2012/05/01号◆クローズアップ「数値の解読:癌検診の統計値を正しく読み取るために」 | 海外がん医療情報リファレンス

2012/05/01号◆クローズアップ「数値の解読:癌検診の統計値を正しく読み取るために」

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2012/05/01号◆クローズアップ「数値の解読:癌検診の統計値を正しく読み取るために」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2012年5月1日号(Volume 9 / Number 9)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
PDFはこちらからpicture_as_pdf
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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇

数値の解読:癌検診の統計値を正しく読み取るために

過去数年にわたり、癌検診についての話し合いは医学界内部で変化し始めている。乳癌、前立腺癌、および卵巣癌検診については、多くではなく少ない回数の定期検診を推奨するという傾向にある。これらの推奨は、直感的に理解しにくいかもしれないが、検診の回数を多くしても必ずしも癌死は減少しないこと、検診によっては効果があるというよりむしろ害になるという新しい理解に基づくものである。

検診の効果にまつわる混乱の多くは、検診研究の結果を記述するのに多く用いられる統計の解釈に由来している。癌検診を受けた人における生存期間(癌の診断後、患者はどの位の期間生存するか)の改善は、その検診により救命されることを意味するように理解されることが多い。

しかし、幾つかのバイアスがあるため、生存期間や生存率を検診効果の正確な判断に用いることはできない。

バイアスの原因

症状による癌診断の前に、検診によって癌が早期に発見されると、リードタイム・バイアスが生じるが、早期診断によって疾患の経過が変わることはない。(さらに詳しい説明は原文右図参照[画像内語句およびキャプション訳は下記])

リードタイム・バイアスは、発見後の生存期間を比較するすべての解析に伴うものである。リードタイム・バイアスがあるため、検診さらに言えば早期診断による癌発見後の5年生存率は、検診により救命が可能かどうかを判断するにはそもそも不正確な基準となる。残念ながら、発見後の寿命が延びるという認識が医師にきわめて強い可能性があると、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター生物統計学教授Dr. Donald Berry氏は述べた。

「『ドナルド君、マンモグラフィができる以前の20年前を考えてみたまえ。当時、乳癌患者を診ていても5年後にはその患者は死亡していたが、今や診ている乳癌患者が15年後でも戻ってくるのだよ。再発しなかったということだ。検診には驚くべき効果があることは明らかだ』、と私に語った優秀な腫瘍専門医がいます」と同氏は話した。「しかし私は『ノー』と言わねばなりませんでした―2つの患者群間の差はバイアスにより完全に説明できたのです」。

検診研究におけるもう一つの交絡現象は、レングス・バイアスド・サンプリング(または「レングス・バイアス」)である。レングス・バイアスとは、症状が発現する前に急速に成長する癌よりも、長く体内に存在し、成長が遅く侵襲性の低い癌のほうが検診により発見される可能性が高いことをいう。

Berry氏は検診をポテトチップの袋に手を突っ込むのに例えて、大きいチップのほうが手に触りやすいので取りだす可能性が高いと説明した。同様に、検診については、「成長が遅い癌は、検診による発見が可能な発症前の期間—いわゆる滞在時間がより長いので、もっぱらこの癌を発見することになるのでしょう」と述べた。

レングス・バイアスの極端な例は過剰診断であり、それは検診によって発見された成長の遅い癌で、患者の生涯で決して有害とはならず治療を必要としなかったであろう癌のことである。過剰診断があるため、早期発見された癌の数も、検診により救命が可能であるかどうかの正確な判断基準にならない。(さらに詳しい説明は原文左図参照[画像内語句およびキャプション訳は下記])

図では最悪のシナリオを想定しているが、通常過剰診断の影響は、実生活でそれほど極端ではない。検診で発見された癌の大半は確かに治療を要するのである。しかし一部の癌はそうではない。例えば、最新研究では検診で発見された乳癌の15~25%検診で発見された前立腺癌の20~70%は過剰診断であると推定されている。

