甲状腺がんのリンパ節切除のための“転移確率”データ

デューク大学医療センター

進行甲状腺がん患者の手術をする外科医は、再発リスクを低減するためにどれだけ多くのリンパ節を切除するべきかを決める際に、矛盾を感じることが多い。

もし十分なリンパ節を切除して評価しなければ、がんを取り残す可能性がある。しかし、神経、喉頭、副甲状腺などに近い部分に切除範囲を広げすぎると、重大な合併症を引き起こしうる。

デューク臨床研究所および デュークがん研究所による新しい研究は、最低限いくつの腫瘍周囲リンパ節を切除解析すれば不必要なリスクを伴わない十分な治療となるのかに関して、患者や医師に客観的かつ定量的なデータを示そうと試みたものである。この後ろ向き研究は8月15日付のJournal of Clinical Oncologyに掲載される。

「手術に当たっては、外科医に多くの判断が託されています。腫瘍が大きく、またはリンパ節内にがんが存在しているという明らかな証拠があれば、それを摘出します」と著者であるデューク臨床研究所および デュークがん研究所主任内分泌外科医で内分泌腫瘍グループ主任のJulie Ann Sosa医師は述べた。

「明らかな浸潤の証拠がなくても、予防的にそれらを除去することはできます。しかしそうしなくても良いかもしれません」Sosa医師は言った。「それはヘルスケアチーム全体が直面し困惑する問題です。外科医にとってはリンパ節を切除するべきか、内分泌医にとっては、一部手術中にリンパ節について得られた情報に基づき、放射性ヨウ素を投与すべきか、そして患者にとっては情報と治療がより良い生存という結果に至るのかといった問題です」。

外科医および病理医は、患者のがんの病期と予後を確認するためにリンパ節を解析する。それは、外科医、核医学医および内分泌医にとって、患者にどのような治療を追加する必要があるかを評価するのに重要な情報である。

デュークの研究者らはリンパ節転移を認めた乳頭状甲状腺がん、約39000例を解析した。National Cancer Databaseを通じてアクセスしたそれらの症例は1998年から2012年の間に発症したもので、すべての患者は甲状腺摘出術を受けており、その時点で1つ以上のリンパ節が調べられていた。

デュークの研究者らの計算によると、ステージT1b(腫瘍の最大径が1cmを越え、2cm未満のもの)患者に外科医が手術を行う場合、腫瘍周囲の転移陰性と判断されるリンパ節を6個切除すれば、リンパ節転移の見逃しは90%以上の確率で生じない。

T2期の腫瘍(最大径が2cmより大きく4cmより小さい)を有する患者に対しては、外科医および病理医は9個以上の腫瘍周囲のリンパ節を検査すべきである。

T3期の腫瘍(最大径が4cmより大きく甲状腺の被膜外に微小浸潤を伴う)を有する患者に対しては、外科医および病理医は少なくとも18個の腫瘍周囲のリンパ節を検査すべきである。

「私たちは、(リンパ節転移見逃しの)リスクを定量化するよう努めました」統括著者である デュークがん研究所の生物統計学責任者Terry Hyslop, 博士は述べた。「私たちには個々の患者での正確な見逃し確率はわかりませんが、この見逃し確率は大量のデータの解析結果に基づいて算出されたものです」。

一部の外科医は、術前の画像で確認できなくてもリンパ節にがん組織が存在している場合に備えて、再発の危険を抑えるために、頸部中央区域のリンパ節の予防的郭清を選択する。本研究はこれらの予防的郭清において、外科医は十分な評価のためには腫瘍の病期に応じて3から8個のリンパ節を切除する必要があることを示唆している。

著者らは、本研究の限界についても言及している。つまり、これは後ろ向き解析であり、また切除されたリンパ節の正確な位置も示されてはいない、と著者は述べた。それでもなお彼らは、本研究が外科医のためのガイドラインの発展につながり、患者に手術に際してリンパ節を除去するリスクや利点を説明するための一助となることを期待している。

「この研究により、放射性ヨウ素アブレーションのような術後の追加治療の有用性について医師と患者が共同でより良き意思決定ができるようになるかもしれません」とSosa医師は述べた。

Hyslop and Sosa医師の他の共著者は次の通りである。Timothy J. Robinson; Samantha Thomas; Michaela Dinan; and Sanziana Roman. The National Cancer Institute P30 Cancer Center Support Grant (P30-CA014236) and Duke University departmental funds supported this work. Sosa is a member of the Data Monitoring Committee of the Medullary Thyroid Cancer Consortium Registry supported by Novo Nordisk, GlaxoSmithKline, AstraZeneca and Eli Lilly。他の著者らは競合する利害関係にない。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

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