PCSK9阻害薬が免疫チェックポイント阻害薬の効果を高める可能性

治療抵抗性の高コレステロール血症を改善するために使用される注射薬には、免疫チェックポイント阻害薬として知られるがん治療薬による免疫反応を高める働きもあるかもしれないという知見が、Duke Healthの研究者らが主導する研究下で実施された動物実験において報告された。

この研究結果に基づき、エボロクマブ(販売名:レパーサ)またはアリロクマブ(販売名:プラルエント)などの高コレステロール治療薬により免疫チェックポイント阻害薬の効果が増強されるかどうかを明らかにするヒト試験がすでに提案されている。がん免疫療法には大きな期待が寄せられているが、それでも長期的な延命効果が得られるのはせいぜい患者の3分の1程度にすぎない。

この研究は11月11日付のNature誌オンライン版に掲載された。

「この研究結果は臨床試験にすぐに応用できる可能性を秘めている」とデューク大学皮膚科および薬学がん生物学科の教授であり、デュークがん研究所のメンバーでもある統括著者のChuan-Yuan Li教授は語る。「コレステロール治療薬が標的とするPCSK9タンパク質の活性を中和することで、T細胞の活性化が促進され、その結果、腫瘍が免疫チェックポイント療法に反応しやすくなることを示唆している」。

Li教授らは、活性化T細胞の数が多いと免疫チェックポイント遮断療法の成果が向上すること、および血中コレステロールの低下によってがん免疫療法も改善されるようであることを示す過去の研究をもとに研究を進めている。

Li教授らが解明を試みた研究課題は、PCSK9タンパク質が免疫療法に対する腫瘍の反応の調節に関与しているかどうかであった。なぜなら、PCSK9タンパク質は血清コレステロール濃度の重要な調節因子だからである。マウス腫瘍モデルの研究でCRISPR遺伝子編集技術を用いてPCSK9遺伝子を削除したところ、腫瘍の成長が遅れることがわかった。

この編集済みの腫瘍を免疫不全マウス(T細胞を持たない動物)に移植したところ、腫瘍は正常マウスの正常腫瘍と同程度の速度で成長しており、PCSK9中和薬が腫瘍に影響を与えるためにはT細胞の活性化が必要であることを示唆している。

「これは重要な新発見だ」とLi教授は語る。「次のステップは、PCSK9阻害薬を、T細胞に対する免疫抑制を解除する免疫チェックポイント阻害薬と併用することである」。

コレステロール低下薬は、T細胞が腫瘍細胞を認識できるように信号を送る腫瘍細胞表面のタンパク質の量を増加させるようである。これにより、身体のT細胞が頻繁に不活化したり、疲弊したり、腫瘍細胞を認識できなくなったりしたときにも、腫瘍への強い攻撃が可能となり、免疫療法の成果を阻む重要な障害の1つが乗り越えられる。

結果的に、免疫療法の効果を向上させる抗PCSK9薬の能力は、コレステロールを低下させる能力とは無関係である。

「この研究は、PCSK9タンパク質の作用を阻害すると腫瘍の成長が遅くなることを示している」とLi教授は語る。「これについて、いくつかの異なるタイプのマウス腫瘍モデルで検証した結果、メラノーマ、乳がんおよび大腸がんに対する有望な効果が示された。また、これまでに発表されたヒトのデータを分析した結果からも、PCSK9タンパク質は、肝臓、肺、腎臓に由来するがんなど、他の種類のがんでも有効な標的となる可能性があることが示唆される」。

Li教授に加え、本研究の著者は以下のとおりである:Xinjian Liu(筆頭共著者)、Xuhui Bao(筆頭共著者)、Mengjie Hu、Hanman Chang、Meng Jiao、Jin Cheng、Liyi Xie、Qian Huang、Fang Li。

本研究は、米国国立衛生研究所(ES024015、CA208852、CA216876)、がんセンター支援助成金(Cancer Center Support Grant)(CCSG、CA014236)、広東省基礎・応用基礎研究基金(Guangdong Basic and Applied Basic Research Foundation)(2020B1515020054)、深圳科学技術プログラム(Shenzhen Science and Technology Program)(JCYJ20190807154813511)から助成を受けている。

翻訳担当者 松長愛美

監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

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