命を救う基準とは

これらのバイアスを回避して、検診によって命が救えるかどうかを知る唯一の信頼できる方法は、ランダム化試験に基づいて、検診群の人では対照(通常のケア)群の人より癌死が少ないと示すことである。例えば、NCIが資金提供したランダム化全米肺検診臨床試験(NLST)において、ヘビースモーカーでは、胸部X線による検診と比較して低線量スパイラルCTによる検診で肺癌死が20%少なかった(過去の研究では胸部X線による検診は肺癌による死亡率を低下させなかったことが認められている)。

しかしながら、検診による死亡率改善はわずかであるように見えることが多い。幸い癌によって死亡する可能性がある人もわずかなので、実際の数値が小さくなるのである。「癌によって死亡する可能性がそもそも低い場合、リスクの減少はそれほど大きくありません。そのため適切な検診の効果でも、絶対的な数値は小さくなります」と、健康政策・臨床診療ダートマス研究所の医学部教授でありバーモント州ホワイトリバー・ジャンクションの退役軍人病院アウトカムグループ共同ディレクターのDr. Lisa Schwartz氏は語った。

例えば、NLSTの症例で、肺癌死亡の相対リスクの20%低下は、約6年半後の追跡調査での肺癌死亡率約0.4%の低下(胸部X線群1.7%からCT検査群1.3%までの低下)に相当すると、NCI癌予防部門ディレクターであるDr. Barry Kramer氏は説明した。

Schwartz氏らが発表したアメリカ内科学会誌3月6日号の最新研究は、検診による生存率の改善は、数値が大きく誤解を招きがちであるのに対して、検診による実際の死亡率の低下は、数値は比較的小さいけれどこれが救命の指標になることが、熟練した医師にさえいかに理解されにくいかを示している。

熟練した医師でも難しい

検診統計に対する地域の医師の理解を調べるため、Schwartz氏と、同じくダートマス研究所職員で退役軍人アウトカムグループの共同ディレクターを務めるDr. Steven Woloshin氏、およびドイツのマックスプランク人間発達研究所の共同研究者らは、2つの仮想検診に基づくオンライン調査票を開発した。その調査票が、ハリス・インタラクティブ社の医師パネルで募集された地域医療、内科、または総合医療に特化している412名の医師に提供された。

2つの仮想検診の効果について、異なる2通りの方法で参加した医師に説明された。つまり、5年生存率と死亡率低下である。また参加医師は発見された癌の数と早期に発見された癌の割合などの追加情報を受けた。

その調査結果は、広範に誤った理解がなされていることを示した。5年生存率の改善は検診が命を救うことを示していると誤解していた医師(調査した医師の76%)と、死亡率のデータはその証拠を提供するものであると正しく理解していた医師(調査した医師の81%)はほぼ同程度であった。

検診を受けなかった人に比べて検診を受けた人でより多くの癌症例が発見されたということは、検診により命が救われることを示すと、誤って信じていた医師が約半数いた。(診断の時期を早め、早期治療が晩期治療よりも効果的である場合、事実、検診が命を救うことができる)。そして、検診でより多くの癌を早期に発見できることを示す証拠があるなら、検診を推奨するだろうと、調査した医師の68%が述べた。

医師らは、意味のある死亡率のデータで裏付けられた検診より、不適切な生存率のデータで支持された検診を推奨する傾向が3倍強かった。

要するに、「一般医の大多数は、検診が役立つかどうかについて、どの検診統計が信用できる証拠を示しているかを知らないのです」とSchwartz氏らは述べた。「彼らは検診により癌死が低下したという意味のある証拠によって裏付けられたものより、関係のない証拠によって支持された検診を推奨する傾向が強かったのです」。

検診の指導

「ある意味ではこれらの結果は驚きではありませんでした。なぜなら検診統計学は医学部の標準カリキュラムに含まれていないと思うからです」とSchwartz氏は述べた。

「医学部在籍時と研修期間中、検診統計学は指導課程にありませんでした」とWoloshin氏は同意した。

「われわれは研修医や医学部生に検診統計を正しく解釈する方法と誇張を見抜く方法を教えるべきです」とSchwartz氏は付け加えた。

一部の医学部はこのカリキュラムを開始した。ノースカロライナ大学(UNC)医学部は検査科学(Science of Testing)という課程を導入したとUNC医学部教授のDr. Russell Harris氏は説明した。当課程には5年生存率と死亡率の結果に関する要素が含まれる。

