2011/09/06号◆癌研究ハイライト | 海外がん医療情報リファレンス

2011/09/06号◆癌研究ハイライト

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2011/09/06号◆癌研究ハイライト

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年9月06日号(Volume 8 / Number 17)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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癌研究ハイライト

・大腸内視鏡検査の陰性結果は大腸癌リスクの低さと関連
・喫煙者の膀胱癌リスクは従来の推定よりも高い
・BAP1遺伝子の遺伝的変異により中皮腫のリスクが上昇
・甲状腺癌治療に放射性ヨードの使用が増加傾向に
・大腸癌のゲノムが配列決定される

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大腸内視鏡検査の陰性結果は大腸癌リスクの低さと関連

大腸内視鏡検査で癌の徴候が認められない人は、検査を一度も受けたことのない人よりも、その後20年間に大腸癌を発症するリスクがかなり低いことが、ドイツで行われた大規模な症例対照研究で示された。総じて大腸内視鏡検査が陰性の人は、これまで一度も検査を受けたことのない人と比べて、大腸直腸癌の発症リスクが約80%低くなっていた。この研究は8月29日付のJournal of Clinical Oncology誌電子版に発表された。

「明らかに大腸内視鏡検査は、そもそも予防的手段ではない。ポリープを切除しなくても大腸内視鏡検査を受けた患者のリスクが大幅に低下しているということは、この低下が大腸内視鏡検査のおかげなのではなく、内視鏡で可視化される前癌病変がないという患者自身の本質的なリスクの低さの反映だと考えられる」と、この研究の筆頭著者であるハイデルベルグのドイツがん研究センターのDr. Hermann Brenner氏らは書いている。

米国では、大腸内視鏡を用いた大腸癌検診ガイドラインによって、50歳以上では10年に1回、検診を受けることが広く推奨されている。しかし、大腸ポリープや大腸癌の家族歴がある場合には、これよりも高い頻度で検診を推められることが多い。

この研究には約3,600人が参加した。症例となった患者は、検診を受けて診断されたのではなく、症状が現れたりほかの検査中にたまたま大腸癌が見つかり、大腸癌と診断された、ドイツ南東部にある22の病院で治療を受けた30歳以上の患者である。対照となる被験者は一般人口登録簿から選択した。これまでの大腸内視鏡検査に関する情報は、面接と医療記録を再確認して得られた。

対照となる被験者では、以前の大腸内視鏡検査が陰性であった者が症例患者と比べて4倍多かった。全般的に、以前の大腸内視鏡検査が陰性だと大腸癌リスクが79%低下するという関連が認められた。大腸内視鏡検査での陰性結果が一回だけの場合は、その後10~19年間では大腸癌発症リスクが72%低下、20年以上では60%リスク低下という関連であった。リスクの低下は、性別や喫煙経験の有無に関連はなく、また大腸癌の診断を受けたことのある患者を一親等に持つ場合にも、大腸内視鏡検査の受診回数が1回である場合にも同様に認められた。

この研究の参加者は全員、2003~2007年に組み入れられた。著者の説明によれば、ドイツでは2002年後半になるまで大腸内視鏡検査は通常の初回検診に含まれていなかったため、便潜血検査が陽性であったために大腸内視鏡検査を受けることになった患者が多く参加していた。便潜血検査は症状があったり、そのほかの所見があった場合に勧められていたと著者らは述べた。

このために、結果が初回検診の状況にどのくらい当てはめることができるかは限られてくるだろうと研究著者は述べた。しかし、研究に参加しなかった検診集団では、大腸内視鏡検査の結果が陰性であった後の大腸癌の長期的リスクはもっと低いだろうと著者らは述べる。実際、著者らによれば、別の試験でこの知見は確認しなければならないが、それと同時に「大腸内視鏡検査が陰性であった平均的リスク患者の大多数は、たとえ必要だとしても少なくとも20年は大腸内視鏡による検診を受けなくてもよいという提案をこの研究は支持するものである」と著者らは指摘した。

