泌尿生殖器癌シンポジウム(ASCO-GU)2014 で、泌尿生殖器癌の最新研究の進歩が明らかに

米国臨床腫瘍学会 泌尿生殖器癌シンポジウム(ASCO-GU)2014 に先立ち本日公表された研究から、さまざまな泌尿生殖器癌の生存転帰が明らかにされ、癌臨床試験の早期中止に関する見識がもたらされた。本年は泌尿生殖器癌シンポジウム10周年で、本シンポジウムはサンフランシスコのマリオット・マーキースで1月30日~2月1日に開催された。

本日公表された4つの主要研究

・エンザルタミドにより転移性、去勢抵抗性の前立腺癌患者における生存期間が延長:エンザルタミドにより、転移性、去勢抵抗性の前立腺癌患者の生存期間が29%延長し、59%で癌増殖が抑制されるか停止した。その結果、化学療法の開始が17カ月延期されたことが、初めて詳細に公表された第3相PREVAIL試験結果から示された。

放射線治療+抗アンドロゲン薬療法により10年および15年前立腺癌特異的生存率が大幅に改善することが長期にわたるデータから確認される:放射線治療+抗アンドロゲン薬療法により、局所進行前立腺癌男性患者の10年および15年前立腺癌特異的死亡率は50%以上減少することが北欧前立腺癌グループによる臨床試験VIIから得られた臨床試験データの最新解析で示された。

広範に使用される薬剤により高血圧症の転移性腎細胞癌患者の生存期間が延長: 高血圧に対して広範に使用される薬剤であるレニン‐アンジオテンシン系阻害薬により高血圧症を併せもつ転移性腎細胞癌患者の生存期間が9カ月延長していたことが後ろ向き研究から示された。

早期中止は泌尿生殖器癌の臨床試験に特有ではない―成人癌臨床試験の約20%は完遂できない:臨床試験の早期中止は泌尿生殖器癌の臨床試験に特有ではないことがClinicaltrials.govのデータ解析から示された。癌臨床試験の約20%は主に、症例の集積率が低いために完遂できない。

「本日焦点となったこれらの研究は、示唆に富みかつ日常診療を変える可能性がある結果を臨床医に提示するものです」とCharles J. Ryan医師(本日の広報議長)は述べた。「また、これらの中の多くは私たちの日常診療と将来の研究の取り組みに組み込まれる可能性があります」。

泌尿生殖器癌には、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、精巣癌、ならびにより低頻度の癌(陰茎癌、尿管癌、他の泌尿器癌など)が含まれる。米国では2014年に385,000人以上が泌尿生殖器癌と診断され、60,500人が死亡すると推定される。最も頻度が高い泌尿生殖器癌は前立腺癌で、米国では2014年に233,000人が診断され、29,400人以上が死亡すると推定される。

泌尿生殖器癌シンポジウム2014の協賛機関は米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)、米国放射線腫瘍学会(American Society for Radiation Oncology:ASTRO)、および米国泌尿器腫瘍学会(Society of Urologic Oncology:SUO)です。

・エンザルタミドにより転移性、去勢抵抗性の前立腺癌患者における生存期間が延長
(概要には、要旨には記載されない、最新のデータを含む)

アンドロゲン受容体阻害剤エンザルタミドにより、転移性去勢抵抗性前立腺癌男性患者の生存期間が29%延長し、かつ、疾患進行が81%延長したことが、第III相PREVAIL試験結果から示された。独立データモニタリング委員会がPREVAIL試験の早期中止を勧告した後、その中間解析結果が2013年10月に公表されたが、そのデータは初めて泌尿生殖器癌シンポジウム2014で全て公表された。

「エンザルタミドは、前立腺癌の進行に対して著しい効果を示す、重要な新規治療選択肢になる見込みです」と筆頭著者Tomasz Beer医師(米国内科学会フェロー(FACP)、オレゴン健康科学大学医学部教授兼ナイトがん研究所副所長)は述べた。「エンザルタミドはこの適応症に対して承認されれば、無症候性または軽度の症候性、進行前立腺癌患者に対する化学療法に先立つ、重要な標準的治療選択肢になるでしょう」。

この二重盲検プラセボ対照第3相試験で、化学療法歴のない転移性去勢抵抗性前立腺癌男性患者1,717人は、エンザルタミド+標準的ホルモン療法(エンザルタミド群)とプラセボ+標準的ホルモン療法(プラセボ群)に無作為に割り付けられた。PREVAIL試験参加患者には、原発巣に対する治療歴(外科手術、放射線治療など)、ならびに、LH-RHアゴニスト製剤や第1世代抗アンドロゲン薬によるホルモン療法歴があった。PREVAIL試験における2つの主要評価項目は、全⽣存期間(OS)と画像診断による無増悪⽣存期間(rPFS)であった。通常の骨シンチグラフィーやCT検査を使用して前立腺癌増殖の経過観察を行い、rPFSを評価する。

