細胞分裂を逆行させるメカニズムを米国立衛生研究所(NIH)が発表

細胞分裂を逆行させるメカニズムを米国立衛生研究所(NIH)が発表

米国国立がん研究所(NCI)ニュースリリース

がん研究概要

新たな研究により、細胞分裂を準備中の細胞は、細胞分裂のプロセスを逆行させ、休止状態に戻ることが可能であると示唆された。このことは、細胞分裂に関する長年の信念を覆すものである。細胞は分裂準備の初期段階で中断されると、有糸分裂として知られる分裂プロセスを停止させることができた。この発見は、米国国立衛生研究所(NIH)の一部である米国国立がん研究所(NCI)の研究者が主導し、Nature誌(2023年7月5日付)に報告したもので、がん細胞が急速に分裂・拡散するプロセスを阻止する、より効果的な治療の可能性を示すものである。

細胞はマイトジェンと呼ばれる成長促進シグナルを受け取ると細胞周期に入り、細胞分裂に至る一連のステップでDNAの新しいコピーを合成する。長い間、この周期の準備段階には、通過すれば細胞がそのプロセスを止めることができなくなるポイントが含まれていると考えられていた。この 「戻れないポイント」を過ぎると、細胞分裂を促す成長シグナルは不要になると考えられていたのだ。

この新しい研究において、NCIがん研究センターの研究者らは、有糸分裂中の数千の細胞をビデオで撮影し、マイトジェンを離脱すると細胞に何が起こるかを観察した。その結果、約15%の細胞が細胞周期を逸脱し、休止状態に戻った。これらの細胞に共通していたのは、成長促進シグナルの受け取りを止めたとき、細胞周期の進行が他の細胞より遅れていたことである。さまざまな異なる種類の細胞を使った実験で、十分に早い段階で中断されれば、どの種類の細胞でも細胞周期から抜け出すことができることが発見された。

乳がん治療薬パルボシクリブ(販売名:イブランス)のような細胞周期制御因子CDK4/6を阻害する薬剤は、これまで考えられていたのとは異なる方法で細胞の細胞周期の進行を阻害する可能性が高い、と研究者らは述べている。研究チームは現在、この新たな分子メカニズムを利用して、CDK4/6阻害剤と、DNA損傷を誘発する従来の化学療法薬とを併用することで、より持続性のある治療法を計画できるか検討している。

研究者
米国国立がん研究所がん研究センターSteven D. Cappell,博士

研究
2023年7月5日付のNature誌に掲載「S/G2期におけるCDK4/6活性の消失が細胞周期の逆転を引き起こす」

  • 監訳 花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)
  • 翻訳担当者 大澤朋子
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  • 2023/07/05

【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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