OncoLog 2015年9月号◆免疫不全患者に生じた呼吸器ウイルス感染症に対する新治療 | 海外がん医療情報リファレンス

OncoLog 2015年9月号◆免疫不全患者に生じた呼吸器ウイルス感染症に対する新治療

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OncoLog 2015年9月号◆免疫不全患者に生じた呼吸器ウイルス感染症に対する新治療

 

MDアンダーソン OncoLog 2015年9月号(Volume 60 / Number9)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

 

免疫不全患者に生じた呼吸器ウイルス感染症に対する新治療

ウイルス性呼吸器感染症は、免疫不全の患者にとって、治療が困難なため肺炎や死亡のおそれすらあり、重大な懸念事項である。これまで、免疫不全患者のウイルス性呼吸器感染症治療の選択肢は無きに等しかったが、現在、RSウイルス(RSV)とパラインフルエンザウイルス(PIV)という2種のよくみられる呼吸器ウイルスに感染した免疫不全患者を対象に、有望な新治療の臨床試験が参加者登録を実施している。

 

RSVとPIVの感染は上気道から始まり、ときには進行して肺にいたることもある。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの感染症・感染管理・従業員衛生部門の教授であるRoy Chemaly医師によれば、とくにリスクが大きいのは白血病患者および造血幹細胞移植を受けた患者だという。「このようなウイルス感染が肺炎にまで進行すると、免疫不全患者にとっては死亡のリスクが高くなります」と同医師は言う。

 

Chemaly医師は次のように説明する。「MDアンダーソンでは毎年、おもに10月から3月までの間に、約300例の上下気道RSV感染症を経験します。ほぼ同数のPIV症例を経験しますが、こちらは春から夏の間に発生します」。RSVとPIVの感染症状は他の呼吸器ウイルス感染症と似ており、鑑別診断は(遺伝子の)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査によって行う。

 

ひとたびRSVまたはPIVの感染が起こると免疫不全患者の場合、治療は困難を極める。過去15年間、RSVとPIVの治療は旧態依然で代わり映えしなかった。しかし、両ウイルスの治療を改善するための研究が進行中だとChemaly医師は言う。同医師は、RSVまたはPIVに感染した免疫不全患者の登録を現在実施中であるMDアンダーソンの複数の臨床試験の主任研究員である。

 

RSV

RSVに対する現行の治療は、リバビリン(エアロゾル剤)の吸入である。米国食品医薬品局(FDA)は、リバビリン(エアロゾル剤)を小児のRSV感染に対する治療薬として認可しているが、免疫不全の成人にもよく適応外使用される。リバビリン吸入治療中、患者は5-10日間にわたって毎日9時間以上もビニールテントの中で過ごさなければならない。「この治療はたしかに効きますが、高額で煩わしいものです。ですから、経口剤によるRSV治療の可能性には大いに期待しています」とChemaly医師は述べる。

 

MDアンダーソン単施設の第II相臨床試験では、造血幹細胞移植を経験し上気道RSV感染症の治療を要する患者が、リバビリンエアロゾルまたは経口リバビリンのいずれかに無作為に割り付けられる。Chemaly医師によれば、「もしリバビリン(エアロゾル剤)から経口剤に転換することができれば、患者の治療が変わるかもしれません」。

 

もうひとつのRSV感染治療用試験薬であるGS-5806は長時間作用型経口剤で、ウイルスのエンベロープ(訳者注:一部のウイルスの最も外側に位置する膜状の構造物)が宿主細胞と融合するのを阻害する。GS-5806は、造血幹細胞移植を経験しRSVに感染した患者を対象とする2つの多施設ランダム化比較試験で研究中である。一方の臨床試験は上気道感染患者を、もう一方は下気道感染患者を対象としている。

 

GS-5806の臨床試験は2つとも、患者が無作為に割り付けられて、17日の期間中に5回、試験薬またはプラセボのいずれかを投与される。どちらの臨床試験も、主要評価項目は鼻腔内RSVウイルス量の変化であり、副次的評価項目は酸素吸入を要しない日数などである。上気道感染患者を対象とする臨床試験では「ウイルス感染が肺に進行するのを予防できるのではないかと期待しています」とChemaly医師は述べる。

 

PIV

RSVとは違い、PIV感染症に適応とFDAが認可した薬剤は存在しない。「PIV感染患者には治療が何もないので、まさしく喫緊の開発ニーズがあります」とChemaly医師は言う。

 

さいわい、DAS181という吸入薬が期待できそうである。DAS181は、気道の上皮細胞の内シアル酸受容体にPIVウイルスが結合するのを阻止することによって、PIVの感染拡大を予防する。

 

現在、DAS181の多施設第II相臨床試験が、化学療法を受けたか、幹細胞・心臓・肺のいずれかの移植を受け、下気道PIV感染によって酸素吸入を必要としている患者の登録を実施中である。

 

この臨床試験に参加する患者は、無作為に割り付けられて、1日1回DAS181かプラセボのいずれかを投与される。Chemaly医師によれば、「参加患者は3分の2の確率で試験薬DAS181を、3分の1の確率でプラセボを投与されることになる」という。

 

この臨床試験の中間評価結果はまだ公表されていないが、Chemaly医師は試験薬DAS181が患者に有用であると自信を持っている。FDAが臨床試験の対象とならない患者に試験薬の拡大使用を許可する制度に言及して、同医師は「すでにDAS181を人道的見地からプログラムに沿って試験的に使用したところ、良好な結果が得られ、副作用もあまりありませんでした」と述べている。

 

将来展望

昨今、RSVおよびPIV感染症に対する新規治療が増えていることから、Chemaly医師は明るい展望を持っている。同医師はこう言う。「10-15年のあいだ、RSVやPIVの新薬開発研究はほとんどされていませんでした。しかし、ここ数年、製薬会社は、RSVやPIVに感染した免疫不全患者の転帰を改善できる見込みがある薬を開発しようとしはじめているのです」。

——Bryan Tutt

 

【グラフ下キャプション訳】

MDアンダーソンで造血幹細胞移植患者にみられたRSウィルス(RSV)とパラインフルエンザウィルス(PIV)の感染症例

 

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

原文掲載日

翻訳盛井有美子

監修田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

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