AMD-3100+G-CSF幹細胞移植

Thomas Jefferson University Hospital

Jefferson大学の臨床試験で、幹細胞移植の必要な患者に新しい薬の可能性が示唆される
Thomas Jefferson University Hospital, Kimmel Cancer Center
2005/9/7
原文へ

フィラデルフィアにあるトーマス・ジェファーソン大学病院のKimmelがんセンターおよび米国内の他の施設で実施された臨床試験により、新しい薬剤(AMD-3100)には、高用量の抗癌剤治療後に癌患者の造血機能を回復させるために必要な幹細胞の動員を助ける働きがあることが示された。


第2相試験では、多発性骨髄腫および非ホジキンリンパ腫の患者を対象とし、標準的治療薬のG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)に新薬AMD-3100を併用投与した場合、G-CSF単独投与よりも自家移植に用いるための幹細胞が多く得られるかどうかが調べられた。

AMD-3100は細胞上の特定の受容体をふさぐことで、幹細胞が骨髄から放出され血中へ移動しやすくなる。そのため移植に用いる骨髄幹細胞の供給量が増える。幹細胞移植では、血液系および免疫系に影響する疾患である白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫などの患者は高線量の放射線療法や高用量の抗癌剤などを受ける前に、造血幹細胞として知られる細胞を血中から採取する必要がある。造血幹細胞を体内に戻すことで、骨髄中の造血機能や、治療により破壊とは言わないまでも著しく障害を受けた体内の免疫系が回復に向かう。

「幹細胞移植は、多発性骨髄腫、骨髄の癌、リスクの高い白血病やリンパ腫の患者にとって先進的治療であると考えられています。」と今回の試験を指揮したトーマス・ジェファーソン大学ジェファーソン・メディカル・カレッジ医学教授兼腫瘍内科部長であるNeal Flomenberg医師は言う。

試験ではAMD-3100を併用投与した25例(多発性骨髄腫10例、非ホジキンリンパ腫15例)の患者すべてに骨髄から血管への十分な動員が見られたのに対し、G-CSF単独群では患者の64%でしか十分な動員が見られなかった。試験結果はBlood誌2005年9月1日号で報告される。このため採取する幹細胞の採取回数は少なくてすみ、体内に戻すことができる幹細胞数も多くなる、とFlomenberg医師は言う。移植できる幹細胞が増えることで移植も成功しやすくなる。患者によっては、このことが移植を受けることができるかどうかの分かれ目になる。本剤に毒性はほとんどない。

「今回の試験の大きな成果は、G-CSF単独投与では幹細胞を移動させられなかったであろう患者9例でもAMD-3100を併用することで幹細胞を移動させられたことである。」とFlomenberg医師は言う。

さらに、AMD-3100を投与することで幹細胞の採取回数を減らしても必要な数の幹細胞が得られ、治療を通して身体への負担が軽減した患者もいた。採取回数を減らせなかった患者では、AMD-3100を併用しないときに比べ多くの幹細胞が得られた。

AMD-3100の併用投与により幹細胞の動員がうながされ、白血球と血小板の回復が速くなり、また今まで幹細胞を動員させられなかった患者でも幹細胞移植が可能になればと思っています。」と医師は言う。移植では十分な数の幹細胞がなければ、免疫系の回復が遅れ感染症のリスクが大きくなってしまうからである。

「患者の多くは幹細胞移植の前に4~8カ月間の標準的化学療法を受けています。なかには癌が再発し再治療で寛解となってから初めて移植を受ける患者もいます。こういう治療の後では、移植のための幹細胞採取がときに難しくなるのです。」と説明する。

G-CSFのみを用いた場合、およそ25%~35%の移植患者(実際には65%に上るかもしれない)が十分な数の幹細胞を骨髄から血中に動員することができずにいる。「標準的治療では幹細胞を血中に十分移動させられない患者がいます。その場合、採取回数を増やす必要があったり、採取した細胞が働きが悪かったり、使うことができないことも多いのです。」

Flomenberg医師はこの薬剤併用が幹細胞移植を必要とする症例の標準的治療になると考えている。「この併用療法は、既存の標準的治療を塗りかえるような可能性を持っています。」と言う。

「現在、G-CSF+プラセボとG-CSF+AMD-3100の効果を比較するため、非ホジキンリンパ腫または多発性骨髄腫の患者600例を対象に2つの第3相試験が実施されています。」と述べる。Jefferson大学は両試験および他のAMD-3100単独の第2相試験にも参加している。

本研究はAnorMED, Inc.社の資金提供により行われている。AnorMED, Inc.社はブリティッシュコロンビア州バンクーバーに本社をおく製薬会社で、HIV、関節リウマチ、喘息、癌などの疾患治療の小分子薬剤の探求および開発に取り組んでいる。

Jeffersonで行われている臨床試験の参加に関しては1-800-JEFF-NOWへお電話ください。

(South 訳・林 正樹(血液・腫瘍科) 監修 )

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

骨髄腫に関連する記事

再発難治性多発性骨髄腫にベランタマブ マホドチン3剤併用療法は新たな選択肢となるかの画像

再発難治性多発性骨髄腫にベランタマブ マホドチン3剤併用療法は新たな選択肢となるか

米国臨床腫瘍学会(ASCO)ASCO専門家の見解「多発性骨髄腫は 血液腫瘍の中では2 番目に多くみられ、再発と寛解を繰り返すのが特徴です。ダラツムマブ(販売名:ダラキューロ)、...
多発性骨髄腫の初期治療へのダラツムマブ上乗せ効果を示す試験結果の画像

多発性骨髄腫の初期治療へのダラツムマブ上乗せ効果を示す試験結果

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ新たに多発性骨髄腫と診断された患者を対象とした大規模ランダム化臨床試験で、標準治療レジメンにダラツムマブ(販売名:ダラキューロ配合皮下注)を...
意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果の画像

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果

ダナファーバーがん研究所意図せぬ体重減少は、その後1年以内にがんと診断されるリスクの増加と関連するという研究結果が、ダナファーバーがん研究所により発表された。

「運動習慣の改善や食事制限...
【米国血液学会(ASH)】 ルキソリチニブ+ナビトクラックス併用で骨髄線維症の脾臓容積が有意に減少の画像

【米国血液学会(ASH)】 ルキソリチニブ+ナビトクラックス併用で骨髄線維症の脾臓容積が有意に減少

MDアンダーソンがんセンターMDアンダーソン主導の第3相試験で脾臓縮小患者数が約2倍に希少な骨髄がんである骨髄線維症の中リスクまたは高リスクの成人患者に対して、JAK阻害剤ルキ...