イチゴと喫煙者の口腔がんリスクを探る初期試験

たばこの煙やヘビースモーカーの唾液は、イチゴに含まれるがん抑制物質の代謝や、口腔がんリスクに関連する遺伝子の発現に影響するのだろうか?

影響すると仮定して実施されたオハイオ州立大学総合がんセンター Arthur G. James Cancer Hospitaland Richard J. Solove Research Institute(OSUCCC – James)の新たなパイロット試験の初期データでは、喫煙者と非喫煙者の口腔内の微小環境に複数の興味深い相違点があることが明らかになっている。

研究者らは、4月4日火曜にワシントンD.Cで開催される米国がん学会(AACR)2017年次総会で、その知見を報告する。

試験デザインと結果

本研究では、機能性食品、腫瘍学、公衆衛生など多分野の専門家によるチームを構成して初期臨床試験を実施し、イチゴの植物性化学物質に対する唾液酵素活性における、喫煙者と非喫煙者の相違点を明らかにした。また、喫煙に関連する特定の遺伝子群の発現および口腔がんのリスク上昇についても分析した。

イチゴは、植物性化学物質が口腔内に送達されるように開発した菓子として投与した。イチゴの植物性化学物質であるアントシアニン類は、果物や野菜に見られる紫や赤の色素群である。

これまでの研究で、丸ごとのイチゴを食餌として摂取することは、口腔がんおよび食道がんの予防対策となる可能性が高いことが示唆されている。

「イチゴを食べるとき、噛んですぐに飲み込んでしまいます。われわれの目的は、口腔がん予防に有効な植物性化学物質の口腔内曝露を増やす方法を開発することと、唾液酵素による植物性化学物質の代謝について喫煙者と非喫煙者の相違を探すことでした」と、本研究の筆頭著者であるオハイオ州立大学歯学部博士研究員のJennifer Ahn-Jarvis博士は説明する。

このため、Ahn-Jarvis氏ら研究チームは、オハイオ州が開発したイチゴ菓子(丸ごとのイチゴ2.5カップ分の栄養に相当する小さなキャンディ)の有効性を分析するため、ヘビースモーカー群と同人数の喫煙未経験群を比較するパイロット試験をデザインした。

参加者には、イチゴ菓子またはプラセボを1日4回1週間摂取し、その間は赤や紫の果物や野菜を食べないよう指示した。

その後、研究チームは口腔内から唾液および組織検体を採取して、イチゴの植物性化学物質を代謝する唾液酵素の濃度と活性を測定し、たばこの煙や口腔がんリスクに関連する44個の遺伝子を選択して発現を測定した。

イチゴ菓子を摂取した後、口腔内の唾液酵素活性およびイチゴの代謝産物について、喫煙者と非喫煙者における有意差がみとめられた。また、7個の遺伝子(ALOX12B、CD207、HTR3A、KRT10、LOR、PNLIPRP3、TRNP1)について、喫煙者と非喫煙者で検証した。口腔がんリスクに対する喫煙とイチゴ摂取の組み合わせの影響や、遺伝子発現との関連については不明であり、現在も研究中である。

「この初期データで、喫煙者の口腔内環境が全く異なるものであることがわかりました。最終的にはがんリスクだけでなく、食事によるがん予防対策の有効性にも影響する可能性があります。この菓子による送達システムの開発と使用の成功により、さらに大規模な試験で使用する道が開ければ、口腔がんの発症に関連する分子エンドポイントに及ぼす喫煙とイチゴの影響をより正確に評価できるでしょう」と、Ahn-Jarvis氏は述べる。

口腔でのアントシアニン類の曝露時間と喫煙者の口腔がんリスクの減少には相関性があるかどうかを判断するため、試験データの分析が進行中である。また、口腔がんの発症に影響を及ぼす可能性のある、イチゴが調節する遺伝子を喫煙者の口腔内で同定する研究も進行中である。

本研究の一部は、OSUCCCとPelotoniaの支援を受けた。共同研究者: Thomas J. Knobloch博士、Steve Oghumu博士、Ken M. Riedl博士、Guy Brock博士、Steven K. Clinton医学博士、Yael Vodovotz博士、Steven J. Schwartz博士、Christopher M. Weghorst博士

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 北丸綾子(分子生物学)

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