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2007/05/15号◆スポットライト「稀な癌細胞は何を語るか?」

  • 2007年5月15日

同号原文

NCI Cancer Bulletin2007年5月15日号(Volume 4 / Number 17)
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◇◆◇スポットライト◇◆◇

稀な癌細胞は何を語るか?

転移性乳癌の最初の治療を受ける女性に対する、これまでとは若干異なったランダム化臨床試験が今年初めに開始された。この試験は標準療法と実験的療法、または既存薬の新しい組み合わせを競わせるものでも、あるいは実験的療法とプラセボを競わせるものでもない。

試験参加者は化学療法1サイクル終えた後に、その化学療法が効くかどうかを予測するための血液検査を受ける。検査結果で、その治療が効果がないと示された女性は、次に、病状が進行するまで現在の標準治療を継続するか、あるいは、直ちに別な化学療法に変更するかに無作為に割り付けられる。

「私たちの目的は治療戦略を研究することであって、薬そのものを研究することではない」と、主任研究員であるミシガン大学総合がんセンターのJeffrey Smerage医師は説明する。「私たちは、重大な副作用や毒性に苦しむ前に、その化学療法によって恩恵を受けると思われる患者を早くに識別し、そして、有効な薬が投与される可能性が増えることを願っている。」

Southwest Oncology Group (SWOG)が主体となってNCIが資金援助をしている臨床試験で用いられる検査は、血液中の何十億という細胞の間を自由に漂っている「循環する癌細胞(CTC)」と呼ばれる癌細胞の数を指標としている。被験者が転移病巣を有する癌患者(多くが乳癌患者)であるこの研究により、治療直前と治療に続く最初の数週間後のCTC数が血中7.5mLあたり5CTCという閾値を超えている患者は、同期間のCTCが閾値以下あるいは検出されない患者と比べて無増生存期間や全生存期間がはるかに短いことが明らかとなった。

これらの試験の大半、そして最大の試験が乳癌患者を対象としたものであったが、メラノーマ、前立腺癌や結腸直腸癌の患者で行われた小規模な試験も同様の結果であった。

SWOG試験が示しているように、研究者らは、より患者の状態にあわせた治療の方向性を示すことが出来るか、臨床試験での治療反応のマーカーの代用として利用できるか、あるいは、90%以上の癌による死亡原因である転移に対する洞察を提供することが出来るかといったことなど、多くの臨床関連情報をこの稀な細胞から引き出すことができるかを究明しようと試みている。

実際に何を教えてくれるのか?

CTCは血液サンプルから検出されるが、実際は血液中に漏れ出た上皮細胞である。CTCは通常、血液細胞ではなく癌細胞によって発現されたタンパク質に付着する抗体によって分離されるが、(この研究では)異なる技術が血液細胞からCTCを分離するために用いられている。分離後、疑いのある細胞が実際癌細胞であるかどうかを確認するためにさらなる分析がおこなわれる。

複数の会社が試験を開発し、そして、世界中の臨床試験責任医師らはCTC検出プロセスの精緻化と改良を続けているが、アメリカのImmunicon社のCellSearch分析法が唯一CTC検出方法として、米国食品医薬品局より転移性乳癌患者の測定の認可を得ている。この記事中のいくつかの試験はCellSearchシステムを使用し、そして、少なくとも研究資金の一部分はImmunicon社により提供されていた。

CTCを取り巻く環境には楽観論もあるが、現在、CTCを測定することで何をなしえるのかということを考えると大きな限界があると、インディアナ大学医学部、乳腺ケアと研究センターのGeorge Sledge医師は述べる。

「私の懸念は技術上のことではなく、むしろ、結果が出た後にその結果をどうするかということである」と彼は語る。

CTC測定は治療が効いていないことを予測することは出来るが、どの治療法がより優れているのかを癌専門医に示すわけではない。現在、標準的な第一選択治療法が確立されていない転移性疾患を有する女性患者のケアにおいてはそのことのほうが最重要なのであると、Sledge医師は続ける。

