促進(FAST)プログラムを開始した。FASTプログラムは2014年に始まり、甲状腺未分化がん患者が病気の診断ならびに治療を早急に受けられるよう、管理スタッフと医療スタッフのコーディネートを行う。

「このプログラムの開発においては、患者を緊急で診察に回すことの重要性を管理スタッフが確実に理解するよう、彼らと話し合いました」とCabanillas氏は述べた。「また、管理スタッフに甲状腺未分化がんの同義語(甲状腺の扁平上皮がんや甲状腺肉腫、甲状腺巨細胞がん、その他のがんなど)を理解させ、これらの診断を受けて私どもに紹介された患者が甲状腺未分化がんであると特定できるようにしました」。

一度、診断を受けがんが特定されると、甲状腺未分化がん患者は最優先される。FASTプログラムは甲状腺未分化がんの新規患者のために確保してある診察枠を利用し、この疾患の治療専門医の手配を開始する。「患者は、内分泌専門医、頭頸部腫瘍内科医、頭頸部放射線科医、頭頸部外科医、緩和ケア専門医など、多くの医師に診てもらう必要があります」とCabanillas氏は述べた。

胸部・頭頸部腫瘍内科部門の教授であるCharles Lu医師も含めた専門医は、プログラム開始当初からその重要性を理解し、参加に熱心であった。「これらの患者は多くの症状を抱えているため、数日間で医師の診断を受けられるよう、迅速評価に取り組んでいます」と述べた。

これまでのところ、プログラムは成功を収めている。甲状腺未分化がん患者が紹介されてから対応までの平均所要時間(患者からMDアンダーソンが連絡を受け、最初の診察予約を行った時まで)は、いまや半日であり、初回の診察予約日は、長距離移動が必要な患者にとっては、早すぎる程であることも多い。Cabanillas氏は「最初の診察予約から1週間以内に、患者がこれらすべての甲状腺未分化がん専門医を受診できるようにし、患者が2週目から開始できる治療計画を得られるようにしています」、と述べた。

診断および治療の課題

進行した病期に加え、ほかにも甲状腺未分化がんの管理を困難にしている要因がある。

「甲状腺未分化がんの病理診断は難しいのです」とCabanillas氏は述べた。それに加え、腫瘍には紡錘形細胞や巨細胞、扁平上皮細胞が混在することがある。「診断によって治療が異なるため、甲状腺未分化がんが疑われる患者は、専門の甲状腺がん病理医によって確定診断を得ることが非常に重要であると私達は考えています」。

甲状腺がんとして一般的な分化型甲状腺がんの主な治療法は外科手術である。「しかしながら甲状腺未分化がん患者は、手術には適さない進行病期であることが多いのです」とGunn氏は述べた。

甲状腺未分化がん治療のもう一つの課題は、治療に用いる化学療法薬(タキサン系やプラチナ系薬剤)が極めて有効とはいえないことである。「標準的な化学療法薬によって得られる甲状腺未分化がんの腫瘍縮小率は低く、奏効期間も短い傾向がみられます」とLu氏は述べた。

そこで甲状腺未分化がんにおいては、放射線療法が局所腫瘍コントロールの達成や緩和のいずれにおいても中心的役割を担う。Gunn氏によれば、強度変調放射線治療(IMRT)が標準的な方法だという。IMRTは放射線増感作用の考えられる化学療法薬とともに用いられることが多い。

標準治療

ステージIVA甲状腺未分化がん(T4a(腫瘍の大きさにかかわらず甲状腺に限局する腫瘍)、すべてのN(所属リンパ節転移の状態)、M0(遠隔転移なし))は、切除可能と考えられており、一般的には手術後にIMRTとパクリタキセルなどの放射線増感化学療法剤との併用で治療する。残念ながら、このステージの甲状腺未分化がんは7カ月以内に再発することが多い。

ステージIVB甲状腺未分化がん(T4b(腫瘍の大きさにかかわらず甲状腺の被膜を越えて進展する腫瘍)、すべてのN、M0)は、頸部に限局するが外科的に摘出できず、局所腫瘍の制御や緩和を目的として、IMRTと放射線増感化学療法剤との併用で治療する。「頸部の腫瘍は、呼吸や嚥下に影響をおよぼす症状を示すため、われわれは化学療法を用いた腫瘍の制御に最善を尽くしています」と、Lu氏は述べた。「しかしながら、最初に認めることになりますが、必ずしも非常にうまく行っているわけではありません」。化学療法と放射線治療との併用により、手術を考慮できるくらい腫瘍を十分縮小できる場合もあります。

