アベルマブが妊娠性絨毛腫瘍に有効な可能性

ASCOの見解

「この臨床試験は、婦人科系希少がんに対する免疫療法を検証しました。アベルマブ(販売名:バベンチオ, EMD Serono, Inc.社)は、再発しなかった患者数、および単剤化学療法よりも低毒性であったことを踏まえた、今後のさらなる研究が期待されます」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)会長のHoward A. Burris III医師は語る。

妊娠中または妊娠後の女性の子宮に発生する非常にまれながんを対象とした小規模な第2相試験で、単剤化学療法に抵抗性を示す15人中8人の女性患者が、アベルマブ投与により治癒した可能性が示唆された。本試験は、妊娠性絨毛腫瘍(gestational trophoblastic tumors、GTT)患者に対する免疫療法を検討した初めての試験であり、アベルマブが新たな治療の選択肢となる可能性を示している。本試験の結果は、2020年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会のバーチャル科学プログラムで発表される。

試験概要

【主題】妊娠性絨毛腫瘍に対する一次治療としてのアベルマブ

【対象】単剤化学療法メトトレキサートまたは抗生物質アクチノマイシンDに抵抗性を示す妊娠性絨毛腫瘍患者15人

【結果】29カ月の追跡調査にて、8人の患者に再発が認められず、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin、hCG)ホルモン値の正常範囲内への低下が確認された。

【意義】単剤化学療法に抵抗性を示す妊娠性絨毛腫瘍患者に免疫療法による治療効果を認めた初の臨床試験である。

「この概念実証(proof of concept、POC)試験は、単剤化学療法抵抗性の妊娠性絨毛腫瘍に対してアベルマブによる免疫療法が有効であることを示しています」と、フランスのリヨンスッド総合病院(Centre Hospitalier Lyon-Sud)およびリヨン腫瘍学・血液学治療研究センター(Lyon Investigational Center for Treatments in Oncology and Hematology)の腫瘍内科医であり、筆頭著者のBenoit You医学博士は述べる。「臨床現場への適用にはさらなる科学的根拠が必要ですが、本試験は非常に期待がもてる結果を示し、化学療法に抵抗性を示すがん患者が、アベルマブによって重篤な毒性を引き起こす可能性のある多剤併用化学療法を受けずにすむかもしれないのです」

妊娠時に胎盤を作る絨毛細胞の異常な増殖により子宮内に妊娠性絨毛腫瘍が形成される。免疫療法の一種であるチェックポイント阻害剤アベルマブは、がん細胞上に発現するタンパク質(PD-L1)をブロックすることで、がん細胞が免疫からの攻撃から逃れるのを阻止する作用を持つ。妊娠性絨毛腫瘍はPD-L1を過剰に発現するため、アベルマブは理にかなった治療法と言える。

主要な結果

多くの絨毛腫瘍は、治療中止後6カ月以内、遅くとも12カ月以内には再発する。本研究の29カ月の追跡調査において、単剤化学療法メトトレキサートまたは抗生物質アクチノマイシンDに抵抗性を示す妊娠性絨毛腫瘍患者15人中8人(53%)に再発の兆候は認められなかった。研究者たちは、12カ月後に再発を認めず、hCGが正常範囲内に低下した場合に治癒したとみなした。hCGホルモンは妊娠性絨毛腫瘍のバイオマーカーとして使用されている。

7人の患者がアベルマブ治療中に、1人の患者がアベルマブ投与中止後に、hCGが正常化した。29ヵ月の追跡調査後も再発は認められず、hCGは正常値を維持している。このうち、1人の患者は正常妊娠した。免疫療法剤を使用した根治治療による、初の正常妊娠報告となった[1]。

残りの7人の患者(47%)はアベルマブへ抵抗性を示し、アクチノマイシンDと化学療法、または手術を伴う/伴わない多剤併用化学療法への変更が必要だった。

有害反応はおおむね軽度で、93%の患者にグレード1、または2の薬物有害反応が認められた。疲労が最も多く(33%)、次いで悪心・嘔吐(33%)、輸注反応(27%)だった。「薬剤の忍容性は化学療法よりもアベルマブの方がはるかに優れていました」とYou医師は述べる。

本試験について

本多施設共同試験には、単剤化学療法抵抗性の妊娠性絨毛腫瘍患者15人(年齢中央値34歳)が登録され、47%の患者が転移を伴うステージ3だった。すべての患者でメトトレキサート治療による病勢進行が認められ、1人の患者でアクチノマイシンD治療による病勢進行も認められた。患者はhCG値正常化までアベルマブの投与を受け、その後さらに3サイクルの投与を受けた。

次のステップ

研究者たちは、現在、治療抵抗性を示す前の低リスクの腫瘍に対して、一次治療としてメトトレキサートとアベルマブを評価する同様の試験を行っている。

資金提供

この研究はMerck Serono – Pfizerから資金提供を受けた。

[1] Bolze PA, You B, Lotz JP, et al. Successful pregnancy in a cancer patient previously cured of a gestational trophoblastic tumor by immunotherapy. Ann Oncol. 2020 Mar 11. pii: S0923-7534(20)36076-2. doi: 10.1016/j.annonc.2020.02.015. [Epub ahead of print]

翻訳担当者 為石万里子

監修 原野謙一(乳腺・婦人科腫瘍内科/国立がん研究センター東病院)

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原文掲載日 

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