UNCチームも最近医療品質研究調査機構から予防医療実践評価研究センターを作るため研究助成金を受けた。「われわれがしなければならないのは、医学生だけでなく地域医に対しても検診の是非を理解する手始めになるよう話をすることです」とHarris氏は言った。

またSchwartz氏とWoloshin氏は検診研究の結果を広めるリポーター、推奨者、すべての人のためによりよい訓練が不可欠であると考えている。「多くの人々がそれらの情報記事やメッセージを見るので、そのような記事を書く人が理解することが必要です」とWoloshin氏は語った。

患者も、主治医に尋ねるべき正しい質問を知ることが必要である。「常に正しい数値を尋ねることです」と同氏は助言した。「検診を受ける際5年生存率が10%から90%に変化するといった数字が載っている広告を目にするでしょう。しかし、あなたが聞かなければならないことは「検診を受けた場合、または検診を受けなかった場合に、その疾患で死亡する可能性はどれくらいなのかということです」。

—  Sharon Reynolds

最近の検診勧告の変化 • 米国予防医療作業部会(USPSTF) 2009年改訂版マンモグラフィの推奨
• さまざまな医療機関が2012年3月の頚部癌検診ガイドラインへの変更を提案。
• USPSTFは、前立腺癌の平均的リスクの無症状の男性は前立腺特異抗原(PSA)の検査による定期検診を行うべきではないとの勧告原案を発行した。
その他のジャーナル記事:2008年勧告にもかかわらず中年男性の前立腺癌検診率に変化なし 75歳以上の男性の自己申告による前立腺癌の前立腺特異抗原(PSA)検診率は、2008年米国予防医療作業部会(USPTF)による75歳以上の男性の前立腺癌定期検診に対する勧告にもかかわらず、2005年と2010年の間に変化がなかった。2005年および2010年の米国国民健康聞き取り調査(NHIS)のCancer Control付録についてのデータに基づく知見が、JAMA誌4月25日号で報告されている。
シカゴ大学のDr. Scott Eggener氏らは、2005年に75歳以上の男性1,552名中43%がPSAによる検診を受けたと報告し、2010年には同年齢男性1,205名中44%が検診を受けたと報告したことを示した。
「USPTF勧告とその後の実際の診療での不一致は、PSA検診におけるガイドラインの認識不足、奨励金、または患者や医師のPSA検診への信頼を反映していると考えられる」と研究の著者らは述べた。Eggener氏は2010年までに実際の診療に変化が見られることを期待していたと述べ、「特に2008年の勧告以降、主な出版物で広く取り扱われている。
昨年10月、USPTFは健康で無症状の全年齢の男性に対するPSAによる癌検診に反対する勧告原案を発行した。「[USPTF勧告発表後]の臨床実態をモニターすべき」と著者らは結論した。

【上段右画像内語句およびキャプション訳】
リードタイム・バイアス
検診せず
癌の出発点      67歳で症状により癌と診断。
5年生存率0% →  死亡時70歳
検診実施
癌の出発点      60歳で検診により癌と診断。
5年生存率100% → 死亡時70歳

リードタイム・バイアスの図解。拡大にはここをクリックして下さい。画像と説明全文出典。(O. Wegwarth氏らによる画像。アメリカ内科学会誌2012年3月6日号156頁)。

【中段左画像内語句およびキャプション訳】
過剰診断

検診せず
進行性癌患者1000人   5年後 5年生存率1000人中400人(40%)  400人生存
600人死亡
検診実施
非進行性癌患者2000人    5年後 5年生存率3000人中2400人(80%)  2000人生存
進行性癌患者1000人                                  400人生存
600人死亡

過剰診断バイアスの図解。拡大にはここをクリックして下さい。画像と説明全文出典。(O. Wegwarth氏らによる画像。アメリカ内科学会誌2012年3月6日号156頁)。

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福田素子 訳
斎藤 博(消化器内科・検診/国立がんセンター がん予防・検診研究センター) 監修
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