遺伝子検査で切除不要の甲状腺結節を識別

甲状腺から採取した組織検体中の遺伝子変化を測定する検査が、がん診断目的の切除術が必要な患者と不要な患者の判別に役立つことが、新たな研究でわかった。

甲状腺に小さな腫瘤や塊(結節とよばれる)が見つかり、がんが疑われるときは、針生検での細胞診が行われる。

しかし、その約3分の1では細胞の形態から結節が、がんであるか判断できない(判定不能)、と本研究の筆頭著者でピッツバーグ大学医療センターのYuri Nikiforov医師・医学博士は述べる。

多くの場合、判定不能とされた患者は診断目的で手術を受け、結節のある甲状腺葉を切除する。しかし、切除した結節のほとんどはがんと診断されないため、判定不能とされた生検検体を評価する分子診断法の開発に長年関心が寄せられてきた。

新たな研究で使用された遺伝子検査で、判定不能とされた生検検体から、術後に良性と判明するものを正確に特定できたことが11月8日付JAMA Oncologyに発表された。

この検査は、米国で使用され始めた甲状腺結節のゲノム分類のひとつである。この種の遺伝子検査の開発目的は「不必要な手術を回避して安全性を高めること」であるとNikiforov医師は言う。

過剰治療回避が目的

新たに診断される甲状腺がんは過去数十年で急激に増加したが、ここ数年は増加が徐々に抑えられている。

甲状腺がんが増加した原因は、他の疾患を診断するための頭頸部の撮像が増加したためと考えられている。撮像により、無症状で頸部触診では決して見つからない甲状腺結節が見つかることがある。

新たに診断される甲状腺がんの増加に伴い、過剰診断と過剰治療(健康上問題とならないはずだった結節の検出および治療)の懸念が持ち上がっている。

診断目的の甲状腺切除術の増加に対処するために、Nikiforov医師の研究チームはThyroSeqゲノム分類検査を開発した。この検査では、甲状腺がんと関連する112種の遺伝子の変化を測定する。変化には突然変異、遺伝子融合、コピー数の変化、及び遺伝子発現の変化が含まれる。

この検査では、ある種の腫瘍にみられる変化がどの程度強く甲状腺がんに関連しているかに基づきスコアが得られる。結節が良性か、がんかを判定するカットオフは、研究チームの先の発表で定義されている。

今回の研究では、甲状腺生検で判定不能の結果を受けて診断目的の切除術が予定されている患者232人を集め、切除した結節を術後病理診断した結果を、術前に行った遺伝子分類検査の結果と比較した。

病理診断と同等の結果

切除した結節について、従来の病理診断の結果では257検体(同一患者から複数の結節を摘出した例を含む)中72%が良性、24%が悪性、残り4%が切除を要する境界悪性と判定された。

術前に採取した生検検体に対して行ったThyroSeq検査では、結節の61%が良性、39%ががんと判定された。術後に良性と判明した結節の94%はThyroSeq検査で正しく判定されていた。この検査は、希少なヒュルトレ細胞腫を含め、研究中にみつかったあらゆるサブタイプのがんについて行われた。

ThyroSeq検査で良性と判定された生検検体152例中、3%は偽陰性、すなわち結節は実際にはがんであることが判明した。この確率は通常の生検で認められる偽陰性とほぼ同等であると、本研究のメンバーでないNCIがん研究センター甲状腺外科医のDhaval Patel医師は説明する。

「結節の生検を行うときは、(特に)大きな結節の場合、がん化した領域を外してしまうことがあります。そのため、生検結果が陰性となったうちの約3%で、実際にはがんの場合があります」とPatel医師は言う。

ThyroSeq検査で偽陰性となった結節はすべて、悪性度が低く甲状腺限局性で転移しない低リスクの腫瘍であったとNikiforov医師は説明する。

この検査は、再発や転移のリスクが高い甲状腺がんを特定するいくつかの特異的な遺伝子変異を検出することもできる。このような変異を標的とする薬剤の開発が増えれば、検査で得られる遺伝子情報は個別化治療のためにさらに有用となるだろうとPatel医師は言う。

合併症とベネフィット

甲状腺がんの分類に使用できる遺伝子検査は現在3種類あるため、どの検査を使用するかを決定する前に自分が所属する病院やセンターの甲状腺がんの特徴を理解することが医師にとって重要である。本研究のメンバーでないウィスコンシンメディカルカレッジ内分泌外科長のTracy Wang医師はこのように説明する。

自施設での甲状腺がんの頻度や、病理医が生検試料の細胞診を解釈する際の傾向(良性とがんを識別する境界など)を理解しておくべきで、これらの因子はすべて、最も有用な検査の選択基準に影響を及ぼすとWang医師は言い添えた。

「検査はそれぞれ異なり、長所と短所があります。それらをどのように解釈するか、使用に適した検査をどのように決めるかは、各施設の甲状腺がんの発症数に応じて異なります」とWang医師は言う。

しかし、医師や患者にとってはまずは検査の存在を知ることが重要であるとNikiforov医師は言い添える。多くの患者に診断目的の切除術に代わる代替案を提供できる可能性があるためだ。この種の検査は米国食品医薬品局(FDA)の承認を受ける必要がない。ただし、これらの検査が、各自の保険で償還を受けられるかどうかを医師と協同で判断するべきであると同医師は言う。

ゲノム検査があることで、切除を要するがんと診断された患者にとっても有用となり得るとPatel医師は説明する。

「診断目的で甲状腺葉切除を行い、甲状腺がんを発見したとき、(多くの場合)残存している片葉も切除します。つまり2回手術する必要があるのです。」前もって結節が、がんだとわかっていれば、必要な手術を同時にすべて、確実に行うことができると言う。

ThyroSeq検査で得られる遺伝子情報は、術前に個々のがんの転移リスク判断にも使用できるとNikiforov医師は言う。リスクの程度を知ることで、低リスク腫瘍の患者では片葉のみの切除で治療でき、術後の甲状腺ホルモン補充療法を除外できる可能性がある。

「(検査で)陽性の結果が得られた患者は、画一的な治療でなく個別対応された治療を行うことができます」Nikiforov医師は締めくくった。

翻訳担当者 石岡優子

監修 山崎知子(頭頸部・甲状腺・歯科/宮城県立がんセンター 頭頸部内科)

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