単一検査による複数がんのスクリーニングは不確実

早期がんの有無や位置を容易かつ正確に判断できる可能性のある非侵襲的検査の開発は、がん予防研究で期待が膨らむ分野の一つである。しかも、1種類だけでなく複数のがんを検出する検査である。この数年の間、この分野で目覚しい進展があった。

他の点では健康な人を対象に複数の種類のがんを同時にスクリーニングすることを目的としたMCED(Multi-Cancer Early Detection:多重がん検出)検査が数多く開発されている。MCED検査が臨床的に有益であることが証明されれば、コレステロールや肝機能の検査と一緒にMCED検査をする日が来る可能性がある。

一見すると、症状のない人が簡単な採血でがんの可能性の有無やがんの位置がわかる検査は驚くべき進歩のようである。膵臓がん、卵巣がん、脳腫瘍などスクリーニング検査が存在せず、通常進行するまで診断されず、治療が非常に困難で、致死率が高いがんに特に当てはまる。

しかし、医学や公衆衛生の多くがそうであるようにそれほど単純な話ではなく、MCED検査は依然未知の部分が多いため、次のような疑問が残っている。
・どのような人がMCED検査を受けるべきか。また、どの検査が最適か。
・MCEDで陽性と判定された人がその後の検査でがんが検出されなかった場合はどうなるのか?
・将来のがんリスクにどのようなものがあるか。
・MCED検査を受けた人は、その後実績のあるがん検診の検査を見送るか。
・MCED検査により人種的、民族的、社会経済的にがん転帰の格差が広がる可能性はあるか。
・MCED検査は誰にでも同様に効果があるか。

そして、最も重要な疑問は、がんスクリーニングの最終目標であるがん死亡者数の減少がこれらの検査で実現できるかである。がんを検出しても、そのがんで亡くなる確率に変化がなければ十分とはいえない。

簡単に言えば、これらの検査は依然としてかなりのレベルで不確実であり、わかっていないことも多い。そして、MCED検査のメリットを最大化し、潜在的なデメリットを最小化する最善の方法を理解するために、MCED検査に関するより堅実な研究が必要なことは明らかである。

国家がんプログラムのリーダーであるNCIは、公衆衛生の向上にMCED検査が果たし得る役割を明確にするために必要な大規模研究を実施できる数少ない機関の一つである。

MCED検査の仕組みと効果

MCED検査はリキッドバイオプシーと呼ばれる検査の一種である。現在、FDA(米国食品医薬品局)が認可しているリキッドバイオプシーは、すでにがんと診断されている人に使用されている。

がん患者において、FDAが認可したリキッドバイオプシーはがん細胞から血液中に放出されるDNA、RNA、タンパク質中の特定の生体シグナルを識別するものである。その情報は、患者がどのようながん標的治療や免疫療法を受けるべきかの指針となる。

がん細胞により放出されるか、がん細胞の存在により誘導される生物学的シグナル、すなわちバイオマーカーを血液の中から探すこともMCED検査で試みられている。しかし、MCED検査は、現在FDAが認可しているリキッドバイオプシーとは2つの点で異なる。

まず、MCED検査の目的は、がんであることがわかっている人ではなく、症状のない人を対象としたがんスクリーニング検査としての使用である。二つ目の相違点として、MCED検査は複数のシグナルを同時に評価して、がんの可能性が高いかどうかを判断し、ほとんどの場合、その腫瘍が体のどこにあるのかを特定する。

現在MCED検査を研究している企業が2〜3種類から最大50種類のがんを検出できると主張している。

これまでに実施されたMCEDの研究では、1つか2つの例外を除いて、がんであることがわかっている人、またはがんでない人のグループから過去に採取した血液サンプルが使用されている。そして、これまでのところ実際に複数の種類のがんを検出できることがこの限られたデータで示されている。しかし、がんが存在する場合、がんを検出する能力(感度)は検査やがんの種類によって異なる。

MCED検査は、治療が容易で完治する場合もある早期がんより進行または後期がんのほうを検出しやすいことが同様の研究により一貫して確認されている。また、この検査は特異度が高く、つまり、がんでない人が陽性になる可能性は極めて低いことも確認された。

答えよりも疑問が多い

健康な人に病気があるかどうかをスクリーニングする場合、そのスクリーニングの潜在的なメリットが潜在的なデメリットを上回ると示すことが非常に重要である。

すでに述べたように、がん検診の最も重要なメリットは検診を一般集団に広く使用した際に、がんによる死亡者数が減少することである。この目的を達成するにあたり重要なポイントがあり、スクリーニング検査は、特に検査結果ががんの存在を示唆している場合、検査そのものは始まりに過ぎない。検診結果を確認し、必要であればがんを治療するために多くの段階を踏む必要がある。

スクリーニングの潜在的なデメリットの多くが発生するのはスクリーニング後の段階である。潜在的なデメリットの中で最悪と思われるものが2つある。

1つ目は、スクリーニング検査の結果が偽陽性となり、最終的にがんが存在しないとわかるまで侵襲的で費用のかかる処置が必要となることである。2つ目は、症状を引き起こさない可能性のある進行の遅いがんの診断、すなわち過剰診断と呼ばれる事象である。そして、過剰診断は、残念ながら、時に過剰治療につながることがある。

また、MCED検査でがん死亡が減少するかどうかが判明する前に普及した場合の経済的影響など、社会的デメリットの可能性もある。

MCED検診の重要な研究を企画

要するに、MCED検査の研究をさらに進める必要があるということである。

このような理由からNCIは、スクリーニングや早期発見、診断検査、その他の関連分野においてFDAや政府外の専門家と協力し、優先順位の高い必要な分野を特定している。

この分析により研究の優先順位がいくつか明らかになった。

例えば、MCED検査の基本的な基礎科学や臨床科学についてより多くの研究が必要である。これには、特定のがんやさまざまな患者集団へのMCED検査の実施方法やこれらの検査で使用するバイオマーカーの生物学的性質や自然史に関する研究が含まれる。

また、開発中のMCED検査の性能を検証できるようにする必要がある。このような観点からNCIはAlliance for Clinical Trials in Oncologyが主導する、がんのある人とない人の血液サンプルを採取するプロジェクトを支援している。この血液サンプルは、臨床試験での使用を検討しているMCED検査の性能を独自に確認するために使用される。

この方向性に基づいてわれわれは、大規模な臨床試験を実施し、MCED検査に関する最も差し迫った疑問に答える必要があると理解している。しかし、このような試験を設計することは困難で複雑な取り組みである。

このような理由から、主要な評価指標(評価項目)はどうあるべきか、複数のMCED検査をどのように同時評価するか、陽性結果を診断する精密検査、がんと診断された人のケアなど、大規模試験をどのように設計すべきかについて研究リーダーからフィードバックを得るためにNCIは2021年10月のワークショップを主催した。NCIは現在、このフィードバックをもとにMCED検査のランダム化臨床試験の設計を指導している。

最近、英国の研究者らがMCED単体検査の大規模臨床試験を開始した。米国でNCIが支援する大規模臨床試験を直ちに開始する予定はないが、今後18カ月から24カ月以内に複数のMCED検査を含む試験を開始することを目標としている。

MCED検査が非常に大きな可能性を秘めていることは間違いない。また、有望であるにもかかわらず、普及の前に時間をかけて理解を深めるべきであると聞いて苛立ちを覚える人もいるであろう。

しかし、それはNCIが果たすべき責任であり役割である。NCIは責任や役割を果たしながら、MCED検査の開発に至った長年の研究と革新により一人でも多くの命が救えるように支援する。

翻訳担当者 松長愛美

監修 花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)

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