希少遺伝子変異を有する消化管間質腫瘍(GIST)のFDA承認薬アバプリチニブ

特定の遺伝子変異を伴う消化管間質腫瘍(GIST)患者にとって、新しい分子標的薬が選択肢となる。

2020年1月9日、米国食品医薬品局(FDA)は、血小板由来増殖因子受容体アルファ(PDGFRA)エクソン18変異を有する一部のGIST成人患者にアバプリチニブ(販売名:AYVAKIT、Blueprint Medicines Corporation社)を承認した。エキソン18変異において最もよく見られるのはD842V変異である。承認は、手術による切除が不可能、または転移が認められる場合にのみ適用される。

ほとんどのGISTは、分子標的薬 イマチニブ(販売名: グリベック)の投与により治療効果を示すが、概して数年以内に薬に対する耐性が生じる。イマチニブによる治療中に疾患が進行した場合は、スニチニブ(販売名:スーテント)など、同種の薬剤に替えることにより、効果がみられることもある。

ただし、GISTの治療として既に承認された薬剤はどれも、PDGFRAエクソン18変異を有するGIST患者には効果を示さない。対照的に、アバプリチニブの承認に至った小規模の臨床試験では、この変異を有する患者の84%に、腫瘍の縮小または完全消失が見られ、12%に腫瘍の増殖停止がみられた。

そして、これらの腫瘍反応は持続した。治療を開始してから1年後、アバプリチニブに反応を示した腫瘍の74%に増殖(進行)は見られず、試験参加後1年後には90%の患者の生存が確認された。

PDGFRAエクソン18変異を有するGIST患者にとって 「この承認は、何も効く治療がないという望みのない状況から、ほぼ全員に効く治療がでてきたのではないか、というまでに状況を完全に変えてしまうものです」オレゴン健康科学大学(Oregon Health & Science University)の臨床試験責任医師である、Michael Heinrich医師は語る。

米国国立がん研究所(NCI)のJohn Glod医師は、この臨床試験に関与していなかったが、この承認は、今のがん研究全体的な傾向、遺伝子変異に基づき定義された小規模な患者群をターゲットとする薬の開発、を象徴していると述べる。

「これが、まさに今がん医療界で起こっていることです」とGISTを含む肉腫の治療を専門とする Glod医師 は言う。「われわれは、このようにGISTをますます小規模な患者群に分けていて、これらの新薬はこうした患者群に高い治療効果を示しています」。

鍵のないロック(錠)

GIST患者の腫瘍は、胃と小腸に最もよく見つかるが、胃腸管内または胃腸管付近に見つかることもある。一部の患者には手術切除のみによる治療が行われるが、切除不能、または他の部位へ広がった場合(転移)に分子標的療法は標準的な治療法である。

GIST腫瘍の85%近くが、PDGFRAとKITの2つのどちらかの遺伝子変異を有する。これらの変異は、がんを引き起こす異常なKITおよびPDGFRAタンパクの産出につながる。イマチニブおよび同種のチロシンキナーゼ阻害剤と呼ばれる薬剤は、これらのタンパクの活性化を阻害することができる、とHeinrich医師は説明する。

「変異したタンパクは、がんの動力源、またはエンジンのように作用します。これらのタンパクをオフにできると、エンジンもオフになり、がん細胞は死滅するか増殖を停止します」と、Heinrich医師は言う。

GIST治療に使用されるその他のチロシンキナーゼ阻害剤は、通常は細胞のエネルギー獲得を制御するKIT、またはPDGFRA蛋白の一部にしっかりと結合する。しかし、PDGFRAエクソン18変異はPDGFRA蛋白の形状を変化させ、薬物が結合するのを妨げてします、とHeinrich医師は続ける。「PDGFR エクソン18変異は、どの鍵にも合わないロック(錠)を作ってしまうのです」と説明する。

アバプリチニブは、PDGFRAおよびKIT蛋白への結合性が高いため、薬剤の開発候補に選ばれた。前臨床研究では、アバプリチニブは、試験を行ったすべての変異したPDGFRA蛋白に結合し、活性を阻害した。

