多くの高齢者が不必要ながん検診を受けている【全米調査】

高齢者の半数以上が過去数年間に1回以上不要ながん検診を受けていたということが全米調査により判明した。

米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、一般的ながんリスクの人は、大腸がん検診は75歳まで、乳がん検診は74歳まで、子宮頸がん検診は65歳まで受けることを推奨している。

一般的に、この年齢以上の人々は、検診の恩恵よりも検診による弊害を受ける可能性の方が高いと、研究に関与していないNCIがん対策・人口統計学部門のBarry Kramer医師は説明した。

「過剰検査」という用語は、過剰な検査が純利益をもたらすであろう時点を超えて行われていることを指す用語である。

がん検診に弊害がある可能性を認識していない人が多いと、ペンシルバニア州立大学のJennifer Moss博士は説明した。Moss博士は、一部NCIの資金提供を受け、7月27日のJAMA Network Open誌で発表された新しい研究を主導している。これらの弊害には、不必要なフォローアップ検査治療につながる偽陽性の検査結果も含まれる。

「高齢者にとって特に心配なのは、検査自体の弊害です。これらの検査はすべて医療行為であり、副作用の可能性があります」とMoss博士は述べている。大腸内視鏡検査のような侵襲的な検査では、このような弊害が起こるリスクが最も高い。

これまでの研究で、青壮年では治療が比較的容易な、がんの早期発見といったがん検診の総合的な利益が有害性を上回ることが示されている。しかし、検査の有害性は加齢とともに増加する。

通常、がん検診は成長の遅いがんを検出する。「検査によっては、その利益が明らかになるまでに10年から15年、あるいはそれ以上かかるものもあります。年齢が高くなればなるほど、その恩恵を受けられる可能性は低くなります」とKramer医師は述べた。高齢になればなるほど、がん検診で早期に発見されたがんが症状を引き起こすであろう前に、別の原因で死亡する可能性が高くなる。

「しかし、検査自体の弊害はそれより前、つまり検査時や検査後すぐに発生することが多いのです。だからこそ、検査を受けた人が恩恵を受け、リスクや弊害の可能性をできるだけ最小限にするために、このような推奨事項があるのです」とMoss博士は付け加えた。

健康に関係なく検査が広まっている

様々な病院からの報告では、多くの高齢者が過剰な検査を受けていることが示唆されている。Moss博士らは、全国のこうした傾向を把握するために、米国疾病予防管理センターが毎年実施している全米調査「習慣リスク要因調査システム(Behavioral Risk Factor Surveillance System)」が2018年に収集したデータを用いた。

本研究では、17万5,000人以上の高齢女性および男性(平均年齢75歳)からの調査回答を再検討し、参加者が最後にがん検診を受けたと報告した年齢を記録した。また、がん検診へのアクセスは都市部と農村部で異なる場合があるため、参加者が大都市圏に住んでいるかどうかについても調べた。

また研究者らは、調査で得られた自己申告の健康情報を用いて、参加者が今後10年以内に何らかの原因で死亡するリスクを推定した。

調査対象者の80%以上が大都市圏に住んでおり、約4分の3が健康状態が良い、非常に良い、または優れていると回答していた。

「ほとんどの対象者が、定期的ながん検診で推奨される範囲の年齢を超えた後に、1種類以上のがん検診を受けていました」とMoss博士は述べた。「過剰検査が驚くほど一般的であることがわかりました。全体では、高齢者の45〜75%が推奨年齢を超えてこれらの検査を受けていました」。

大腸がん検診を受けていると報告した男性の59%が、その効果が期待できる年齢以降に受けていた。また、ほとんどの女性は1種類以上のがんについて過剰に検査を受けており、乳がんは74%、大腸がんは56%、子宮頸がんは46%であった。

