CDK4/6阻害薬に耐性を示す乳がんが複数出現

それぞれの耐性機序を克服するには、異なる組み合わせで抗がん剤を投与する必要があると考えられる。

米国がん学会(AACR)の学術誌Cancer Research誌で発表された研究によれば、乳がん細胞はパルボシクリブ[palbociclib](商品名:Ibrance)などのサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6を標的とする治療薬にさまざまな手段で耐性を獲得しており、複数の前臨床試験から、異なる組み合わせで投与することによりこれらの抗がん剤に対する耐性の獲得を阻止し克服する可能性があることが示唆された。

「CDK4/6阻害薬であるパルボシクリブは、現在、エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん患者の治療に重要な役割を果たしています。しかし、残念ながら、腫瘍が抗がん剤に耐性を獲得するため患者の多くは最終的に病状が悪化してしまうのです」と、英国、ロンドンにある英国がん研究所のチームリーダー兼ロイヤルマースデン病院の顧問で、王立医科大学フェロー(FRCP)のNicholas C. Turner医学博士は述べた。

「われわれは、ER陽性乳がん細胞がどのようにパルボシクリブなどのCDK4/6阻害薬に耐性を示すようになったのかを解明し、耐性の発現を遅延する、または耐性が発現した場合にはそれを克服できる可能性のある抗がん剤の組み合わせを特定することに努めてきました。われわれが行った前臨床試験から、3剤の治療薬を組み合わせることによってCDK4/6阻害薬に対する耐性発現が著しく遅延することが明らかになり、現在、この組み合わせを第2相臨床試験で検証しています。また、耐性の発現には複数の機序が関与していることが判明し、耐性獲得後の最良の治療選択肢を評価するために、各患者において耐性をもたらす特定の機序を明らかにするための試験を開発する必要があると考えられます」とTurner医学博士は続けて述べた。

Turner医学博士、スペインのバルセロナにあるVall d’Hebron Institute of Oncologyの試験責任医師であるVioleta Serra医学博士らは、最初に3,530の化合物ライブラリーをスクリーニングし、それらの化合物がER陽性乳がん細胞株の増殖を阻害するCDK4/6阻害薬パルボシクリブと作用し合う能力をin vitroで評価した。パルボシクリブと相乗作用を示す化合物の中で、PI3K経路を阻害する化合物が複数存在した。

患者由来のxenograft(異種移植)モデルにおいては、CDK4/6阻害薬、ホルモン療法(フルベストラント)、およびPI3K阻害薬を組み合わせることにより、フルベストラントとCDK4/6阻害薬またはフルベストラントとPI3K阻害薬の併用よりも高い腫瘍縮小効果が得られた。
これらのデータは、3剤の抗がん剤の組み合わせを検証する目的で最近開始した第2相臨床試験の生物学的根拠を提供するものであり、治療に対する疾患の耐性を遅延する可能性があることを示唆しているとTurner医学博士は説明した。

さらに、分子解析によってCCNE1遺伝子の増幅やRB1遺伝子の欠損など、ER陽性乳がん細胞がCDK4/6阻害薬に耐性を示す機序が複数同定された。In vitro解析では、CCNE1遺伝子の増幅によりCDK4/6阻害薬に耐性を獲得した細胞においてCDK2を標的とした治療に感受性がみられたが、RB1遺伝子の欠損により耐性を獲得した細胞にはみられなかった。

「次の段階では、CDK4/6阻害薬に耐性を示したER陽性乳がん患者の腫瘍検体を調べて、前臨床試験で明らかにした耐性機序が臨床での機序を反映するものであるかを判断します。そうである場合、患者に最も適切な治療の選択肢を提供できるように、異なる耐性機序をスクリーニングするための試験を開発する必要があります」とTurner医学博士は述べた。

本試験は、Breast Cancer Now、Mary-Jean Mitchell Green Foundation、Avon Foundation、Cancer Research UK、National Health Service、Instituto de Salud Carlos III、Agència de Gestió d’Ajuts Universitaris i de Recerca、GHD、FERO Foundation、およびOrozco familyによる支援を受けた。Turner医学博士は、ファイザー社およびロシュ社から諮問委員としての謝礼を受けており、PI3K阻害薬の開発において商業的利益を得ているがん研究所の社員でもある。

翻訳担当者 青山真佐枝

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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