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NIHの研究班、マウス研究でBACH2遺伝子とアレルギー疾患や自己免疫疾患との関連を発見

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NIHの研究班、マウス研究でBACH2遺伝子とアレルギー疾患や自己免疫疾患との関連を発見

米国国立がん研究所(NCI)/プレスリリース

 

NIH(米国国立衛生研究所)の研究班は、BACH2と呼ばれる遺伝子がさまざまなアレルギー疾患と自己免疫疾患(多発性硬化症、喘息、クローン病、セリアック病、1型糖尿病など)の発生に中心的な役割を担っていることを発見した。自己免疫疾患では、本来は「自己」と認識され通常は免疫系を刺激することのない体内の正常細胞や組織に対して免疫系が攻撃を行う。自己免疫による攻撃は、感染症やがんで発生することがある。

 

過去の研究結果から、BACH2遺伝子にマイナー変異のある人はアレルギー疾患や自己免疫疾患を発症することが多く、また両疾患に共通した要因は免疫系の障害であることが分かっている。マウスを用いた本研究により、Bach2遺伝子が免疫系の反応を制御する重要な遺伝子であることが分かった。本研究は、NIHの部門である米国国立がん研究所(NCI)と米国国立関節炎・筋骨格・皮膚疾患研究所(NIAMS)の研究者を筆頭とする研究班が行い、2013年6月2日のNature電子版に発表された。

 

(図キャプション)BACH2が関与する免疫寛容と炎症のバランスを示す。

 

免疫系内の1要素が免疫機能の制御において非常に幅広い役割を担うという知見は、アレルギー疾患や自己免疫疾患を患う人のいずれにも高確率でBACH2の変異がある理由を説明できる、とNCI研究者のRahul Roychoudhuri医師は語った。「これは両疾患に対する今までにない治療法を開発する第一歩かもしれません」。

 

ゲノムワイド関連解析とは、あらゆるヒトの遺伝子変異を解析して、変異と特定の形質発現との関連性の有無を判断する研究であるが、それが本研究結果にとって非常に重要となった。この解析により、さまざまな自己免疫疾患患者のDNAにBACH2のマイナー変異が高確率で見られることが分かったが、そうしたことが本研究の根拠となった。

 

「ヒトゲノム計画の完了により可能となった画期的な技術を応用する機会が得られたことに興奮しました」と語るのは、NIAMS研究責任者のJohn O’Shea医師である。「ゲノムワイド関連解析を行うことで、全ての遺伝子にわたるBach2の働きをマッピングすることができました。おかげでBach2の免疫系における主な役割がよりはっきりと理解できました」。

 

免疫系の中にはさまざまな細胞型があり、それらは協調して正常なバランスを維持する。CD4⁺T細胞と呼ばれる白血球は、免疫系で2つの役割を担う。一部のCD4⁺T細胞が免疫反応を活性化し、一方で制御性T細胞と呼ばれる細胞が免疫反応を抑制することで逆方向の働きをする。こうした二面性があることは重要である。なぜなら免疫反応が制御されなくなると体内細胞や組織に対して免疫系が攻撃を行い、アレルギー疾患や自己免疫疾患が発生するからである。制御のない免疫反応の典型例には、過剰な組織炎症がある。組織炎症は免疫反応における正常反応のひとつであるが、過剰炎症が起こることで組織や臓器に障害が発生する可能性があり、死に至ることもある。研究班によれば、どのような機序でCD4⁺T細胞が炎症性(活性化)と制御性のどちらになるのかは明確になっていないとのことである。

 

Bach2遺伝子がマウス内で炎症性と制御性の切り替えを調節する重要な役割を担うことが分かりました」と語るのは、NIAMS研究者の平原潔医師である。「Bach2遺伝子が欠損することでCD4⁺T細胞が炎症性に切り替わるのです。通常であれば保護的な制御性T細胞になる状況だとしてもです」。

 

研究班の研究から、マウスにBach2遺伝子が欠損しているとT細胞が炎症性に変化し、生後数か月以内に自己免疫疾患で死亡することが分かった。Bach2欠損細胞に(遺伝子療法を用いて)Bach2遺伝子を再挿入すると、制御性細胞の産生能力が回復した。

 

「遺伝子が炎症性細胞と制御性細胞のいずれかで特定の役割を担っているのかは分かっていますが、Bach2遺伝子は両者の選択を制御し、結果として免疫系が正常なバランスを保つのに重要な役割を担っているのです」と語るのは、NCI研究責任者のNicholas P. Restifo医師である。「遺伝子がかの有名な作曲家バッハと同じ名前なのは、言い得て妙です。というのも、Bach遺伝子は免疫反応に関わる多くの構成要素を指揮し、そして各要素はオーケストラで演奏されるさまざまな楽器のように調和して働き、交響曲のようなハーモニーを紡ぎだすからです」。

 

Restifo医師は、こうした研究結果は癌とも密接な関係があることを示唆している。というのも、がん細胞は制御性T細胞のみを活性化し、抗腫瘍免疫反応による自身の破壊を妨げるからである。現在、同医師の研究班は新たながん免疫療法の開発を目的に、Bach2遺伝子の活性を制御する研究をすすめている。また、本研究はマウスで行ったものであるため、研究結果が臨床応用できるようになる前にヒトで再検証する必要がある。

 

本研究はNCIとNIAMSの研究班のほか、NIHに在籍する日本生物科学行動研究班のJSPS(日本学術振興会)特別研究員の支援を受け、またNIH傘下の米国国立アレルギー・感染症研究所(the National Institutes of Allergy and Infectious Diseases)、NIH輸血治療部門(the Department of Transfusion Medicine)、NIH獣医学部門(the Division of Veterinary Resources)、NIH再生医療センター(the Center for Regenerative Medicine)、Sidra医療研究センター(カタール、ドーハ)、東北大学大学院医学系専攻科医科学専攻生物化学分野研究室(日本、仙台)の協力を得て行われた。

# # #

Reference: O’Shea, JJ, Restifo, et al. Bach2 represses effector programmes to stabilize Treg-mediated immune homeostasis. Nature. Online June 2, 2013. DOI: 10.1038/nature12199.

 

原文掲載日

翻訳渋谷武道

監修田中謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)

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