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2011/09/06号◆スポットライト「共犯者を狙い打つ: 腫瘍を助ける免疫細胞を追う」

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2011/09/06号◆スポットライト「共犯者を狙い打つ: 腫瘍を助ける免疫細胞を追う」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年9月06日号(Volume 8 / Number 17)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

共犯者を狙い打つ: 腫瘍を助ける免疫細胞を追う

癌研究者らの関心は悪性腫瘍細胞のみにとどまらず、次第に腫瘍微小環境と呼ばれる腫瘍内と腫瘍周囲にいる別の登場人物に広がっている。そのような研究の多くに共通して腫瘍の共犯者として挙げられているのは多機能な免疫細胞であるマクロファージである。

腫瘍内とその周辺に存在するマクロファージは、腫瘍関連マクロファージ(TAM)とも呼ばれ、癌を攻撃するのを助ける。TAMは、腫瘍細胞を殺すだけでなく、免疫系の強力な切り札であるキラーT細胞を呼び寄せ、体内から悪性細胞を排除する。

しかし、さまざまな癌腫の癌細胞株および動物モデルで行った研究のエビデンスを集めてみると、たいていの場合、TAMは悪性腫瘍の発生初期から転移巣の形成までの多くの時点、多くの方法で腫瘍に手を貸している。

ヒトでのデータははるかに限られているが、ほとんどが細胞株と動物モデルのデータを裏づけており、複数の研究が一致してTAMの増加と悪い予後の相関を示している。この領域の研究者は、TAMが治療選択にとって有益な予後マーカーであるだけでなく、腫瘍を攻撃するための新規の重要なターゲットであると確信している。

イエシバ大学アルバートアインシュタインがんセンターのDr. Jeffrey Pollard氏によると、この概念は単純明快だという。「腫瘍細胞を単に攻撃するだけでは不十分です。腫瘍細胞を支える土台も引っ張り出して、支援システム全体を標的にする必要があるのです」。

TAMの多様性

最近になって、研究者らは、TAMが腫瘍内とその周辺で何をどのように行っているかを知るための詳細な研究を行っている。たとえば、特定の種類のマクロファージは、免疫反応の抑制や新しい血管の形成など、腫瘍が生存し増殖するために周辺環境に要求される労役を提供することが明らかになった。

「マクロファージにはきわめて高い可塑性があります」と腫瘍微小環境を中心に研究している、スローンケタリング記念がんセンターのDr. Johanna Joyce氏は説明する。Joyce氏によると、TAMの果たす役割は、発現している分子マーカー、腫瘍自体や微小環境の他の構成要素から受け取る信号、場所(たとえば、酸素が欠乏した腫瘍の中心部か、腫瘍の「侵入最前線」か)によって千差万別だという。

この分野はめざましい進歩を遂げているが、「われわれは、これらの細胞について解明されていることのほんの氷山の一角にすぎません」と同氏は述べる。

マクロファージはしばしばM1とM2の2つのタイプに分類される。M1は「古典的活性化(clasically activated)マクロファージで、創傷治癒を助け、キラーT細胞に抗原を提示する。M2は「代替的活性化 (alternatively activated)マクロファージで、腫瘍の増殖や転移を促進する。

20年以上腫瘍微小環境を研究してきたPollard氏によると、この分類体系は単純すぎるという。「これは、マクロファージの反応の複雑さを覆い隠してしまうと思います」。たとえばPollard氏の研究室は、乳癌のマウスモデルで少なくとも6つのマクロファージのタイプを同定している。

M1/M2の分類は、主に組織培養上のマクロファージの区別に基づいているとカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のDr. Lisa Coussens氏は説明する。

「1つの腫瘍が1種類のマクロファージで埋まっているのを見たことがありません。マクロファージの表現型は実に多様です」。特定の腫瘍で優勢なマクロファージの型は、さまざまな型のヘルパーT細胞の存在など、大部分が周辺の免疫の微小環境によって決定される。

Pollard氏とCoussens氏は共同で助成を受けて、腫瘍増殖促進作用と抗腫瘍作用にそれぞれ関連するTAMのサブタイプをさらに明確に識別するマーカーまたはマーカーパターンを特定しようとしている。

共犯者たち

一方で、腫瘍細胞とマクロファージの共存関係を解明する研究が開始されている。

たとえばPollard氏らは、転移性乳癌のマウスモデルを用いて、マクロファージがどのように転移を促進するかを最近明らかにした。肺周辺の血管に移動した腫瘍細胞は、CCL2というケモカイン(MCP-1とも呼ばれる)を分泌することを発見した。ケモカインは、免疫細胞を引きつけ動員するホルモン様タンパク質である。この作用は次にマクロファージを腫瘍細胞に引きつけ、マクロファージはVEGFという増殖因子を分泌する。これが血管の漏出性を高め、腫瘍細胞の肺への侵入を許す。

