子宮内膜がんのゲノム分類の基礎を確立-最善の治療選択のために適切な分類が重要

米国国立がん研究所(NCI)/プレスリリース

約400種の子宮内膜腫瘍の総合的ゲノム解析で、ある分子的特徴(例えば変異頻度)が、現在の病理学的手法を補完し、子宮内膜腫瘍の主なタイプの分類に役立ち、将来的な治療戦略への知見をもたらす可能性があることが示唆された。

がんゲノムアトラス(TCGA)研究ネットワークが率いる同研究は、更に子宮内膜腫瘍と、乳がん、卵巣がん、直腸がんを始めとするその他のがん種とのゲノム類似性を示すと同時に4種の新たながんサブタイプを明らかにした。

これらの発見は、現在利用可能な子宮内膜腫瘍の分子変化の最も包括的な特徴を表すものであり、2013年5月2日にNature誌上で発表された。TCGAは米国国立衛生研究所(NIH)の組織である米国国立がん研究所(NCI)と米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)より資金提供を受け、管理されている。

NIH所長のFrancis S. Collins 医学博士は、「計画された20のTCGA腫瘍タイプ特性に関する最新研究では、異なる腫瘍タイプでより多くのゲノム類似性が明らかになってきた」また「これまで未知であったゲノムマーカーや様々ながん種における変異を明らかにしていくことで、再びTCGAの価値を証明したことになる」と語っている。

(図キャプション:女性生殖器の中の子宮内膜)

臨床では子宮内膜腫瘍は2つのカテゴリに分類される。類内膜腫瘍(タイプI)と漿液性腫瘍(タイプII)である。タイプIはエストロゲンの過剰分泌、肥満と関係があり、予後は良好。一方、タイプIIは年配の女性に多く、一般的には予後が比較的悪いとされる。

多くの場合、タイプI腫瘍には放射線療法を行う。主な治療の後に追加的に行うことで、腫瘍の増殖を止める(または遅くする)ことができる。タイプII腫瘍では化学療法が一般的であり、抗がん剤によりがん細胞を死滅させる(または成長を止める)。

子宮内膜腫瘍の種類の判定は、現在、薄く切り出した組織を顕微鏡下で検査する組織学的手法に基づいている。しかし、この方法で子宮内膜腫瘍の組織を分類することは容易ではなく、専門家間でも個々の組織分類に関して見解が異なることは珍しくない。

本研究で研究者らは病理学者が高悪性度の類内膜タイプと分類した腫瘍の約25%で腫瘍抑制遺伝子TP53の変異の頻度が高く、多数のコピー数変化(細胞が過剰または過小なゲノムセグメントのコピーを有する場合を意味する)があったことを示した。

これらは共に漿液性腫瘍に特徴的である。また漿液性腫瘍では、基本的な化学単位がDNAの断片に付加されることによるDNAメチル化の変化が少なかった。

これに対して、多くの子宮内膜がんはコピー数変化やTP53変異がほとんどなく、もう一つの腫瘍抑制遺伝子PTEN及び細胞分裂の制御に関わる遺伝子KRASといった他のよく知られるがん関連遺伝子における変異の頻度が高かった。

これらのデータは、いくつかの高悪性度の子宮内膜腫瘍が漿液性腫瘍と驚くほど似た変異パターンを示しており、同様の治療が奏功する可能性を示唆している。

ニューヨーク市にあるメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)の婦人科学研究長であり、本研究の共同リーダーを務めるDouglas A. Levine医師は、「本研究は病理学者が同じ特性に分類した腫瘍でも、分子的特徴としてはかなり異なる可能性があるという事実を強調するものであり、この点が本研究の成果が今後の研究及び臨床試験に対して直接的に示唆するところである」と語る。

著者らによると、この新たな発見は子宮内膜腫瘍に関する今後の臨床試験のロードマップとなる。同じく本研究の共同リーダーでありワシントン大学医学部セントルイス校 ゲノム研究所の共同ディレクターであるElaine Mardis博士は、「異なるがんの原因間で特徴的なゲノム的相違があることから、各腫瘍サブタイプが関連の臨床試験に影響を与えるものと思われる」また「乳がんの場合と同じく、独立したサブタイプのための治療を開発することは、アウトカムの向上につながる可能性がある」と語る。