関連記事:「S状結腸鏡検査は大腸癌の罹患率、死亡率を顕著に低下させる

喫煙者の膀胱癌リスクは従来の推定よりも高い

現在タバコを吸っている喫煙者の膀胱癌リスクは、これまで報告されていたよりも高く、女性での喫煙によって発生する膀胱癌の割合はいまや男性と同程度であることが米国国立癌研究所(NCI)癌疫学・遺伝学部門(DCEG)の研究者による研究で示された。この知見は8月17日付のJAMA誌に発表された。

この最新の研究には、1995年に開始され2006年末まで追跡調査が行われていた米国国立衛生研究所(NIH)と全米退職者協会(AARP)による食事と健康に関する質問票による調査に参加した45万人以上から得られたデータが含まれている。

「われわれの研究では、前回の研究で3倍であった膀胱癌発症リスクが、喫煙者では4倍に増えている」と共著者であるDr. Neal Freedman氏は述べた。「喫煙と膀胱癌との関連性の高まりは、ここ数年間でのタバコの組成や喫煙習慣の変化によるものなのかもしれない」。

今回の研究では、既喫煙者の膀胱癌発症リスクは、これまでに一度も喫煙したことのない者の2倍であった。ほかの多くの喫煙関連癌と同様に、膀胱癌リスクも禁煙後に低下した。

これまでの研究では女性の膀胱癌症例のうち喫煙が原因であるのは20~30%に過ぎなかったが、新たなデータでは女性の膀胱癌症例の約半分が喫煙によることが示されている。この比率は、今回および以前の調査で男性にみられた数字と同程度であった。女性における喫煙誘発性膀胱癌の比率の増加は、男性と女性の喫煙率がいまや同程度であることから生じている可能性がある。これまでの研究が実施されたのは、ほとんどが女性の喫煙が男性よりもずっと少ない時代や地域であった。

「われわれの研究は、喫煙開始を予防することと、性別を問わず禁煙を促進することの重要性に、また一つの根拠を加えるものである」と統括著者であるDr. Christian Abnet氏は述べた。

BAP1遺伝子の遺伝的変異により中皮腫のリスクが上昇

2つの独立した研究で、BAP1として知られる遺伝子に遺伝的変異がある人々は悪性中皮腫、眼の黒色腫(ブドウ膜黒色腫または眼球内黒色腫)および特殊なタイプの良性皮膚腫瘍に罹患しやすいことを研究者らが示した。この知見は8月28日付Nature Genetics誌電子版で発表され、受け継がれたBAP1の変異が皮膚の黒色腫など、一部の他のタイプの癌とも関連している可能性があることを示唆している。

第一にNCIの支援により、フォックス・チェイスがんセンターのDr. Joseph Testa氏およびハワイ大学がんセンターのDr. Michele Carbone氏率いる研究者チームが、中皮腫の発生頻度の高い2つの米国人家系に焦点を合わせた。これは、受け継がれた遺伝子変異が、最も根治が難しい癌の1つである中皮腫のリスクに影響しうることを示した最初の研究である。中皮腫はアスベストや類似の鉱物繊維であるエリオン沸石への曝露と関連することが特徴的である。

第二に、オーストリア・グラーツ医科大学およびスローンケタリング記念がんセンター(MSKCC)のDr. Thomas Wiesner氏、MSKCCのDr. Boris Bastian氏、同じくグラーツ医科大学のDr. Michael Speicher氏が率いる研究で、ドイツ人とオーストリア人各1家系の計2家系に焦点を合わせた。これらの家族のメンバーは多数の小さな良性皮膚腫瘍を若年で発症していた。これらの隆起した腫瘍は、メラニン細胞と呼ばれる色素産生細胞内で生じていたが、通常のほくろと異なり、皮膚の色をしていた。

