2008/02/19号◆特別レポート「甲状腺癌の発生率増加:現実か?幻想か?」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2008年2月19日号(Volume 5 / Number 4)
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◇◆◇ 特別レポート ◇◆◇

甲状腺癌の発生率増加:現実か?幻想か?

以下の記事は、過去20年間に発生率が劇的に増加した甲状腺癌に関する2部構成シリーズのうちの第1部である。第1部では発生率増加の原因に焦点を当てており、第2部では甲状腺癌の治療に及ぼす影響を取り扱う。

1970年代初期から、甲状腺癌の発生率は2倍以上になっている。実際、甲状腺癌は女性の間で新たな発症例が最も急激に増加している癌である。

にもかかわらず、甲状腺癌はまだ比較的珍しい癌であり、新たな発症例は年間33,500例程度で、1,500例の死亡症例のほとんどは稀な侵攻性のタイプによるものである。

しかし、2年近く前、米国国立癌研究所(NCI)のプログラムのデータを基に、ダートマス大学の研究者らは、甲状腺癌の発生率増加は幻想であるという結論を下した。研究報告書著者のDr. Louise Davies氏とDr. H. Gilbert Welch氏は、発生率増加は高精度の画像技術および最新の生検法からもたらされた「より高度の診断用精密検査」によるものであるとした。両氏は、「過剰診断」である可能性が高いと論じた。

ほとんどの甲状腺癌の診断および治療に関与している国内有数の内分泌科専門医および内分泌外科医のあいだには、今回の研究が主張する説は納得のいくものであると考える人たちもいる。先ず、発生率増加の圧倒的多数を占める87%は、2 cmより小さい癌によるものであり、そのほとんどすべてが最も治療可能な一般的なタイプの甲状腺乳頭癌である。実際、大部分の人には、死亡時、小さい悪性の乳頭状の甲状腺結節が認められることは剖検研究で一貫して明らかにされており、数%から36%という研究まで幅がある。

さらに、発生率の増加にもかかわらず、死亡率はそれに伴って変化してはおらず依然として非常に低いままである。死亡率を維持するためにはまさに生死にかかわる癌の治療法が改善されていなければならないはずであり、治療傾向が変化しているとはいえ、何らかの形で死亡率に影響を及したことを示唆する形跡はほとんどない(このシリーズ第2部の主題)、と彼らは論じた。

両要因とも、甲状腺癌の発生増加が何らかの未知の影響によるものではなく、「無症候性」病変の検出力が向上したことを示唆している、とDr. Davies氏とDr. Welch氏は主張した。

しかしながら、その結論には一つの大きな問題が残されている:例えば乳癌や結腸癌で行われているような、早期発見に対する努力がなされていない状態でそもそもこんな目立たない結節が見つかるのはなぜなのだろうか?

これらの小さい癌は、非常に多くの場合、頸部動脈の末梢血管の障害を探す頸動脈ドプラ超音波検査(duplex scan)あるいは交通事故の後もしくは原因不明の頸痛や激しい頭痛に対するMRIおよびCTスキャンのような、他の理由で実施される画像処置中に「偶然」発見される、とニューヨーク大学医療センターの内分泌外科医であるDr. Keith Heller氏は説明する。

その後、甲状腺のより詳しい検査は、その多くが現在では診療室に超音波検査機を備えている内分泌科専門医に託される。

「私の患者の大部分はこのような経緯を経て紹介されています」とフロリダ大学の内分泌科専門医であるDr. Jennifer Sipos氏は述べる、「別の理由で行われた{画像処置}で結節が偶然発見されるのです・・・」

Dr. Heller氏によると、必要のない検査も行われている。

「先日、体重が増えているので甲状腺超音波検査を受けるように開業医から言われたという患者が来ました」と同氏は語る。

超音波ガイド下穿刺吸引法として知られている技術によって、これらの小結節を生検することは比較的簡単である。

「特別研究員だった90年代初期には、1 cm以下の結節の生検を簡単に行うことはできませんでした」とスローンケタリング記念がんセンターの内分泌科専門医であるDr. R. Michael Tuttle氏は語る。「しかし、この10年間で技術は進歩し、現在では4~5 mm未満の結節を簡単に生検できるほどになっています。」

しかしながら、甲状腺癌の発生率増加が単に技術の向上のみによるものであるとの確信はない、とDr. Tuttle氏は言う。

「心配なのは、このことで全面的に早期発見を非難することになれば、甲状腺癌の他の何らかの原因を見逃してしまうことになるかもしれない、ということです」と同氏は語る。「他の病因を除外するだけのデータをわれわれが持ち合わせているとは思っていません。」

そのような懸念を裏付けるデータがある。NCIの癌疫学・遺伝学研究部門のDr. Susan Devesa氏がつい最近実施したSEERデータ(2004年まで)に関する未発表の分析によれば、発生率増加は、より小さい腫瘍に最も顕著ではあるものの、あらゆるサイズ(5cm以上でさえも)および段階の腫瘍で発生していることが示されており、より精度の高い精密検査がこの増加傾向の唯一の原因ではないことを示唆している。

複数の研究では、肥満度、食習慣および生殖パターン等の要因が甲状腺癌のリスクに影響を及ぼす可能性があることを示唆している。最近検査の精密度が増している一つの要因は、皮肉にも、画像診断法すなわちCTスキャンである。

年間に実施されるCTスキャンの数は急増してきた:1980年代初期の数百万件から2006年には推定6千2百万件に達している。CTスキャンは、従来の他の画像化法よりも大量の放射線を必要とし、コロンビア大学メディカルセンター(Columbia University Medical Center)のDr. David J. Brenner氏とDr. Eric Hall氏による最近の論文によれば、その放射線量は癌のリスクを増すこともありうる線量である。

「放射線誘発甲状腺癌の潜伏期が比較的短いと仮定すれば、・・・CTが米国の若者の現在の甲状腺癌率に影響を及ぼしている可能性は十分にあります」とコロンビアの放射線研究センター(the Center for Radiological Research)のDr. Brenner氏は語る。

NCIのDCEGにおいて電離放射線および甲状腺癌の専門家であるDr. Elaine Ron氏は、CTスキャンには潜在的なリスクがあることを認めている。しかし、同氏は「現時点でそれを示すいかなるデータも持ち合わせてはいないのです」と語気を強める。

すべての癌およびCTスキャンのリスクをより良く評価するために、NCIは英国の研究者と協力して英国の20万人近い人々の過去にさかのぼる「歴史的コホート研究」を実施している、とDr. Ron氏は言う。その研究では、子供の時にCTスキャンを受けた人および受けなかった人の発癌率が検討される。

—Carmen Phillips

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豊 訳
平 栄  (放射線腫瘍科)監修 

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