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組み換えT細胞を用いた免疫学的治療法は、より多くのがん種に適用できる可能性

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組み換えT細胞を用いた免疫学的治療法は、より多くのがん種に適用できる可能性

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ〜がんの動向〜

原文掲載日:2015年9月28日

 

免疫細胞の組み換えを行い、がん細胞上の標的分子への結合力を減弱させても、免疫細胞のがん細胞に対する殺傷能力は減弱することはなく、一方で同じ標的分子をもつが発現レベルが低い正常細胞には作用しないと考えられる。

がん細胞株とマウスを用いて行った2つの新たな研究の結果によると、多くのがん種に対する治療選択肢となりうるとみられるCAR-T細胞療法と呼ばれる免疫療法の試験形態を確立するための道を示唆していると両研究を行った研究者らは述べている。両研究の結果はCancer Research誌9月1日号に掲載された。

『on-target, off-tissue』毒性を克服するには

これまでCAR-T細胞療法の試験は主に血液腫瘍を対象に行われ、中には進行例で完全寛解状態が数年にわたり持続した患者もいるなど、著しい結果を示している。

この治療法を実施するには、患者の血液から採取したT細胞を操作し、キメラ抗原受容体(CARs)と呼ばれる特殊な受容体を細胞表面に組み込むなど、非常に複雑なプロセスを要する。

CARsは、がん細胞の表面に正常細胞より発現レベルが高い(過剰発現している)特定の分子または抗原と結合するよう設計されている。その後、組み換えられたT細胞は研究室内で数億倍に増殖し、患者に投与される。

CAR-T細胞研究の適用範囲を固形腫瘍の患者に広げる際の大きな障壁は、組み換えT細胞が「がん細胞と正常な細胞を区別しない」ことに起因する「on-target, off-tissue毒性」(細胞ではなく標的分子を狙って攻撃することによる毒性)であると、小児がん患者を対象としたCAR-T細胞療法の臨床試験の責任者であるDaniel W. Lee医師(NCIがん研究センター所属)は説明する。

この事象は、正常細胞にはなく固形腫瘍上だけに見つかる適切な標的抗原を特定することが困難なことから生じ、そのため正常細胞はT細胞の攻撃にさらされ、それが副作用の直接的原因となる。

標的への親和性を微調整し、生存率を上げる?

組み換えT細胞の標的抗原に対する親和性を減弱させるという、この新たなアプローチからこうした障壁を克服する方法が得られるのでは、と両研究の著者は考えている。

1つ目の研究では、ペンシルベニア大学のYangbing Zhao医学博士が率いる研究班が、乳がんおよび他の数種類の固形腫瘍の約4分の1で過剰発現がみられるHER2タンパク質(別名ErbB2)を標的とした組み換えCAR-T細胞の試験を行った。

Zhao博士の研究班は、HER2と結合力が強い(高親和性の)T細胞と結合力が弱い(低親和性の)T細胞という、一連のCAR-T細胞を作成した。細胞株とマウスを用いた研究から、HER2に対するCAR-T細胞の親和性が、HER2の発現レベルが低い細胞と高い細胞を区別する能力に影響することが分かった。

例えば、一側にHER2が過剰発現した腫瘍細胞を有し、対側にHER2の発現レベルが低い腫瘍細胞を有するマウスを用いた実験では、高親和性のCAR-T細胞を接種すると腫瘍細胞は両側とも縮小した。しかし、低親和性のCAR-T細胞を接種したマウスの場合、HER2の発現レベルが高い腫瘍細胞のみ消失し、一方で発現レベルの低い腫瘍細胞は増殖を続けた。

Ziopharm Oncology社のLaurence Cooper医学博士(元テキサス大学MDアンダーソンがんセンター所属)が率いる研究班による2つ目の研究では、異なる実験モデルで同様の結果を報告した。研究班は、EGFR(膠芽腫、および他のがんの60パーセント超に過剰発現するが、正常細胞では発現レベルが低い腫瘍関連抗原)に対して高親和性、低親和性の一方のみを示すCAR-T細胞を作成した。

EGFRが過剰発現した膠芽腫を有する動物モデルでは、高親和性CAR-T細胞と低親和性CAR-T細胞のいずれを投与しても腫瘍が縮小した。だがその毒性のため、高親和性CAR-T細胞を投与されたマウスは、未投与群と比較して生存期間は全体的に著しくは改善しなかった。一方で、低親和性CAR-T細胞を投与されたマウスの生存期間は改善した。EGFRの発現レベルが低い腫瘍(EGFRの発現レベルが低い正常細胞の代替として実験)を有するマウスの場合、高親和性CAR-T細胞を投与すると腫瘍が縮小し、一部のマウスで生存期間が大きく改善したが、低親和性CAR-T細胞を投与しても腫瘍と生存期間はどちらもほとんど変化がなかった。

CAR-T細胞による効果を改善するための研究のほとんどは、細胞内にある人工的に組み込んだ受容体の一部を改良することで、T細胞の活性を強めることにのみ取り組んできた、とCooper博士はニュースリリースの中で説明した。

「私たちの研究から、腫瘍細胞に結合するCARの細胞外部分を微調整し、ターゲットタンパクに対する親和性に手を加えることが、別の可能性としてあるとわかりました」と博士は語った。

依然として行うべき研究がある

低親和性CAR-T細胞が、固形腫瘍に対して発展しうる治療法として可能性があるのか判断するには、より多くの研究を行う必要がある、とLee医師は述べた。

例えば、これらの研究で用いられたマウスモデルでは、低親和性CAR-T細胞の副作用を予測するのにきわめて限界がある、と続けた。

「また理論的には、親和性を調整したCARで治療を行う代償としては、奏効率が下がることや、 奏効の深さが(完全奏功ではなく)部分奏効になることがあります」とLee医師は語った。 「こうしたことは、CARsが臨床試験段階に入ってからでないとわかりません」。

親和性を調整したCAR-T細胞は、こうした治療手段を固形腫瘍患者に広げるために研究されている1つの選択肢に過ぎない、と医師は付け加えた。「この分野は、こうした限界を克服するため積極的に努力するでしょう」。

画像:組み換えCAR-T細胞(中央)をビーズに吸着させT細胞を分離する様子。CAR-T細胞療法では、組み換えT細胞を数億倍に増殖させ、患者に投与する。
出典: 米国国立衛生研究所(NIH)、CC BY-NC-SA 2.0

原文

翻訳渋谷 武道 

監修田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/福岡東医療センター)

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