ステージIVC甲状腺未分化がん(すべてのT(原発腫瘍の状態)、すべてのN、M1(遠隔転移あり))では、有効な標準治療はありません。このような場合、転移の進行を遅らせるため、通常化学療法または分子標的療法が一次治療となります。化学療法との併用の有無にかかわらず、IMRTが緩和目的で原発腫瘍に用いられる場合もあります。「問題は、放射線治療で頸部の腫瘍に対処しなければ、患者は窒息する可能性があるということです」と、Cabanillas氏は述べた。

ステージIVBおよびIVC甲状腺未分化がん患者は、悲観的な転帰となる。つまり、ほとんどの患者で5カ月以内に放射線治療が奏効しなくなる。「従来の治療法では、甲状腺未分化がんに対する有効性が限界に達しているのです」と、Gunn氏は述べた。

標準治療の変更

MDアンダーソンの医師らは、新しい治療法の必要性を認識し、甲状腺未分化がん患者に対し、可能であれば臨床試験に参加するよう促している。そのような試験の一つである多施設共同臨床試験(RTOG0912)では、甲状腺未分化がん患者を登録中である。「本試験では、標準化学放射線治療に分子標的療法を追加することで、患者の転帰を改善できるかどうかを試験中です」と、本試験のMDアンダーソン施設での主任治験責任医師であるGunn氏は述べた。

本試験では、患者は甲状腺未分化がんに対する標準レジメン(IMRTとパクリタキセルとの併用)を受け、プラセボまたは試験薬であるパゾパニブのいずれかに無作為に割り付けられる。パゾパニブは進行性腎細胞がんおよび進行性軟部肉腫の治療用に承認された抗血管新生チロシンキナーゼ阻害剤である。

中間結果はまだ利用できないが、試験のために、このまれながん患者を十分な人数募集することができるということを、本多施設共同試験によって証明することに、すでに成功している。「このことは、患者および試験責任医師を勇気づけます」と、Gunn氏は述べた。

さらに、甲状腺未分化がん患者は、特定の遺伝子変異を有する、あらゆる種類の固形腫瘍患者を対象とした分子標的薬の臨床試験にも適格である可能性がある。「甲状腺未分化がん患者は、予後が非常に不良なため、どのような甲状腺未分化がん患者に対しても、標準治療が患者にどう作用するか経過観察するのではなく、早急に分子プロファイリングを要請しています」と、Lu氏は述べた。「甲状腺未分化がん患者の半数未満にしか標的となる遺伝子変異は認められませんが、このような患者は臨床試験における分子標的薬が有益である可能性があります」。

例えば、BRAF変異は甲状腺未分化がんの25%で認められるため、Lu氏およびCabanillas氏らは、BRAFキナーゼを阻害するダブラフェニブ+同じシグナル伝達経路に沿ってMEKキナーゼを阻害するトラメチニブの臨床試験またはFDA未承認の治療を、BRAF変異を有する患者に奨めている。「今のところ、有望な成果を挙げています」と、Cabanillas氏は述べた。

現在進行中の試験に加えて、ステージIVBおよびIVC甲状腺未分化がん患者を対象とした多くの臨床試験が計画されている。例えば、標的となる遺伝子変異を有さない患者を対象に、マルチキナーゼ阻害剤であるレンバチニブの臨床試験が、今後数カ月で開始予定である。免疫系の働きを促進したり特定の遺伝子変異を標的としたりする術前補助全身療法を検討するための試験もまもなく開始される。術前補助療法に対する奏効に応じて、手術後のIMRTまたはMRT単独のいずれかで患者の甲状腺腫瘍を治療する予定である。

「5年前には、甲状腺未分化がん患者に対しては、標準治療以外に提供できる治療法はありませんでした。現在では、非常に有望な試験をいくつか実施しています」と、Cabanillas氏は述べた。「われわれは、甲状腺未分化がんに対する標準治療の改善に取り組んでいます」。

画像キャプション訳】
左:術前のCTスキャンでは甲状腺の左側にある大きな未分化腫瘍(矢印)が認められる。
右:手術、化学療法、放射線治療後18カ月の同一患者のCTスキャンでは、再発の徴候は認められない。画像はG. Brandon Gunn医師の厚意により提供された。

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翻訳担当者 大倉 綾子、生田 亜以子

監修 辻村 信一(獣医学・農学博士、メディカルライター/メディア総合研究所)

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