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脳転移に対するテーラーメイド放射線治療は認知機能への影響を軽減する

放射線療法は脳転移の治療に広く用いられており、記憶、処理速度、注意維持をはじめとする脳の重要な機能を傷つけ、患者の生活の質に大きな影響を及ぼすことがある。最新の放射線療法技術を利用すれば、従来の放射線療法と比較して脳腫瘍の縮小・制御効果はそのままで、認知機能への影響を抑えることができるのではないか、大規模臨床試験の初期段階でこのような知見が示された。

NCIが資金提供したこの臨床試験では、脳転移を有する患者が、認知機能を保護することが明らかになっている薬剤メマンチン(Namenda)と全脳照射療法(WBRT)の併用による治療を受けた。そのうちの半数の患者は、最新技術のWBRTを受けた。このタイプのWBRTは、脳の低中位(辺縁系)に位置する海馬を特異的に回避する。

従来型WBRTを受けた患者と比較して、海馬回避型WBRTを受けた患者は、認知機能低下がおこりにくかったとノースウェスタン・メディカルProton Centerとノースウェスタン・メディカルがんセンターWarrenvilleの研究所長であり、本試験の共同筆頭研究者であるVinai Gondi医師は言う。同医師は最近、米国放射線腫瘍学会(ASTRO)と米国神経腫瘍学会(SNO)の年次総会でこの試験の結果を発表した。

この結果は、海馬が放射線に対して感受性が高いことを示唆した以前の研究を裏付けたと同氏は述べた。また、海馬を(傷つけずに)回避臓器にすることにより「患者の認知機能を保護しながら脳転移を効果的に制御し、かつ神経症状も改善するという(3つの)目的を達成できる」ことが確認できたという。

セントルイスのワシントン大学医学部のChristina Tsien医師は、ASTRO総会における講演のなかで、海馬回避型WBRTは、もはや脳転移を有する患者の標準的治療に相当すると述べている。

しかし、Tsien医師は、脳転移治療は「複雑な時代」にあると警鐘を鳴らした。手法や治療方法が複数存在し、脳転移の治療が昔に比べて「はるかに多くの要素を検討しなければならない状況」になっている、と言う。

海馬の保護

脳転移治療の目的と手法は、脳転移の数や患者の状態といった要素によって変わってくるとノースカロライナ州シャーロットのレバインがん研究所(Levine Cancer Institute)放射線腫瘍学部長のStuart Burri医師は言う。

がんが脳に転移すると、脳転移による神経学的な問題を緩和して「患者の生活の質を改善する」ことが治療の主な焦点になってくるとBurri医師は述べた。

身体中のがん細胞を攻撃する標的免疫療法(全身療法)の中には、一部の患者において脳転移を縮小させるものがあることが明らかになっている。しかし、それも患者のなかで少数だと同氏は警告する。

脳転移が3つ以下の患者は通常、高線量の放射線で転移巣を一つ一つ狙う定位放射線手術を受ける。この手法を用いると、腫瘍を縮小でき、症状のコントロールに役立ち、かつWBRTよりも認知機能を損なう危険性が少ない。ただその代償として、定位放射線手術では、WBRTに比べて、がんが脳の他の部位に転移するリスクが高くなるという。

定位放射線手術は3つ以上の脳転移巣を有する患者の治療にも使われる場合が増えているとBurri医師は言う。しかし、多くの患者がいずれかの段階でWBRTを受けていることは今も変わっておらず、従来どおりのWBRTを受ける患者の半数近くが何らかの認知機能低下を経験しているという。 その認知機能低下の一部は回復できるものの、回復せずに低下が進むと患者や介護者の「生活を一変してしまうこともある」と付け加えた。

これらの研究に基づき、NCIが資金提供するNRG腫瘍学臨床試験グループの研究者らは、海馬を回避するWBRTが治療に関連した認知機能低下を抑制するかどうかを試験することを決定した。