良好な反応、まれな副作用

NAVIGATORと呼ばれる初期段階の臨床試験では、アバプリチニブを製造するBlueprint Medicines社が資金を提供し、PDGFRAエクソン18変異を有するGIST患者43人(1人以外は転移性がん)を評価対象とした。

43人のうち、34人(79%)に腫瘍の縮小(部分奏効 PR)、3人(7%)に完全奏功(CR)がみられたと、2019年国際結合組織腫瘍学会(Connective Tissue Oncology Society)年次総会で報告された。別の5人(12%)に、腫瘍の増殖停止(病勢安定 SD)がみられ、治療への反応がみられなかったのは1人だった。

ほとんどの患者は、イマチニブまたは別のチロシンキナーゼ阻害剤の投与を先に受けていた。アバプリチニブのみで治療された5人のうち、2 人が完全奏効を示した。

FDAは、初回つまり一次治療としてのアバプリチニブの使用も承認した。「私たちは、効果が期待できない治療ではなく、この新しい治療法を試みることになるでしょう」とHeinrich医師は言う。

臨床試験中に、悪心、疲労、貧血(正常レベル以下の赤血球)などの副作用がみられた。

より重篤で、あまり一般的でない副作用として、脳血管からの出血、および記憶障害や混乱などの認知障害が見られた。Heinrich医師は、「認知障害はキナーゼ阻害剤に稀に起こる副作用です」と述べた。「腫瘍医は、それを認識した上で患者を注意深く観察することが重要です。これらの症状は、ほとんどの場合投与量の変更または短期の休薬によって対処できます」。

次のステップ

より大規模な無作為化臨床試験VOYAGERで、KITまたはPDGFRA変異を有し、少なくとも2つの他のチロシンキナーゼ阻害剤による治療後に進行したGIST患者を対象に、アバプリチニブとレゴラフェニブ(販売名:スチバーガ)を比較している。

「KIT変異を有するGISTはGIST全体の約70%を占めますが、KITとPDGFRAは密接に関連しているため、ほとんどの薬物が一方の変異に効けば、他方の変異にも効果を示すでしょう。そして、KIT変異を有するGISTで耐性を引き起こす変異のいくつかは、PDGFRA変異と密接に関連しています」と、Heinrich医師は説明する。

「この薬はGIST成人患者に大きな影響を与える可能性があります」とGlod 医師は述べる。残念なことに、小児GISTについては、通常SDHと呼ばれる別の遺伝子ファミリーの変異によって引き起こされるため、この薬が評価される可能性は低いだろう、と付け加えた。

この承認により、がん遺伝子検査を受けるGIST成人患者が増えることが予想される、とHeinrich医師は語る。「がん遺伝子検査を行うべき他の理由もありますが、われわれは、エクソン18変異を有する患者を今、この瞬間に見逃したくないのです」。

患者の状態を記録する

アバプリチニブ承認プロセスの一環として、Blueprint Medicines社はGISTアドボカシーおよび患者支援グループである、Life Raft Groupとのユニークなコラボレーションを行った。

約20年間、このグループはGIST患者の治療とその経験を記録するために、患者登録を行ってきました。これまでに、2,000人以上のGIST患者、サバイバー、家族が情報を共有し、一部については組織検体も共有している。

「すべて患者自身が報告した情報です。情報は患者または介護者から直接提供されます」と、Life Raft Groupの患者アドボケートであるSara Rothschild氏は述べる。

2016年、Blueprint Medicines社は、GIST患者が、どのようにがんや治療と向き合ってきたのかを理解し、アメリカ全土でGISTに対してどれくらい遺伝子検査が行われているかを知るために、データベースの使用許可をLife Raft Groupに求めた。

「彼らは、病気の負担、治療の負担、GISTの治療やケアに関するベネフィットとリスクを理解したかったのです」とRothschild氏は語る。FDAは21st Century Cures Actの一環として、製薬会社にこうした患者の視点を薬剤承認申請に含めるよう奨励していると、説明する。

データベースは現在「アバプリチニブに関する情報といくつかの副作用へどう対処しているのかという情報を患者から収集している」、とRothschild氏は述べる。Life Raft Groupはこの情報を使用して、患者が治療やケアについて医師と話すのに役立つウェビナーを作成している。

翻訳担当者 為石万里子

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)

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