がんの易罹患性に関する遺伝学的検査についての提言の更新版を発表/米国臨床腫瘍学会(ASCO) | 海外がん医療情報リファレンス

がんの易罹患性に関する遺伝学的検査についての提言の更新版を発表/米国臨床腫瘍学会(ASCO)

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がんの易罹患性に関する遺伝学的検査についての提言の更新版を発表/米国臨床腫瘍学会(ASCO)

米国臨床腫瘍学会(ASCO) プレスリリース

 

新しい遺伝学的技術の最適利用のためには研究の拡充、医療従事者の教育、品質保証が必要

 

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は本日、がんの易罹患性に関する遺伝学的検査についてまとめた提言の更新版を発表した。Journal of Clinical Oncology誌に掲載されたその提言は、がんの遺伝的易罹患性の評価と同定が、新しい技術によってどのように変わりつつあるのかについて概説し、がん診療においてこれらの技術が最適に展開されるよう、一連の提言を行っている。

 

「ヒトゲノムの塩基配列決定とマッピングは近代科学の偉大な功績の一つですが、この功績が、がんとの闘いにすばらしい発見と希望の時代をもたらしました」と、ASCO会長Julie M. Vose医師・経営学修士・ASCOフェローは述べた。「がんの診断と治療は遺伝医学が主導するようになってきており、遺伝性がんのスクリーニングにかかわる新しい機会や問題が生じています。この重大な局面でASCOが今回の提言の更新版を発表するのは、がんの易罹患性に関する遺伝学的検査の未来が広がるにつれて、関係者一同がこれらの懸念について慎重に考慮することを確実にするためです」。

 

革新的な遺伝学的技術が、がん診療の飛躍的な進歩を推進

強力な技術が登場し、がん発生リスクを増加させる遺伝性の遺伝子変異の同定や、がん患者では、特定の治療薬への反応性に関連する腫瘍の変異を同定するのに役立っている。(すべてのがんの10パーセントは、がん発生に寄与する遺伝性の変異と関連している可能性がある。)

 

患者の転帰を改善することを最終目標にして、遺伝学的検査は腫瘍研究や治療開発の主な対象領域になってきている。しかし、ASCOが更新した今回の提言の中で述べているように、「新しい技術は、大変な複雑さをもたらしている」。そして、患者、医療従事者、医療政策立案者、そしてヘルスケアシステム全体に、重大な影響を与えている。

 

そのような技術の1つが「次世代」シークエンシング(NGS)であるが、これは従来の方法に比べてより迅速かつ低費用で、患者のがんに生じたDNA塩基配列の変化を一覧にして表示することができる。この技術を腫瘍に適用すると、NGSによる「体細胞変異のプロファイリング」で治療標的を同定することができ、その標的を狙って特定の治療を行うことで患者の転帰を改善しうる。同時に、NGSは生殖細胞系列の変異(親から受け継がれ次世代へと遺伝する変化)を同定することが可能であるため、現在のがん診療におけるがんの遺伝的易罹患性に関するカウンセリングと検査に難題を突き付けている。

 

「今日のがんの診断と治療は、がんの遺伝子レベルで何が起こっているか、われわれの理解が広がったことと密接に関連しています」と、今回のASCO提言の主著者でありASCO倫理委員会委員長のMark E. Robson医師は述べている。「この将来有望な分野が進歩するに伴ってわれわれが確保しなければならないことは、医療従事者が診断や治療に関する利用可能な選択肢について精通していること、患者が遺伝性リスクを同定する遺伝学的検査を受けられること、そして、これらの検査の行政による監視体制を整えることです」。

 

ASCOの提言

ASCOがん予防委員会および倫理委員会が作成した提言の更新版「がんの易罹患性に関する遺伝学的検査(”Genetic and Genomic Testing for Cancer Susceptibility”)」ではレビューを行い、以下の5つの重要な領域において提言を行っている。

 

1.体細胞変異プロファイリングから得られる生殖細胞系列に関する示唆

提言:ASCOは、偶発的かつ副次的に得られた生殖細胞系列の解析結果の情報開示にあたりベストプラクティス(最良の実践法)を展開できるよう、さらなる研究を要請する。また、この分野において、患者の意向の理解向上、検査前教育やインフォームドコンセントの最適化、複数の階層的な結果(患者、医療従事者、ヘルスケアシステムの提供、および費用)の改善を目的とする研究を奨励する。ASCOはさらに、二次分析を行うことにしている検査機関は、生殖細胞系列の解析結果を知りたくない患者に対し、体細胞の結果だけを知らせる仕組みづくりをするよう提言する。

 

背景:腫瘍の体細胞変異プロファイリングまたはNGSの第一の目的は、腫瘍における変異を同定し治療の選択肢について知らせることであるが、これらの検査により生殖細胞系列の変異も同定される場合がある。ASCOは、生殖細胞系列の変異が確認される可能性について患者は検査の前に教育を受けること、また、生殖細胞系列の解析結果の通知に関する限界とリスクについて医療従事者は患者と話し合うことを提言する。

 

2.がん易罹患性の複数遺伝子パネル検査

提言:ASCOは、臨床的有用性が不確定な遺伝子や患者本人または家族の病歴からは関連が考えにくい  遺伝子を含む複数遺伝子パネル検査について、その結果の整理・解釈には、がんのリスク評価に関する特定の専門知識を持つ医療従事者が関与すべきであると主張する。さらにASCOは、パネルを用いた検査の最適利用について詳述することを目的とした研究を行うこと、データが明らかになるに伴いエビデンスに基づいた実施ガイドラインを策定すること、そして、これらの検査の利用上の課題について医療従事者を教育することを奨励する。

 