その手法は第2相小規模臨床試験の初期段階で有望な結果を示した。しかも、その試験結果が出たのはNCIが資金提供して行われた大規模臨床試験において、メマンチンがWBRT関連の認知障害の進行を遅らせる可能性が明らかになって間もない頃だった、とNCIのがん予防部門の緩和研究責任者であるAnn O’Mara博士(登録看護師)は説明した。

次なる論理的な疑問としては「海馬回避とメマンチンを併用すると(WBRTが)認知機能に及ぼす影響をさらに軽減できるか」であった、とO’Mara博士は話した。

治療効果を低下させることなく認知機能を保護する

NRG-CC001と呼ばれるこの試験には、500人以上の脳転移患者が登録された。脳転移巣の数に制限は設けなかったが、海馬から5ミリメートル以内に転移巣のある患者はいなかった。試験に参加した患者の大多数は肺がんで、約40%の患者については脳にしか転移がなかった。

試験の参加者は、試験登録時点とその後1年間の複数の時点において、認知機能を評価するために一般的に使用されているいくつかのテストを受けた。

全生存期間や、別の脳転移や再増殖までの期間については、海馬回避型と標準型に違いは認められなかった。脳転移は予後不良であり、患者の約3分の1近くが試験登録後4カ月以内に死亡した。

Gondi医師のASTRO年次総会における発表によると、臨床試験中の各テスト実施時点において、海馬回避型WBRTを受けた参加者の方が、標準型WBRTを受けた参加者よりも認知機能低下(認知機能テストの点数の有意な低下、と研究者らが定義)がおこりにくかった。

全体として、海馬回避型治療を受けた患者の認知機能低下のリスクは26%減少した。この患者群のうち、61歳以下の患者はそれより年齢が上の患者に比べて認知機能低下を経験する確率が低かった。しかし治療効果は年齢に関係なかった。

米国神経腫瘍学会(SNO)の会合において、研究者らは認知機能テストの結果をより詳細に発表した。その報告によると、海馬回避型の利点は主に実行機能(日常生活の一般的な作業を行う能力)や学習と記憶の領域に起因している。患者側からも、神経学的症状が有意に改善したと報告があったという。

「海馬回避型治療を受けた患者は、認知機能の改善、疲労の軽減、発話能力の改善、物事を覚える能力の保持が認められた」と共同筆頭研究者、メイヨークリニックのPaul Brown医師は言う。

全体として、この試験の結果はメマンチン試験実施前に用いるWBRTとして捉えるべきであると同氏は話した。メマンチン試験とこの最近の試験の結果を組み合わせると、海馬回避型WBRTとメマンチンの併用によって、WBRT単体で治療した場合と比較して、放射線に関連した認知機能低下のリスクを40%以上減らせる可能性があるという。

海馬回避型治療は今後広がるか

Burri医師も、この知見は非常に重要であり、これまでの治療方針を変えることになるという見解に同意した。複数の小規模な研究では「海馬回避型であっても生存に悪影響を与えていない」という説得力のある証拠を示してくれた、と言う。しかし「これらの新しいデータが出るまでは認知機能を保護するという点で従来型のWBRTより海馬回避型が実際に優れているかどうかは明らかではなかったのです」。

Burri医師は、海馬回避型WBRTの実施には一定の訓練が必要になるものの、放射線治療を行う病院やセンターのほとんどにおいて実施可能なはずだと述べた。

同時に、この治療の有用性をより正確に評価するためのさらなる研究が行われている。例えばNRG腫瘍学は、NCIの資金提供を受けて、脳転移が特に起きやすい小細胞肺がん患者に対し、予防的頭蓋内放射線療法中に海馬回避を実施する試験を行っている。

そして、免疫療法や標的療法をすでに受けた患者における海馬回避型WBRTの有用性を調べる研究も始まったところである。

「この研究は現在進行中であり、興味深く重要な領域です」とGondi医師は話した。

翻訳関口百合

監修河村光栄(放射線科/京都医療センター)

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