SWOG主導の試験は、CTCの測定が、少なくとも、治療法の決定プロセスを改善することが出来るかどうかを判定する上での部分的なステップである。これは主にテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのMassimo Cristofanilli医師率いる前向き臨床試験の結果に基づいている。2004年のNew England Journal of Medicine誌に掲載されたこの試験の最初の結果は、再発もしくは新たに転移性乳癌と診断された女性では、ベースラインおよび3週のフォローアップのCTCレベルが無増悪生存期間と全生存期間の最も重要な予測因子であったことを示していた。2005年の分析では、第一選択治療をおこなった女性のみに制限したが同様な結果であった。

現存のデータ-昨年公表された転移性乳癌の治療を受けた女性の重要な研究を含む-においても、CTCは、治療後概ね10~12週で腫瘍が増大か縮小かを測定する現在最も標準的な画像検査と比べて、迅速でより正確な治療効果を予測する可能性を示している。

CTC検査は、高い再現性、および病勢進行を確実に予測する信頼性を備えた検査であると研究で明らかになった。その2つは、標準的な技術に依存することの多くなった臨床試験で問題となっている点であると、Sledge医師は語る。

CTCが手術可能な初期ステージの癌患者で、同様の予後の予測ができるかどうかは不明である。これまでに、いくつかの有望な結果を報告した一握りの研究しかこのセッティングでは行われていない。

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乳癌においてその価値が証明されても、CTCは他の癌との関連性は不明であると、フォックスチェイスがんセンターのトランスレーショナルリサーチ部門統括責任者であるLouis M Weiner医師は述べる。

転移性結腸直腸癌の患者に焦点をあて、CTCによる遺伝子発現プロファイルを試みた数少ない試験の1つを担当したWeiner医師は、次のように解説する。

「多くの患者でCTCはほとんど見つからなかった」と彼は指摘する。「骨髄に癌細胞が存在するタイプの癌において、末梢血中のCTCが多く、したがって、この技術が利用可能かもしれないと予想されることから、最も有益であるだろうことがわかってきている。」

これまでのところ、CTC関連の研究結果は、答えより多くの疑問を生み出している。例えば、CTCは、「大胆な転移傾向がある細胞であるのか、あるいは腫瘍付近に追い出され細胞死へと進もうとしているのか」といった腫瘍部位で何が起きていると示しているのかは解明されていないと、Weiner医師は指摘した。

研究者らが現在回答を探っている疑問は、単にCTC細胞の行く末はどうなるのか、あるいは原発腫瘍の細胞とはどのように異なるのかといったものであり、それらを究明するためにCTCの分子分類を行っている。例えば、ドイツで行われたステージ1~3の乳癌患者35人が参加した小規模な試験では、HER2陽性CTCを持つ12人の患者の原発腫瘍はHER2陰性であった。

他の研究結果でも、このようなHER2の「転換」はめずらしくないことが示されている。この情報も、「治療の意思決定を導き、治療完了後の細胞の宿命を追跡するために役立つ可能性がある」と、Sledge医師は語る。

あるCTCは化学療法抵抗性に関連する性質を持っていること、また、あるCTCは別の稀な細胞である癌の幹細胞でさえありうる可能性が複数の試験結果で示唆されている。幹細胞は複数の癌に栄養を与え、再発にも関与していると多くのエビデンスで示されている。

さらに多くの研究が必要であるが、「CTCは、癌を、進行性が高い癌と不活性な癌という2種類の異なる疾病に分ける方法を表しているのかもしれない。そこから、それぞれの治療法を発展させるかを考え始めることが出来るだろうと期待している。」と、Cristofanilli医師は結論づけた。

— Carmen Phillips

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Nogawa 訳

瀬戸山 修(薬学) 監修

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