大都市圏に住む女性は、農村部に住む女性よりも、それぞれのがん種において過剰検査を受ける傾向があったが、男性では同様の傾向は認められなかった。

病院やその他の医療施設の利用が限られているため、農村部に住む人々でがん検診を受けるのに苦労している人は多い。これは過剰な検査を減らすことができる一方で、必要なときに適切な検査を受けることができなくなる可能性があると、著者らは説明している。本研究では、男性の大腸がん検診において、このような傾向が見られなかった理由は明らかでない。

予測した平均寿命は、がん検診を受けるかどうかには影響しないようであった。

「死亡のリスクが高くなり平均寿命が短くなるため、過剰な検査を受ける人はそんなに多くないと予想していました」とMoss博士は述べた。「しかし、それを証明するエビデンスは認められませんでした。全体的な健康状態が実際に検診を受けるかどうか決めるのに影響するようにはみえません…驚きました」。

検診を超えた検査

USPSTFの推奨事項および専門学会からの推奨事項のほとんどは、がんのリスクが平均的な人を対象としている。この調査では、対象者にがんのリスク因子については尋ねていない。例えば、いくつかの遺伝性遺伝子変異を有する人、がんの家族歴を有する人は、年齢が高くなっても検診を継続することが推奨されている。

「過去にがんに罹患したことがある場合、あるいは過去のがん検診で異常があった場合に、検診を続けるべきかどうか、またどのくらいの期間検診を続けるべきかについては、ガイドラインによって異なります」とMoss博士は説明する。しかし、このような人々は今回の研究では少数派である可能性が高い、と付け加えた。

またこのデータは、症状を報告したために検査を行った人を含むかどうかは不明である。このような診断のための検査は、年齢に関係なく重要であるとKramer医師は説明した。

昨今のようなパンデミック禍であっても、しこりを見つけたり、出血したり、その他の症状が出た場合は、「かかりつけ医に診てもらうこと」と彼は言う。「それはスクリーニング検査ではなく、深刻な問題である可能性のある疾患の治療です」。

しかし全体的には、高齢者のがん検診に関するより良い教育が、臨床医と一般市民の両方に必要であることを強調する研究結果であると、Moss博士とKramer医師は述べている。

「公共サービスのお知らせやがん検診についての話を聞いても、検診を受けるのをやめるべき年齢についてはあまり聞く機会がありません。臨床医や一般の人々の間では、高齢者がいつ検診をやめるべきかという認識はかなり低いと思います」とMoss博士は述べた。

「多くの開業医はガイドラインの推奨事項が何かを知りません」とKramer医師は同意した。しかし、スクリーニング検査の中止について話すのは、特に臨床医が患者と長期的な関係にある場合には難しい、と付け加えた。

「何年も患者のために検査を行ってきた医師が、『あなたは(検査の恩恵が受けられるまで)十分に長く生きるとは言えない年齢になりました』と言うのは非常に難しいと思います」と述べた。

情報に基づく意思決定の必要性

また、健康状態が良好で余命が長い高齢者の集団では、スクリーニングを継続することで恩恵を受ける可能性が高いが、その集団がどのような人なのかはまだ正確には明らかになっていない、とMoss博士は述べる。この分野ではさらなる研究が必要であると彼女は付け加えた。

「利益と弊害のバランスを推定する際には、多くの場合年齢の上限があります。しかしその年齢範囲、つまり上限はいつまでも決まったものではありません」とKramer医師は述べた。

また、検診の中止について、いつ、どのように話すかについても、より多くの研究が必要であるとMoss博士は付け加えた。

「肺がん検診と前立腺がん検診については、実践から学べることがたくさんあります」と彼女は述べた。「これらのがん検診は、来院するすべての人に推奨されるものではありません。がん検診があなたにとって適切かどうか、あなたのリスクは何であるか、そして検査自体のリスクは何であるかについて、医療提供者と相談することが必要です」。

「高齢者を対象とした話し合いの場をいくつか設けて、がん検診の中止について医療者とどのように話したいかについて伺いました。そこでは多くの高齢者が、心からこのような会話をすることを望んでいることがわかりました。彼らは、自分自身の健康リスクに焦点を当てた情報を望んでいます」と説明した。

翻訳担当者 河合加奈

監修 廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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