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カルシウム移動を阻止することでがん細胞だけを選択的に死滅させる可能性

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カルシウム移動を阻止することでがん細胞だけを選択的に死滅させる可能性

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

新たな研究から、カルシウムイオン(Ca2+)のミトコンドリアへの移動を遮断すると、がん細胞に対して有害に働き、マウスにおいては腫瘍の増殖を阻害することが明らかになった。この時、正常細胞には影響が見られなかった。

 

すべての細胞はカルシウムイオンをシグナル伝達仲介因子として用いて、代謝やその他の細胞機能を調節している。ミトコンドリアは、細胞における主要な、高エネルギーATP分子の産生器官であり、カルシウムのミトコンドリアへの流入を遮断すると、細胞はエネルギー「危機」に陥る。本研究では、正常細胞はこの危機的状態から回復することができるが、がん細胞では回復しないことを示した。

 

「ミトコンドリアのカルシウム依存性という、これまでに知られていなかった、がん細胞の特性を示唆した新しい知見は、新規のがん標的療法の開発に活用されることが期待されます」と、研究統括責任筆者であるペンシルバニア大学のJ. Kevin Foskett博士はニュースリリースで語った。

 

今回の研究成果は、Cell Reports誌3月3日号に掲載された。

 

細胞のエネルギー危機

ミトコンドリアは細胞内区画(小器官)で、栄養素を分解してATPとしてエネルギーを産生している。そして細胞は、ATPを用いて生化学反応を作動させている。Foskett博士の研究室が行った以前の研究から、カルシウムイオンが、小胞体(ER)というミトコンドリアとは別の細胞内小器官からミトコンドリアへと、絶えずピストン輸送されていることが明らかになっていた。ERとミトコンドリア間でカルシウムがこうして常に移送されていることで、酸化的リン酸化と呼ばれる代謝プロセスを介したATP産生が維持されている。

 

略してInsP3Rと呼称される特定の受容体タンパク質はER膜でイオンチャネルを形成し、カルシウム流出を制御している。ERから放出されたカルシウムイオンはその後、隣接したミトコンドリアの中へと移動する。

 

今回の研究を共同で主導したチリ大学のCésar Cárdenas博士が所属する研究チームは、さまざまな細胞株を使用した実験を行い、カイメンで発見され、InsP3Rを阻害するXeBという化合物を用いて、ERからミトコンドリアへのカルシウムの流れを妨げた。具体的には、ヒトの乳がんおよび前立腺がん由来のがん細胞株、がん細胞へと形質転換された線維芽細胞、そして対照となる正常細胞におけるXeBの効果を調べた。

 

ミトコンドリアに向かうカルシウムの流れがXeBによって遮られると、がん細胞も正常細胞も等しく、ATP産生の減少や細胞代謝低下のその他の兆候を特徴とする、「生体エネルギー危機」に陥った。正常細胞はオートファジーとして知られる機構の活性化によって、このエネルギー危機を切り抜けて生き残り、Foskett博士のラボによる以前の研究成果が確認された。オートファジー、すなわち「自己貪食」では、細胞が自らの構成成分を再利用して、飢餓やストレスの状態においてエネルギーレベルを維持する。がん細胞においてもカルシウムの流れを遮断するとオートファジーが活性化されるが、自己貪食応答のみではがん細胞の細胞死を回避するには不十分であった。

 

さらに実験を進めると、カルシウムの移動が妨害されることで正常細胞の細胞分裂が停止することが判明した。この細胞分裂停止は、エネルギー供給不足の場合に予想される応答の1つである。それとは対照的に、がん細胞を同じ方法で処理したところ細胞分裂は継続するものの、その後、分裂期終期において細胞死が起こった。

 

さらに、黒色腫(メラノーマ)モデルマウスにXeBを単回注射してInsP3Rの活性化を阻害すると、注射しない場合と比べて、腫瘍サイズが1日でほぼ60%縮小することもわかった。マウスを使った別の実験では、XeBで1週間隔日に処理するとメラノーマ腫瘍のサイズが、同じマウス内の未処理の腫瘍と比較して、約70%縮小した。

 

意外な治療標的

「本研究から、全く予期しなかった治療標的の存在が示唆されました。ERからのカルシウム放出とミトコンドリアによるカルシウムの取り込みを標的として、がん細胞を特異的に死滅させる薬剤の開発が期待できるのです」と、Foskett博士は語る。

 

「今回の成果、そして別の研究グループによるこれまでの成果は、カルシウムのシグナル伝達ががん細胞では変化をきたしているという有力な証拠をもたらしました」と、オーストラリア・クイーンズランド大学のGregory Monteith博士は言う。同博士は今回の研究には参加していない。

 

「ERからミトコンドリアへのカルシウムの移動という特定の事象について、直ちに、この経路を構成するどのタンパク質が薬理学的標的になりうるか理解を深め、さらに、標的治療を行った場合に、他の種類の細胞に大きな副作用をもたらすおそれがないことを確認する必要があります」と、Monteith博士は付け加えた。

 

Foskett博士らは、細胞株を用いたハイスループット検定(実験室試験)を考案し、新たに見つかった標的の1つ以上に命中する有望な薬剤をスクリーニングから発見するべく努力を重ねている。「われわれはまた、がん生物学者と協力して自らの仮説の検証のためにいくつかの優れた動物モデル、さらに、さまざまな種類のがんモデルを使用しようとしています。われわれが今まで使ってきた細胞株や1種類の腫瘍などで観察された事象が他の信頼性の高いモデルでもあてはまるかどうかを調べるのが目的です」。

 

「細胞内小器官間のコミュニケーション様式ががん細胞においてどのように維持されるのか、もしくは変更されるのかを明らかにする試みは、がんの生物学的特性解析に関わる研究分野に新たに出現した研究領域です。がん細胞に、ERからミトコンドリアへのカルシウムイオンの流れに対する明らかな依存性が生じているという発見は、この弱点を利用した治療法の考案に向けての新しい道を開きました」と、NCIのがん生物部門(Division of Cancer Biology)のCancer Cell Biology Branch に所属するMichael Espey博士は、言葉を結んだ。

 

【画像訳】細胞のエネルギー産生センターであるミトコンドリア(赤)へのカルシウムの移動を阻害することで、がん細胞を選択的に死滅させる可能性が示唆された。

 

 

 

原文掲載日

翻訳三谷有理

監修前田梓(医学生物物理学/トロント大学)

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