マウスの実験からグルコース代謝の抑制による免疫能の増加を発見

米国国立がん研究所(NCI)ニュースノート

原文掲載日 :2013年9月16日

米国国立がん研究所(NCI)の研究者の新規マウスモデルを用いた研究により、免疫細胞のグルコース代謝を制御することで、その細胞の癌や感染症と戦う能力が拡大、増加する可能性が示された。

本研究が行われる以前は、グルコース代謝と、細胞性免疫で重要な役割を果たすメモリーT細胞の関係は明らかではなかった。

ウイルス感染細胞や癌細胞を破壊する役割をもつCD8+T細胞におけるグルコース代謝のメカニズムを研究することで、研究者は、T細胞の分化状態にかかわらず、グルコース濃度の変化が代謝調整因子として働くことを発見した。

研究者の結論は以下の3つの主要な証拠により支持された。

第一に、生きたマウスに移植された後、グルコース代謝の違いに基づいて分類されると、活性化CD8+T細胞は異なる転帰をみせた。

高いグルコース活性を示すCD8+T細胞は短命な傾向にあった。一方で、低いグルコース代謝のCD8+T細胞は免疫記憶を確立し、それゆえ、再感染が起こった場合に免疫防御を迅速に開始する能力を得た。

第二に、強制的にCD8+T細胞のグルコース代謝レベルを高くさせると、マウスにおけるCD8+の生存能とメモリーT細胞への分化能が著しく低下した。

第三の証拠は最も重要で、2-デオキシグルコースによるグルコース代謝の特異的な阻害により、CD8+T細胞が長寿命のメモリーT細胞に分化する能力の増加が認められた。

これらの知見は、癌や感染症に対するT細胞に基づく治療やワクチンにとって重要な意味合いをもつ可能性がある。なぜなら、T細胞活性化の初期段階における代謝経路を標的とした薬剤を用いることで、CD8+T細胞性免疫を増加させ、ゆえに、免疫細胞全体をより正常に保つことができることを示しているからである。

米国国立がん研究所(NCI)、がん研究センターのMadhusudhanan Sukumar博士、Nicholas P. Restifo医師、Luca Gattinoni医師により行われた本研究はJournal of Clinical Investigation誌、2013年9月16日の電子版に掲載された。

原文

翻訳担当者 下野龍太郎 

監修 田中謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫学/テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)

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