いずれの研究でも、研究者らは、BAP1が位置するヒト染色体3番の領域内またはその付近に遺伝子の変化を発見後、BAP1遺伝子に焦点を絞った。BAP1遺伝子は、BRCA1関連タンパク質1(細胞核内にみられ、腫瘍を抑制すると考えられている)として知られるタンパク質をコードする。BAP1タンパク質は、細胞増殖や細胞分裂の制御およびDNA損傷に対する反応など、一連の細胞プロセスに関連するとされてきた。

Testa氏とCarbone氏らは、中皮腫を有する2家族の中で、ブドウ膜黒色腫を有する2人にBAP1の変異を発見し、そのうちの1人は後に中皮腫を発症した。また、研究チームは、孤発性の中皮腫患者26人中2人にもBAP1の遺伝的変異を発見した。この2人は他の24人と異なり、以前にブドウ膜黒色腫と診断されていた。孤発性の中皮腫患者の一部は腫瘍に非遺伝性のBAP1変異のあることが明らかになった。

両氏は自らの知見について、「BAP1に(遺伝的な)変異のある、ブドウ膜黒色腫を有する個人は中皮腫の発症リスクが高いため、注意深く観察すべきと考えられる」と述べている。

Wiesner氏らが研究を行った家族の両方で、良性皮膚腫瘍を有する1人が眼の黒色腫にも罹患していた。さらに、一家系の3人が皮膚黒色腫と診断された。同氏らは、眼および皮膚の黒色腫に罹患した独立した患者群からランダムに選択した腫瘍においても、非遺伝性のBAP1変異を見いだした。

最近行われた他の2つの研究(こちらこちら)では、孤発性の中皮腫および眼の黒色腫の腫瘍組織で非遺伝性のBAP1変異が発見されている。

甲状腺癌治療に放射性ヨードの使用が増加傾向に

米国で手術後に放射性ヨード治療を受けた分化型甲状腺癌患者(乳頭癌、濾胞癌およびHurthle細胞癌)の割合は1990年から2008年の間に40%から56%に上昇しており、この上昇はすべての大きさの腫瘍にわたってみられた。ミシガン大学のDr. Megan R. Haymart氏らはこの知見を8月17日付のJAMA誌で報告した

これらの患者は甲状腺全摘術のみを実施した後の再発リスクが低く、また低リスクの患者に対し放射性ヨード治療が有益かどうかどうかに関するエビデンスが合意を得ていないにも関わらず、このような増加が生じてしまった。放射性ヨード治療の増加は患者を不必要な傷害にさらすのみならず、多額の費用を負担させるおそれがある。

研究者らは、米国腫瘍外科学会委員会(American College of Surgeons Commission on Cancer)およびアメリカ癌協会(ACS)により管理されている米国癌データベース(National Cancer Database)の甲状腺癌患者189,219人のデータを用い、米国の甲状腺癌患者の約85%のデータを得た。

若くて健康度の高い患者ほど放射性ヨード治療を受ける傾向が高かったが、アフリカ系米国人患者および医療保険未加入の患者ではその傾向が低かった。2004年から2008年の間に治療を受けた患者の病期別の放射性ヨード使用の解析では、腫瘍が最も初期段階にある(病期I)患者は、放射性ヨード治療を受ける傾向が病期IVの患者より低かった。しかし、疾患の病期IIと病期IVの患者間および病期IIIと病期IVの患者間には使用の差はみられなかった。

すべての病期において、放射性ヨードの使用は病院によっても大きく異なっていた。著者らが2004年から2008年までのデータを用いたところ、甲状腺癌患者の症例数が多い病院で治療を受けた患者ほど放射性ヨード治療を受ける傾向が高いことも明らかになった。「病院が治療を行う症例が1例増えるごとに放射性ヨード使用の傾向は0.6%増加する」と著者らは説明している。