エンザルタミド群の59%で癌増殖が抑制されるか停止した(完全奏効20%、部分奏効39%)のに対し、プラセボ群では奏効率は5%であったという結果が示された。また、エンザルタミドにより化学療法が大幅に延期された。エンザルタミド群では、プラセボ群と比較して、化学療法の開始が平均17カ月延期された。独立データモニタリング委員会はこの有益な中間解析結果に基づいて、PREVAIL試験に参加しているプラセボ群患者にエンザルタミドを投与するよう勧告した。

エンザルタミドは第2世代アンドロゲン受容体阻害剤で、第1世代(ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド)と比較して、より強力な作用を示す。ホルモン療法と関連する副作用である体重増加や顔面紅潮に加え、最も多く認められた副作用は倦怠感、便秘、背部痛、および関節痛であった。全般的に、エンザルタミドは忍容性に優れ、副作用によりPREVAIL試験から脱落した患者の比率は、エンザルタミド群とプラセボ群で等しかった(各6%)。

放射線治療+抗アンドロゲン薬療法により10年および15年前立腺癌特異的生存率が大幅に改善することが長期にわたるデータから確認される

放射線治療を抗アンドロゲン薬療法(ホルモン療法の一種)に追加することにより、局所進行前立腺癌男性患者の10年および15年前⽴腺癌特異的死亡率が、経口アンドロゲン受容体拮抗薬療法のみと比較して、50%以上減少したことが北欧前立腺癌グループによる臨床試験VIIから得られた臨床試験データの最新解析で示された。

「この試験が1996年に開始された時点では、標準的治療法はホルモン療法だけでした。しかし、この試験は放射線治療の追加により長期生存率が大幅に増加することを示し続けています」と筆頭著者Sophie Dorothea Fosså医師(ノルウェー、オスロ大学病院腫瘍科教授)は述べた。「この併用療法により10年生存率が2倍以上に増加します。また、この併用療法が、期待余命が少なくとも10年以上ある、この種類の前立腺癌男性患者に対する標準的治療選択肢になることが確認されました」。

約8年間にわたる調査の終了後、2009年に公表された臨床試験結果によると、最初に3か月間効果が持続するアンドロゲン除去療法の注射を1回受け、次に放射線治療を2カ月間と経口のホルモン治療を継続して受けた局所進行前立腺癌男性患者の前⽴腺癌特異的死亡率はホルモン療法のみを受けた患者に比べて12%減少した。

局所進行前立腺癌は、前立腺の大部分を覆う被膜を越えて増殖する癌と定義される。この臨床試験が開始された時点では、この種の前立腺癌は切除不能と考えられており、この種の前立腺癌を全て切除するのは困難なため、その切除手術は現在でも頻繁には実施されていない。放射線治療は前立腺周囲の組織に対しても照射でき、前立腺被膜外の癌細胞を死滅させることができる。

この最新解析で、研究者らは11年間にわたる調査を終えた後、ノルウェーとスウェーデン両国の死亡者登録から死亡データを精査した。ホルモン療法のみを受けた参加患者439人で、118人が前立腺癌で死亡した。一方、放射線治療+ホルモン治療の併用療法を受けた参加患者436人では、45人しか死亡しなかった。ホルモン療法のみでは、10年および15年前⽴腺癌特異的死亡率はそれぞれ18.9%および30.7%であった。併用療法では、10年および15年前⽴腺癌特異的死亡率はそれぞれ8.3%および12.4%であった。

ホルモン療法も放射線治療も、性機能障害や軽度の消化管障害などの副作用を引き起こす。「患者が期待する治療後の生活の質に満足するよう治療選択肢について話し合うときは、各患者が治療における副作用をどの程度容認するかと各患者の優先事項を評価することが重要です」とFosså氏は言い添えた。

広範に使用される薬剤により高血圧症の転移性腎細胞癌患者の生存期間が延長

レニン‐アンジオテンシン系阻害薬(renin-angiotensin system inhibitor;RASI、リシノプリル、カプトプリル、ロサルタンなど)を使用することによって、転移性腎細胞癌患者の生存期間が9カ月延長したことが後ろ向き研究から示された。RASIとVEGF経路を標的とした治療を受けた患者では、さらに生存期間が延長した。高血圧は米国では頻度の高い疾患であり、本研究は癌患者の転帰におけるRASIの役割を評価する、これまでで最大規模の解析研究である。

「より大規模の前向き研究が必要ですが、本研究結果から、降圧薬が必要でその投与を妨げる禁忌がない転移性腎細胞癌患者、特にVEGF標的薬投与患者には、RASI投与を検討すべきです」と筆頭著者Rana McKay医師(臨床腫瘍学フェロー、ダナ・ファーバー癌研究所、マサチューセッツ州ボストン市)は述べた。「しかし、高血圧はない、または、RASI投与が必要な疾患が他にある転移性腎細胞癌患者に対する、RASIの投与の決定は時期尚早です」。

