喫煙について①:「カウンターの向こうの殺人者」ーDr.イアン・ウォーカー

キャンサーリサーチUK

最近新たに5年間の主要疾患戦略(5-year Major Conditions Strategy)を発表したにもかかわらず、Steve Barclay国務大臣のヘルスケア計画には、これまでのところ、明確な公衆衛生対策を通じてより多くのがんを予防しようという熱意がまったく感じられない。

3回にわたる特集で、キャンサーリサーチUKのIan Walker博士が喫煙に関して分かっていることや喫煙が健康、財政、社会に与える影響について説明し、政府による喫煙への政策介入についてなぜ「ペダルを全力で踏み」続ける必要があるのかを教えてくれる。

この記事は、全3回の特集「Ian Walker博士の喫煙について」の第1回である。

喫煙とがんの関連は、60年以上前にはじめて明らかにされた。初期の研究には、その後の研究によってさらに実証されたものもある。

現在では、タバコの煙には5000種類以上の化学物質が含まれており、そのうち少なくとも70種類に発がん性があることがわかっている。この有害な化学物質のカクテルは、タバコの煙にさらされた人々の健康に甚大な影響を及ぼす。

喫煙は、少なくとも15種類のがんのほか、心臓病、呼吸器疾患、不妊症など、多くの健康問題に関連している。

しかし、タバコの何がそんなに違うのだろう。

肥満、紫外線、アルコールなど、がんの危険因子として知られるものはたくさんある。

なぜ、タバコの方がより危険なのだろうか。

タバコは、がんの原因として他に類を見ないほど毒性が強い。タバコは、製造者が意図したとおりに使用すれば最終的には使用者の3分の2が(喫煙を止めない限り)死んでしまうという、購入者を標的にした商品だ。そう、本当に。

実際、英国では毎年12万5,000人が喫煙によって死亡しており、これはあらゆる原因による死亡者数の約5分の1にあたる。

その背景にある科学的根拠は明確であり、議論の余地はない。世界の一流の研究者が、何十年にもわたって、喫煙ががんを引き起こすさまざまな仕組みを解明してきた。

タバコに火をつけ肺に吸い込むと生成されるベンゾ[ア]ピレン(BP)という化学物質はその一例だ。この化合物により細胞内のDNAは損傷を受け、さまざまな種類のがんの原因となり得る変異を起こす。

このような直接的なDNA変異に加えて、タバコに含まれる多くの発がん性化学物質は、DNAが正常に働かなくなる原因となる。すると細胞の正しい複製が乱れ、これもまたがんの発生につながってしまう。

(図) [喫煙率は自然に低下することはない。1990年代、喫煙率の低下が止まった期間がある]
A graph showing the decline in smoking rates between the 1950s and 2020 due to key policy changes

以上のように、タバコが化学的に人体の健康にとって危険であることは分かっている。しかし、その危険性は、消費者製品として販売される方法にもある。ビジネスモデルは依存症に基づくものだ。この依存症は、タバコに含まれる化学物質であるニコチンが、肺を経由して血液中に容易に吸収されることによって引き起こされる。

ニコチンは血液に吸収された後全身に行き渡り、脳内でドーパミンを放出させる。これは人体の「報酬」メカニズムであり、脳はもっと欲しくなるように操られる。すぐに次の報酬が欲しくなり、さらにその次、と、ニコチンなしでは正常に機能しなくなっていく。

ニコチンは非常に依存性が高いが、それにもかかわらず、近所の売店で20本入りのタバコを買うだけで簡単に手に入ってしまう。

喫煙者のほとんどは、若い頃にタバコの依存症になることが分かっている。実際、喫煙者のほぼ全員が、21歳以前に喫煙を始め、依存症になり、その後何年もかけてやめようと試みては失敗している。

喫煙が人にもたらす問題はとても遠くに感じられるので、いったん身体が依存症になると、こうした理由だけではやめられないことが多い。

実のところ、喫煙者のほとんどは禁煙を望んでいるが、その成功にはサポートを必要とすることが分かっている。これは、タバコを吸いはじめるきっかけやうまく禁煙できるかどうかにも影響する、人にはどうすることもできない社会的不平等や障壁の最たるものだ。

しかし悲しいことに、依存は最終的にはほとんどの喫煙者に悪い結果をもたらす。

まさに、私の祖父はこの話にぴったり当てはまる。祖父は、第二次世界大戦後に英国に移住する以前に、ウクライナで子どもの頃喫煙に依存するようになった。

祖父はほぼ生涯喫煙を続け、子どもの頃からの依存症に究極の代価を払ってがんで亡くなった。家族全員がひどく衝撃を受けたが、これは1960年代以降の英国における、喫煙が原因と推定される死亡者900万人のうちの1例にすぎない。

これは絶望的なサイクルのように思えるかもしれないが、われわれにはそこから抜け出す方法が存在することを証明する研究がある。

今日、優れた政治主導によって、年間何万人ものタバコによるがん死亡を防ぎ、次の世代からこの恐ろしい重荷を取り除くことができるかもしれない。子どもたちの誰1人として喫煙依存症にならない日が現実となれば、どんな政府も後世に誇れるだろう。このアクションがいかに重要であるか、次回の記事で説明する。

Ian Walker博士はキャンサーリサーチUKの政策情報通信部長である。

  • 監訳 久保田馨(呼吸器内科/日本医科大学呼吸ケアクリニック)
  • 翻訳担当者 奥山浩子
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  • 原文掲載日 2023年3月17日

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