骨髄移植は末梢血幹細胞移植に比べ、患者のQOLが高い

フレッドハッチンソンがん研究センター

全米を対象とする大規模研究の結果、骨髄移植患者の方が良好な心理状態にあり、移植片対宿主病が少なく仕事に復帰できる見込みが高いことが見出された。

JAMA Oncology誌に報告された全米の大規模研究によると、骨髄移植を受けた患者は末梢血幹細胞移植を受けた患者に比べて移植後5年時点の自己申告による心理状態が良好であり、移植合併症としてしばしば生じる移植片対宿主病(GVHD)を経験することが少なく、仕事に復帰する割合が高いことがわかった。骨髄移植は造血幹細胞移植の手段として数十年前に初めて開発された移植方法である。

論文の筆頭著者であるフレッド・ハッチンソンがん研究センターのStephanie Lee博士は次のように述べている。「われわれが長期間の QOL や復帰に関する情報を提供することで、患者や医師はこのような情報を考慮して移植を計画するこようになるでしょう。ただしこの結果は、臨床試験の参加者と同じ状況の移植患者に対してのみ適用できることには注意が必要です」。

この研究では、全生存、治療関連死や再発については試験に参加した2群の間で差がないことも示された。

「骨髄移植群と末梢血幹細胞移植群を比較した本研究の結果は、生存期間を気にされている多くの患者さんにとって、安心な情報になるかと思います。 移植には多くの方法があります。ドナーの細胞としてどのようなものを使うかということは、あくまで決断すべきことのひとつに過ぎません。移植の成功率を改善するものあらゆるものが将来の患者さんにとって助けとなるでしょう」ともLee博士は述べた。

この研究には、非血縁ドナーから造血幹細胞移植(血液を形成する大元の細胞の移植)を受ける必要のある白血病やその他の造血器腫瘍患者で16歳から66歳の551名が参加した。患者は骨髄移植あるいは末梢血幹細胞移植のいずれかの移植を受けるよう無作為に割り付けられた。移植後6カ月から5年の間、研究者は試験参加者に定期的に電話をかけてどのように生活しているか評価を行った。

研究者たちは、提供者の骨髄から得られた細胞を移植された人の方が、循環している血液、すなわち末梢血幹細胞を移植するように割り付けられた人よりも精神状態が良好であると報告する傾向にあることを見出した。また、骨髄移植を受けた患者は、末梢血幹細胞移植を受けた患者に比べて、パートタイムあるいはフルタイムの仕事に復帰する傾向が高いことも発見した。

この論文の筆頭著者でMoffitt Cancer Centerの骨髄移植部センター長でもあるClaudio Anasetti博士は、「この研究成果は、非血縁ドナーからの移植を受ける場合、幹細胞ソースとして骨髄が標準的と位置づけるものになります。」と述べた。

研究者たちは、それらの患者においては自己申告した GVHD症状やGVHD治療の副作用が少なかったことが、より安定な精神的状態を得られている原因ではないかと推測しているが、確証には至っていない。慢性GVHDは移植に伴う一般的な合併症であり、移植された免疫細胞が患者の健康な細胞を攻撃することで、強度の低下した皮膚が肥厚したり、肺機能の不可逆的に低下するなどの症状が引き起こされる。 

慢性GVHDは、フレッド・ハッチンソンがん研究センター長期フォローアッププログラムの研究部長兼慢性GVHDの全米研究コンソーシアムのリーダーであるLee博士の研究の中心である。フレッド・ハッチンソンがん研究センターは移植患者を生涯にわたりモニタリングし、患者ケアを提供している。

Lee博士が主導したこの研究は、治療の成功率を高め、毒性を軽減させることで骨髄移植などの造血幹細胞移植を継続的に発展させてきた多くの科学者により数十年にわたり行われた研究の最新例である。

「もし、罹患している病気とそれに対して推奨される治療がともに生命に脅威を与えるものである場合、人々は『今から数年後の生活の質をよりよくしてくれるのはどの治療かであるか?』とは必ずしも問わないと考えます。」しかし、多くの患者がそうであるように、治療をうまくやり遂げるのであれば生活の質を高くしたままでやり遂げたいと考えています。このような視点は移植においてとても重要なことなのです。移植とは単に病気を治すだけでなく、できる限りもともとのライフスタイルに戻れるよう試みる治療行為なのです。」とLee博士は述べた。

翻訳担当者 伊藤 彰

監修 佐々木裕哉(血液内科・血液病理/久留米大学病院)

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