患者および腫瘍の特徴は、病院間格差に対する要因のうち21%を占めるにすぎず、その他なんらかの施設関連要因が格差の29%を占めていた。「疾患の重症度だけが放射性ヨード使用の決定因子ではない」ことを示唆していると著者らは述べている。

一連のデータから「病院間の差は治療法およびその根拠についての知識不足」を示しているとテキサス大学南西医療センターのDr. Edward H. Livingston氏とラッシュ医科大学のDr. Robert A. McNutt氏は付随論説で述べている。「治療に関する個人の希望を含めた、確立した反論の余地のない臨床上の意志決定手段を評価することなく、臨床治療の妥当性およびケアのバリエーションを決定することはできない」。

NCIの監視疫学遠隔成績プログラムのデータによれば、分化型甲状腺癌の発症率は過去30年で2倍以上になっている。極めて多数の患者と長期間の追跡調査が必要となることから「(放射性ヨード治療の)ランダム化試験が実施される見込みはないため、この研究は、これらの患者のよりよい予後モデルをつくり上げる必要性に光を当てている」とNIH臨床センターでNCIの甲状腺臨床研究プログラムに参加している医師、Dr. Ann W. Gramza氏はコメントした。

大腸癌のゲノムが配列決定される

研究者らは、全ゲノムのシーケンシング(塩基配列決定)技術を用いて大腸腫瘍の遺伝子変化を検索し、患者9人における正常細胞と比較照合した。他の所見と共に、腫瘍のわずかな割合で融合遺伝子が同定された。このようなあらゆるゲノムプロジェクトと同様、結果は予備的であるが、9月4日付Nature Genetics誌電子版に発表された。この疾患におけるゲノム変化の範囲を把握するにはさらなる研究が必要とされる。

ダナファーバー癌研究所のDr. Matthew Meyerson氏らは、染色体間および染色体内のDNA交換(転座として知られる)などのゲノム再配列の範囲を発見した。研究者らは融合遺伝子を生じさせ得る11の転座を同定した。これらの転座はゲノムの別の部分のDNAが融合することにより形成される。特定の融合遺伝子およびそれらがコードする融合タンパク質は、肺癌や前立腺癌などのよくみられる癌で報告されているが、大腸癌においてそれらが果たし得る役割についてはほとんど知られていない。

11の遺伝子融合のうちの1つが特に興味深い。この融合領域には遺伝子VTI1AおよびTCF7L2が含まれ、これらの遺伝子は、腸上皮細胞の増殖および発生に不可欠な遺伝子の活性を制御する転写因子をコードしている。また、以前の研究でTCF7L2の発現は大腸癌における生存率と関連があるとされている。研究者らが検索した一連の大腸腫瘍97個のうち、3個にこの融合が認められた。

VTI1A-TCF7L2融合遺伝子の機能的重要性を調べるため、研究者らはこの融合を含む大腸癌細胞株を同定した。そして、これらの細胞を用いた実験で,融合遺伝子がその増殖の際に「決定的役割」を果たしているらしいことを発見した。しかし、あるとすれば、この遺伝子が大腸癌においてどのような役割を果たすのかを理解するには、さらなる研究を要すると研究者らは述べている。

VTI1A-TCF7L2融合遺伝子の発見は、「機能的に重要な融合現象がこの疾患で生じており、構造解析をさらに行うことで別の新しい反復性の再配列が同定できる可能性があることを示唆している」とMeyerson氏らは結論している。

同氏らは、大腸癌におけるゲノム変化を目録化するには、大規模なシーケンシングプロジェクトが必要となると述べている。そのようなプロジェクトの1つが癌ゲノムアトラスである。

関連記事:「前立腺癌にはより多くのDNA再配列が見られる

 

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窪田 美穂、川瀬 真紀 訳
榎本 裕 (泌尿器科/東京大学医学部付属病院)、廣田 裕(呼吸器外科/とみます外科プライマリーケアクリニック) 監修
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