研究者らは子宮内膜がんとその他の腫瘍タイプの間にもゲノム類似性を見出した。これまでのTCGA研究は、卵巣がんの一病態(高悪性度の漿液性卵巣がん)と乳がんのサブタイプ(基底様乳がん)では、多くの共通したゲノム特性がみられることを示してきた。

本研究の研究者らは子宮内膜漿液性腺がんで同じゲノム特性がいくつか見られることも明らかにした。これらのがんではTP53の変異頻度が高く(84%から96%の間)、PTENは頻度が低い(わずか1%から2%の変異)。驚くことに、本研究では更に子宮内膜腫瘍と大腸直腸がんで共通の特徴があることも示している。

両がんタイプでは、DNAの修復機構が壊れていることからマイクロサテライト不安定性の頻度が高く、DNA複製と修復に関わるタンパクを生成する上で必須の遺伝子POLEの変異が見られる。これらのゲノム変化は、両がんタイプにおける変異率の高さに繋がる。

NCI所長のHarold Varmus医師は、「これらの発見は、臨床的及び病理学的情報を始めとするゲノムデータ収集を目的としたTCGAの多角的アプローチにより実現した。このように大規模な腫瘍検体の総合的分類無しでは生物組織学とゲノムデータの相関を見出すことは難しく、また臨床アウトカムが確認されることも無かっただろう」と語る。

本研究の全結果分析に基づき、研究者らは子宮内膜がんに関わる4つの新規ゲノムベース・サブタイプを特定した。これは、診断及び治療アプローチの新たな段階を指し示す成果と言えるだろう。4つのゲノム・サブタイプは、それぞれクラスター状に存在しており、その際立った特徴にちなんで名付けられた。

「POLE超高頻度変異型」は、その非常に高い変異率とPOLE遺伝子のホットスポット変異(変異の影響を非常に受けやすい配列)により名付けられた。

「マイクロサテライト不安定化高頻度変異型」は、高い変異率と低コピー数変化を指しており、同時にPOLE遺伝子に変異が見られないことを指している。

「低コピー数型」は、最も高いマイクロサテライト安定を示すが、子宮内膜のように臓器内部を維持する上で必須の遺伝子CTNNB1の変異頻度が高い。

「高コピー数型」は、主に漿液性腫瘍から成るが、いくつかの類内膜性腫瘍のサンプルを含む。このサブタイプは、コピー数変化と漿液性腫瘍に特徴的な変異形態を示している。

子宮内膜がんは米国女性の中で4番目に診断数が多いがん種である。NCIは2013年にはおよそ50,000人の女性が新たに子宮内膜がんと診断され、この疾患による死亡数は8,000人を超えると推定している。

進行した転移を伴う高悪性腫瘍と診断された多くの患者では、化学療法により生存率向上がもたらされ、新たな薬剤の試験も実施されているものの、現在の5年生存率は約16%である。

米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)所長のEric D. Green医学博士は、「乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、直腸がん、各タイプ間のゲノム類似性を明らかにすることは、非常に複雑ではあるが、治療目的の組織タイプ活用だけでなく、それ以上の可能性を内包していると思われる」また「これら類似のゲノム特性はこれまで知られていなかったがん種間の共通項を表している」と語る。

現在までにTCGA研究ネットワークは、多形性膠芽腫、卵巣漿液性腺がん、大腸直腸腺がん、肺扁平上皮がん、浸潤性乳がんに関するデータを生成し、分析結果を発表してきた。 TCGAのデータは、TCGAデータポータルとがんゲノム・ハブ(CGHub)で自由に利用可能である。

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この研究はNIHから以下の助成金を受けている 5U24CA143799-04, 5U24CA143835-04, 5U24CA143840-04, 5U24CA143843-04, 5U24CA143845-04, 5U24CA143848-04, 5U24CA143858-04, 5U24CA143866-04, 5U24CA143867-04, 5U24CA143882-04, 5U24CA143883-04, 5U24CA144025-04, U54HG003067-11, U54HG003079-10 and U54HG003273-10。また、the Recovery Actの補完を受けた。

Quick Facts, Q&A, graphics, glossary, a brief guide to genomics and a media library of available imagesを含むThe Cancer Genome Atlasについてのより詳細な情報はhttp://cancergenome.nih.govを参照ください。

参考文献:The Cancer Genome Atlas Research Network. Integrated Genomic Characterization of Endometrial Carcinoma. Nature. May 2, 2013. DOI:10.1038/nature12113

翻訳担当者 遠藤豊子

監修 原野謙一(乳腺科・婦人科癌・腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

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