TAMは癌の再発にも関わっていた。スタンフォード大学医学部Dr. Martin Brown氏らの、多形神経膠芽腫(GBM)のマウスモデルを用いた研究では、放射線治療後に当初縮小した腫瘍が再度増殖したのは、腫瘍部位に動員されたマクロファージおよび類似する細胞に原因の一端があることを発見した。動員は、腫瘍細胞が産生するSDF-1(CXCL12)というケモカインが主に促していた。

SDF-1は、「放射線そのものでは刺激されません。放射線の生成物によって刺激されるのです」とBrown氏は述べる。腫瘍が縮小するにつれ、血液供給が減少して酸素欠乏状態になり、創傷組織に似た状態になって連鎖的なイベントが開始され、HIF-1タンパク質の産生が始まる。これがSDF-1の産生を誘発し、骨髄からマクロファージ前駆細胞を動員し、腫瘍内に送り込む。Brown氏によると、腫瘍内に入ったマクロファージは、そのまま留まるか、CXCR4という別のタンパク質に「捕獲」される。

Brown氏によるとこの研究から主に示唆されるのは、「この種のマクロファージが[放射線治療後に]行っているのは血液供給の促進です。これは血管新生促進作用がきわめて強く、前脈管構造といえます」。

臨床への移行

TAMの研究はまだ患者治療に影響を与える段階ではないが、その方向に一歩踏み出したところである。

たとえば、最近のいくつかの研究で、TAMレベルを予後マーカーとして利用できることがはっきりと示唆されている。TAMの過剰と不良な予後との関連は、乳癌、甲状腺癌、肝臓癌、メラノーマ、肺癌、神経膠腫、数種類の血液癌など、多くの癌種で次々と明らかになってきた。

New England Journal of Medicine(NEJM)誌に昨年発表された研究の例では、ホジキンリンパ腫患者の腫瘍検体で、CD68マーカーの発現によって確認されたTAMの増加は、患者の予後不良と関連していることがわかった。実際に、限局期でTAMが低値の患者ではリンパ腫関連死はみられなかった。初期治療が奏効しないケースが患者の約20%でみられるが、二次治療で幹細胞移植を行う場合、TAMが低値の患者のほうが高値の患者よりも奏効する可能性がはるかに高い。

NEJM研究の代表著者であるブリティッシュ・コロンビア州癌研究所のDr. Christian Steidl氏は、「組織生検でのTAMの数はホジキンリンパ腫の有益な予後マーカーであるという、強力なエビデンスになると考えます」という。

TAMの増加がホジキンリンパ腫における一次治療の予後不良と低い全生存期間に関連していることが、10を超える研究で確認されている。「次の段階は、この情報を臨床試験に取り入れたプロスペクティブな設定の研究を行い、患者治療を改善するエビデンスを確立することです」。

今年初めに発表されたCoussens氏らの研究では、腫瘍検体中のTAMが高値(CD68で同定)でキラーT細胞が低値という特定の「免疫的特徴 (signature)」をもつ乳癌患者は、TAMが低値でキラー/ヘルパーT細胞が活性化している患者と比較して、予後不良であることを発見した。免疫的特徴の存在は、2つの高悪性度乳癌である、HER2陽性乳癌、またはbasal型/トリプルネガティブ乳癌女性の予後と最も強く関連していた。

同研究では乳癌のマウスモデルを用いて、PLX3397という試験薬がサイトカインコロニー刺激因子1(この活性化も乳癌の予後不良に関連していた)によってマクロファージの動員を阻害し、癌の肺への転移を抑制し、生存率を改善することを発見した。 Coussens氏は、UCSFのDr. Shelley Hwang氏、Dr. Hope Rugo氏と共同でSusan G. Komen for the Cure基金の助成を受け、治療後に再発したトリプルネガティブ乳癌女性の多施設第1/2相臨床試験実施を含むこの研究を進めている。同氏は、この試験および関連する研究で、TAMベースの免疫的特徴を検証し、化学療法と併用した場合のPLX3397の安全性と有効性の可能性を評価しようと考えている。

Pollard氏とBrown氏の最新の研究結果でも、TAMを標的とした薬剤を用いて、マウスでの再発低下と生存の改善が示された。ヒトでの臨床試験を行う日もそう遠くないと両氏は述べている。

このような治療のヒトでの効果が立証されたと仮定して、その理由は単に薬剤がマクロファージを殺すからかもしれない。あるいは、薬剤が、腫瘍を助ける特定のマクロファージ集団の量を減らすことによって、他の療法の効果を上げ本来の生体防御力を高めるよう腫瘍微小環境を本質的に「再プログラム」するからかもしれない、とCoussens氏は述べている。

「これは、新たな生物学なのです。この種の研究を続けることで、今後臨床的な効果を改善できると考えています」(Coussens氏)。

—Carmen Phillips

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月橋 純子 訳
田中 謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/テキサス大学MDアンダーソンがんセンター免疫学部門) 監修
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