2007/05/29号◆特集記事「癌幹細胞の臨床応用に向けて」

2007/05/29号◆特集記事「癌幹細胞の臨床応用に向けて」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2007年5月29日号(Volume 4 / Number 18)
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◇◆◇特集記事◇◆◇

癌幹細胞の臨床応用に向けて

先週NIHキャンパスで行われたワークショップで焦点となったのは、癌幹細胞、およびそれらの細胞が癌の予防と発見のためにどのような利用の可能性があるかについての科学であった。この会議はNCIの癌予防部門(DCP)が後援した。

数百人の研究者らは、癌幹細胞の分子生物学について既知-および未知-の事項に関するプレゼンテーションを聴講した。専門家らは癌幹細胞に関する遺伝子の、あるいは遺伝子外の変異、シグナル伝達経路、腫瘍内微小環境の影響について議論した。

多くの研究者らは、癌幹細胞をいつか臨床に利用することに熱い関心を寄せた。しかし癌幹細胞(および患者の検体)不足が、同細胞の起源などの基本的な疑問を探索する分野の妨げになっている。

「癌幹細胞を分離し、特性を明らかにする技術を発達させることが必要であるという見解が、この会議で強調された」DCPのSudhir Srivastava医師は述べた。「これらの細胞をより多くの施設で研究できるように、細胞株や培養のシステムを確立することが繰り返し話題にされた」。

最近行われた複数の試験で、早期発見における癌幹細胞の役割が裏付けられたと、癌バイオマーカー研究グループの代表であるSrivastava医師は述べた。しかしこれらの研究は患者から得られる癌幹細胞の検体数が不足していることからまだ再現されていない。

癌幹細胞は非常にめずらしく、おそらく100万個の癌細胞に1つほどであるため、分離するのが困難である。最初の癌幹細胞は1997年に白血病患者において発見された。近年では、乳癌、大腸癌、脳腫瘍においても癌幹細胞が報告された。

成人組織を再生する幹細胞のように、癌幹細胞は自らを不死化する一方で、異なった種類の腫瘍細胞を発生させると考えられる。

スタンフォード大学のMichael Clarke医師は基調演説において、前癌病変を同定できる診断検査の確立が重要であろうと述べた。癌幹細胞が発達してくる頃には、患者は手遅れであることが多いと彼は述べた。

Clarke医師は、細胞が正常な自己増殖の制限を逸脱するメカニズムを理解することが必要であるとも強く主張した。

もう1人の基調演説者であるOrdway Research InstituteのStewart Sell医師は、腫瘍内微小環境が癌幹細胞の活動に対してどのように影響するかを討議した。癌幹細胞を取り巻く環境は、癌幹細胞の固有特性と同等に重要であるかもしれないと彼は述べた。

彼と他の研究者らは、癌幹細胞において規制を逃れる遺伝経路、とりわけ自己再生に関与する経路を明らかにする必要性を議論した。これは変異幹細胞の重要なシグナルを同定し遮断する戦法につながる可能性がある。

癌幹細胞は、前癌病変を有する患者も含め、癌のリスクがある患者に対する癌予防薬の開発ターゲットにもなりうる、とNCIの化学予防薬開発研究グループ(Chemopreventive Agents Development Research Group)の代表であるJames Crowell医師はコメントした。

癌幹細胞マーカーの必要性は、繰り返し現れるテーマであった。多くの研究者らは、癌の遺伝的多様性をとらえるために複合マーカーが必要であるだろうと述べた。

ワークショップの成功を基に、DCPは臨床ツールにつながりうる最適な癌幹細胞の基礎研究をサポートすることに関し、専門家らと協議した。

このワークショップを組織するDCPのJacob Kagan医師とLevy Kopelovich医師は、出版に向けて会議録と推奨文を執筆中である。

— Edward R. Winstead

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大倉 綾子 訳
林 正樹  (血液・腫瘍医)  監修 
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