背景:複数遺伝子パネル検査はNGS技術を用いたもので、多数の遺伝子を同時に眺めて遺伝性がんの原因をより迅速に見つけることが可能である。これにより、時間と費用の効率が上がり、患者や医療従事者の検査による疲労が緩和され、その他にも利点が得られている。複数遺伝子パネル検査は個人のがんリスクの素因となる遺伝子要因を同定する可能性を高めるが、同時に、がんやその他の疾患の予期せぬリスク、推奨治療法が不明確ながん遺伝子の変異、意義不明の変異も同定する場合がある。ASCOは、不適切な医療行為や心理的ストレスなどの害が患者に及ぶ可能性を取り上げ、この検査の目的と関連リスクについては医療従事者が患者と一緒に再検討すること、また、十分な教育を実施した上で検査前に患者の同意を得ることが必要であることを強調する。

 

3.遺伝学的検査の品質保証

提言:ASCOは、技術革新を損なわず、患者の検査受検を制限することのない方法で、遺伝性の遺伝子変異を検出する検査の適切な規制を推奨し、薬事未承認検査および商用検査のFDA規制におけるリスクベースのアプローチを支援する。個々の検査機関が実施する遺伝学的検査の精度、利益、限界について医療従事者と患者が理解できるよう、高品質の基準が採用されるべきである。

 

背景:2000年以降、新しい遺伝子診断検査が爆発的に増加している。現在、200を超える遺伝学的検査が利用可能であり、異なったさまざまながんの発生リスクの決定に役立っている。これらの検査を実施している検査機関が用いる分類および通知方法は異なっており、医療従事者や患者が結果を解釈することが困難な状況にある。ASCOは、新しい遺伝子シークエンシング技術に対する統一的な規制の枠組みがないために患者ケアが損なわれる可能性があることを主張する。さらにASCOは、あらゆる遺伝子変異を一覧表示してすべてにアノテーション(遺伝子注釈)を付加し、厳密に検証・修正処理を行い、すべての検査機関が利用できるオープンアクセスの遺伝子変異データライブラリを作成するための努力を支援する。

 

4.腫瘍専門家の教育

提言:ASCOは、がんのリスク評価および遺伝性のがん素因を保有する患者の管理について、腫瘍医およびその他の医療専門家を継続的に教育することを推奨する。さらにASCOは、腫瘍学研修プログラムは、新しく訓練を受ける人の一連の中心的技能を伸ばし、これらの技能を習得するための十分な時間を確保するものであることを推奨する。

 

背景:ASCOは、がんリスク評価を行うために必要な技能は、特定の訓練法によるものではなく、腫瘍学、遺伝医学、遺伝カウンセリングおよびその他の分野の要素を統合することにより育成されるものであることに留意する。しかしながら、腫瘍医は、原発がんの管理や、二次性悪性腫瘍や治療に関連したがんのリスクについても患者に助言するよう最適に位置づけされている。実際、生殖細胞系列のリスク評価は、通常、がんの標準診療に組み込まれている。遺伝性がんのリスクが高い個人を特定し管理することは腫瘍学の核となる能力であるが、今日の腫瘍医が業務上必要となるのは、ほとんどの医師が研修期間中には得られないレベルの、遺伝学に関する知識である。腫瘍医研修を修了して臨床診療に従事する腫瘍医に対し、ASCOは、腫瘍学の複雑な分野、および腫瘍疾患を評価し治療する環境の変化について、最新の理解を維持するためには、継続的な医学教育が重要であることを強調する。

 

5.がんの遺伝学的サービスへのアクセス

提言:ASCOは、遺伝学的リスクが高いと疑われる個人が、がんリスク評価や予防的医療を受けることを支援する保険診療体制を要請する。さらにASCOは、遺伝学的検査の適切な利用の障壁となることでがん患者の治療に負の影響を及ぼす可能性がある医療費の支払い制度に反対する。

 

背景:ASCOは、質の良いがんの遺伝学的診療が受けられることを確保するよう真剣に取り組んでおり、エビデンスに基づいた遺伝学的検査および予防医療に対する第三者機関からの医療費償還が、科学の急速な進歩と足並みをそろえて継続的に拡大するよう支援する。がんの遺伝カウンセリングや遺伝学的検査に対する保険適用はこの数年間で改善されてきているが、これらの医療に対する適用がまだ不十分な保険支払者もいる。ASCOは、十分な保険適用の確保に努めると同時に、患者がその適用範囲の制約のためにがんの遺伝学的診療の利用を制限せざるを得ないことのないように努力を払っている。ASCOは、資格を有する医療専門家によって遺伝性のがん易罹患性のリスクがあると判断された個人については、遺伝学的検査に関して十分な説明を受けた上で意思決定するという利益が得られるよう、検査前および検査後のカウンセリングの実施を引き続き支援する。

 

ASCO指導部は提言更新の重要性を強調

Journal of Clinical Oncology誌の同号に掲載されたASCOボランティアリーダーらによる付随論説には、「遺伝子シークエンシングの将来性の高まりと検査にかかる費用の減少が、規制政策と臨床診療の両方に変化をもたらし、今回のASCO提言の更新につながった」と特筆されている。ASCO会長Julie M. Vose医師・経営学修士・ASCOフェロー、ASCO前会長Peter Yu医師・米国内科学会名誉上級会員・ASCOフェロー、およびASCO次期会長Daniel F. Hayes医師・ASCOフェローは、「あらゆる展望が検討され、また、がん易罹患性に関する遺伝学的診療が包括的かつ患者中心であることを確保するためには、多岐にわたる分野の利害関係者の間でしっかりとした議論が必要となるでしょう」と著述している。

 

原文掲載日

翻訳下川智美

監修林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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