McKay氏らは、ファイザー社出資の第2、3相臨床試験に参加した転移性腎細胞癌患者4,736人の臨床試験データベースの情報を精査した。RASI投与患者の定義は、治療開始時か治療開始から30日以内にRASI投与を受けた患者であった。転移性腎細胞癌治療は、腎細胞癌に対して使用・研究されている現行の治療法を反映した。また、その癌治療はさまざまで、VEGF標的薬(例.スニチニブ、ソラフェニブ、アキシチニブ、ベバシズマブ)、mTOR阻害剤(テムシロリムス)、およびインターフェロンが含まれた。

RASI投与患者の全生存期間(OS)は27カ月で、RASI非投与患者のOSは17カ月であった。また、癌はRASI投与患者で、縮小する傾向が強かった。McKay氏らは、あらゆる種類の降圧薬 (2,000人)の投与患者のデータを解析した。そして、RASI投与患者のOSは27カ月で、他の種類の降圧薬投与患者のOSは18カ月であったことを見出した。治療法の種類に基づいて患者を評価すると、RASIの利益は、mTOR阻害剤やインターフェロン投与患者と比較して、VEGF標的薬投与患者で最も顕著であった。

RASIは、アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme;ACE)阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(angiotensin receptor blocker;ARBs)の2種類に分類される。ACE阻害薬は昇圧物質であるアンジオテンシンIIの産生を阻害して、血圧を低下させる。一方、ARBはアンジオテンシンIIの受容体への作用を阻害する。興味深いことに、ペプチドホルモンであるアンギオテンシンIIは血管新生などの発癌過程におけるある種の段階に関与することが研究により次第に示されている。全般的に、RASIは米国で広範に使用される薬剤である。RASIは一般に忍容性に優れるが、倦怠感、血圧低下、目眩、高カリウム血症、咳、血管性浮腫(アレルギー反応)などの副作用がある。

早期中止は泌尿生殖器癌の臨床試験に特有ではない―成人癌臨床試験の約20%は完遂できない

臨床試験の約20%が(介入治療の効果や副作用と関係がない理由で)完遂できなかったことがClinicaltrials.govに登録された成人癌臨床試験7,776件の解析で示された。2010年、米国医学研究所による報告書「A National Clinical Trials System for the 21st Century(21世紀における臨床試験システム)」は、NCI臨床試験共同グループが着手する臨床試験の約40%が完遂しないことを示し、この問題が生じる可能性に対する注意を促した。しかし、全ての癌に関する臨床試験においてNCI臨床試験共同グループが着手する臨床試験の割合は少なく、大規模臨床試験計画におけるこの様な問題の範囲はこれまでに総合的に検討されていなかったため、本解析が実施される根拠が生じた。

「私たちは、臨床試験の癌患者に対する新規標準治療への橋渡しができない原因を検討する際、通常以下の2つのことを念頭に入れます。1つ目は介入治療が奏効しないこと、2つ目は副作用が重度すぎることです」と上級著者Matthew Galsky医師(マウントサイナイ医科大学医学部准教授兼ティッシュがん研究所泌尿生殖器内科的腫瘍学プログラム責任者)は述べた。「しかし、本解析結果から、癌治療の進歩を阻む3つ目の大きな壁が明らかになります。それは、着手された臨床試験の多くが全く完遂されないことです。それゆえ、癌患者に対する最良のケアの理解に貢献することができません。」

本研究で研究者らは、2005~2011年に登録された第2、3相成人癌臨床試験全てに関するClinicaltrials.govのデータを解析した。その結果、7,776 件が特定された。登録上「早期中止」と指定された臨床試験を完遂不能と分類した。臨床試験の開始から終了までの異なる期間を説明する統計学的方法を利用した結果、約20%が完遂不能であったことが判明した。

全般的に、低い集積率が、臨床試験が完遂できない最も大きな原因で、これらの臨床試験の約40%を占めた。彼らがそもそもこの事実の研究に関心を抱いたのは、膀胱癌に関する一連の臨床試験が完遂できないために、膀胱癌の治療法の決定の指針となる科学的根拠が乏しいことに気づいた後であった。しかし、今回の研究では、膀胱癌を含む泌尿生殖器癌の臨床試験は他の癌の臨床試験と同様に完遂する可能性が低いことが判明した。単一施設で実施された臨床試験、業界が出資する臨床試験、および米国内の施設でのみ実施された臨床試験は完遂する可能性が低いことを研究者らは見出した。

Galsky氏が述べるには「完遂されない臨床試験は財源と人材の浪費です。 本研究の結果から、米国内の癌の臨床試験における低い集積率がもたらす広範囲にわたる悪影響がさらに強調されます」。Galsky氏は彼自身臨床試験実施者として、これは臨床試験のシステムにおける他の単一の関係者に対する批判ではなく、この解析結果から臨床試験が実行される新しいアプローチの必要性に関する幅広い対話が促され、関係者間の情報交換と連携が改善されてシステムの効率が上がるという希望であるということを述べた。

翻訳担当者 渡邉岳

監修 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)

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