甲状腺微小がんへの介入を選択しない患者への支援が不足

微小で無症候の甲状腺がん、またはその疑いがあり、すぐに生検や治療を望まない患者は、医師、友人、家族などの非協力的な対応に直面する可能性がある、と新たな研究が示している。患者はこのような対応を受けることで、がんの進行や孤立感に対する不安を抱き、場合によっては、がんのモニタリングの中止を決断する一因となる可能性があることを、この研究で明らかになった。

近年、がんの過剰診断(医学的な問題を引き起こす可能性がほとんどない微小ながんの発見)について、科学的関心が高まってきている。前立腺がん、乳がん、甲状腺がんなどのがんの過剰診断が、医師と患者の両者に難題を突きつけている、と研究は示唆している。医師がどのがんが進行するかを確実に予測することができず、医師と患者に疑念をもたらす。しかし、癌に対する治療として、通常であれば害を及ぼさない治療が、実は不必要であった場合(これが過剰治療として知られるものだが)、結果として有害な副作用をもたらす可能性がある。

米国では医師の多くが、甲状腺乳頭がん又はその疑いがある微小な甲状腺結節を、ただちに生検又は手術することを推奨している。しかし、このような甲状腺結節のある人々を積極的に観察する方針はまだ医療者に広く受け入れられていないにも関わらず、介入しないことを自ら選択する人々もいる。

3月9日にJAMA耳鼻咽喉科頭頸部外科学会雑誌で発表されたこのような人々への聞き取りに基づく調査結果は、このような患者の選択についての医学的議論や難問に患者が直面した際に、「われわれには、患者に対する配慮を怠らず、患者と開かれた議論を行う必要があることを指摘しています」、と主任研究員である、バーモント州ホワイトリバー・ジャンクションにある退役軍人病院アウトカムグループ、および健康政策・臨床診療ダートマス研究所のLouise Davies医師は述べた。

著者らは、調査結果がインタビューをした人の経験のみを反映しており、同じような状況にいる別の人はまた別の感じ方をする可能性があることに注意すべきとした。実際、このような場合に医師のアドバイスに疑問を抱く人は珍しい、とDavies医師は述べた。

調査結果は、「がんの旅路」においてさまざまな時点で患者が経験するであろう外的圧力をより理解する必要があることを強調している、とNCIがんコントロールおよび人口科学(DCCPS)部門の転帰研究科長であるAshley Wilder Smith博士、公衆衛生学修士は述べた。

さらに、そのような外的圧力が医療に関する決定にどのように影響し得るか、また一般的に人々がどのように感じるかを理解する必要があることを強調している、とSmith博士は述べた。Smith博士自身はこの研究には関与していない。

疑問を呈したことによる結果

 この研究の参加者の中には、甲状腺結節が偶然に、例えば、他の理由で実施した頸部や胸部のCTスキャンにより結節が発見され、がんを疑われた、又はがんが判明した人もいた。一部の参加者は発見されたがんや疑いのあるがんが進行しそうにはないと考えて、医学的に奨励されている生検や手術に疑問を呈した。

22人の参加者のうち、1人はセカンドオピニオンを受けてがんの診断が取り消され、3人は最終的に甲状腺を切除する手術を受けることに決めた。残りの18人は介入しないことを決め、研究の時点で平均39ヶ月間生存していた。

研究者との電話インタビューで、介入しないことに決めた18人中12人は、医師や友人などから「愚かだ」、「間違っている」、「正気ではない」と言われるなど、相手から協力的ではない、あるいは不安にさせる対応を受けたと報告した。

ある参加者は、「この世界で手術を受けないと決めることは、橋から飛び降りると決めるようなものです。私はみんなの反対に逆らう決断をしたのです」と語った。

望ましくないアドバイスや批判を避けるため、15人は自分の意思決定を公表しないことに決めた。

「がんであると誰かに言えば、瀕死の状態であると思うだろうから、私は誰にも言いません」とある人は語った。「自分が無責任または、自殺をしようとしているかのように、人から扱われます」。

甲状腺微小がんの過剰治療を避けるためには、すでに前立腺がんで始まっているように、さらなる努力が必要となる、とDavies博士は述べた。「ソーシャルメディアを通じて、あるいはそれぞれの医療制度による支援グループを通じて、患者をよりわかりやすく支援する方法を見つけることが良い戦略かもしれない」とDavies博士は述べた。

賢明な意思決定を支援するオンラインツールの開発も有用なはずだ、と続けた。

「医師としての仕事は患者と協調していくことだと思っているので、個々の患者の医療ニーズ、優先順位、価値観を反映した最善の決定をしていると私たち全員が感じています」とDavies博士は述べた。「特定のガイドラインと、明示的なモニタリング・プログラムやレジストリ(患者の転帰に関するデータを収集すること)を持つことで、医師はかなり助かるはずです」。

米国甲状腺協会および全米総合がん情報ネットワークの現在の臨床実践ガイドラインでは、いまだに微小で早期の甲状腺乳頭がん患者に手術を勧めている、と著者らは指摘している。

患者の経験を理解する

Smith博士のメッセージの中心にあるのは、「患者自らのがん治療に関する決定とは関係なく、患者の経験を私たちはよりよく理解する必要がある」ということである。

一般的な甲状腺がんの患者にとって確定的なことではないが、このような小規模で質的な研究は、「患者の生活について、疑問を尋ね、その(患者の決定の)意味合いを理解しようとする、ひとつの方法です」とSmith博士は述べた。

「この研究は、意思決定の共有についてどのように考えるかを検討する上で重要となる、新しい概念をもたらしました」と保健システムおよび 介入研究科長で、医療意思決定プロセスモデル担当のDCCPSの科学者であるSarah Kobrin博士、公衆衛生学修士は述べた。

Davies博士らが聞き取りをした人々が、あいまいな診断に直面している典型的な人々とは言えないかもしれないが、「自分の人生において他人から受ける影響と、選択がなされた後、それがどのように影響するかについては、(過剰診断の)概念を超えて応用できる」とSmith博士は述べた。「がんの旅路の他の局面でも、同じようなの圧力を感じることがあります」。

例えば、とSmith博士は続けた。初めに積極的に治療を続けていたが、がんの再発時に治療を継続しないことに決めた人々は、友人たちがこのような状況でどう支援したらよいか分からないため、孤立感を抱いている可能性がある。緩和ケアのような終末期の患者の決定は、状況が進展するにつれ、医師、家族、および友人の対応によって影響を受けることもありうる。

「現時点では、意思決定の共有について考える時、意思決定が一連の流れの終わりであると考える傾向があります」とKobrin博士は述べた。「あなたは医師と同意しました。それで終わりです」。

しかし、とKobrin博士は続けた。Davies博士らの調査結果は、患者が決定する際には、コミュニティ、患者の人生に重要な人々、さらにソーシャルメディアの長期的な影響を考慮する必要性を示唆している。

翻訳担当者 中島 節

監修 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学病院 呼吸器科)

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