Larotrectinibが小児と成人の多様ながんに長期で有効

Larotrectinibは希少なTRK融合遺伝子異常を標的とする

ASCOの見解

「小規模な早期試験ではあるものの、この研究は希少がんにおける新薬開発の道を拓く有力な証拠となり、高精度医療(precision medicine)の将来像を示している」と米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門委員のSumanta Kumar Pal医師が述べた。

患者の年齢に関係なく多種のがんに対して同じように効果のあるがん治療薬となる、初の経口分子標的薬の開発に成功したようだ。17種類の異なる進行がんに罹患した成人と小児が参加した臨床試験で、76%の患者でlarotrectinib治療が奏効した。Larotrectinibの奏効は持続的であり、治療開始12カ月後も79%の患者でレスポンスが継続している。

この研究は今日の記者発表で紹介されることになっており、2017年ASCO年次総会で発表される予定である。

Larotrectinibは、がん細胞にあるTRK遺伝子が他遺伝子のうちの1つと融合する際に起きる遺伝子異常の産物である、トロポミオシン受容体キナーゼ(TRK)融合タンパク質の選択的阻害剤である。この異常は多くの一般的ながんの約0.5%〜1%で起こるが、唾液腺がん、若年性乳がん、幼児線維肉腫などの特定の希少がんの90%以上で起こると推定されている。

「TRK融合はまれであるが、さまざまながんの種類で起こる。実際、現段階でTRK融合が報告されていないがんのタイプを見つけるのは難しい」と、ニューヨークにあるメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの早期薬剤開発部チーフで筆頭研究著者のDavid Hyman医師は述べた。「これらの研究結果は、高精度腫瘍学の本来の展望-がんの発生場所に関係なく変異の型に基づいて患者を治療すること-を具現化している。TRK融合のある腫瘍がlarotrectinibに対して劇的な反応を示していることから、われわれは進行がん患者の遺伝子検査を広く行い、この異常の有無を確かめる意義があると考えている」。

研究について

研究者らは、進行中である3件の第1相および第2相臨床試験に参加したTRK融合を有する患者55人のデータを分析した。患者は全員(小児12人と成人43人)、結腸がん、肺がん、膵臓がん、甲状腺がん、唾液腺がん、消化管がん、メラノーマ(悪性黒色腫)および肉腫などの局所進行か転移がんに罹患していた。

「これらのデータは独立した中央放射線学的審査を経て、larotrectinibの承認申請のために米国食品医薬品局(FDA)に提出される予定だ。承認されればlarotrectinibは成人と小児で同時に開発され承認される治療法としては全く初めてのものとなり、かつ、従来定義されていたすべての種類の腫瘍に広がる、分子的に定義されたがんに適応される初の分子標的治療となる」とHyman医師は述べた。

主な知見

少なくとも2回の評価を行うのに十分な期間以上に研究に参加していた、17の異なるがんのタイプを有する最初の50人の患者のうち、38人(76%)が奏効した。そのうち、以前は手術ができなかった小児肉腫患者3人が、larotrectinibで腫瘍が小さくなり、治癒可能性のある手術を受けられるまでになった。

大多数の患者が依然治療に奏効しているため、奏効期間の中央値にはまだ到達していない。治療開始12カ月で、奏効している患者の79%が無増悪を維持している。これまでの治療に対する奏効最長期間は25カ月であり、いまも延長中である。

最も一般的な副作用は、倦怠感および軽度のめまいである。これは通常のTRKタンパク質が平衡を制御する役割を果たすため、予期された副作用である。副作用のために治療を中止する必要のある患者はいなかった。

「LarotrectinibはTRKのみを標的にするように設計されているため、非常に高い忍容性があり、化学療法や標的を複数持った治療で起こる副作用の多くを引き起こすことがない」とHyman医師は述べた。

TRK融合について

TRK融合は1982年に結腸がんで最初に発見されたが、最近の技術的進歩、特に次世代シークエンシング(NGS)により初めてこの異常の系統的検出が可能になった。これまで、研究者は3つのTRK遺伝子(NTRK1、2、3)のいずれかと融合するパートナー遺伝子を50種以上発見している。

TRK融合はがん発生の初期段階で起こり、腫瘍が増殖し転移しても存在し続ける。異常なTRK融合タンパク質は常に「オン」になっており、がん細胞に増殖と分裂をし続けるよう、シグナルを送る。「TRK融合はがんの発火スイッチのようなものだ」とHyman医師は述べた。

他のタンパク質と一緒にTRKを阻止する他の実験的治療法はあるが、larotrectinibはTRKを選択的に阻止する最初のものである。この特徴により副作用を抑えながら、薬の効果を上げることができる。

全身療法にもかかわらず悪化したか、他に受けられる治療法がない小児および大人のTRK融合遺伝子陽性切除不能または転移性固形腫瘍の治療として、 FDAは2016年にlarotrectinibを画期的治療薬に指定した。この指定は、重篤または致死的疾患を治療するための有望な新薬の開発および審査の迅速化を図るものである。

次の段階

研究者らは、腫瘍がlarotrectinibに耐性をもつようになる主な要因と思われるものを特定しており、当初larotrectinibに奏効していたが、がんが再び増殖した患者の治療として、別のTRK分子標的薬療法LOXO-195を研究している。

この研究は、Loxo Oncology, Inc.社の資金を受けた。

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翻訳担当者 関口百合

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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原文掲載日 

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