2010/02/23号◆クローズアップ「化学療法による末梢神経障害」 | 海外がん医療情報リファレンス

2010/02/23号◆クローズアップ「化学療法による末梢神経障害」

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2010/02/23号◆クローズアップ「化学療法による末梢神経障害」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年2月23日号(Volume 7 / Number 4)
日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇

 化学療法による末梢神経障害

末梢神経障害は通常手・足先から始まり腕や脚に徐々に広がっていく。ピリピリ感やしびれ感のように感じられることもあれば、激痛や焼けるような痛み、あるいは温度に過敏になる場合もある。鋭い刺すような痛みがあり、シャツのボタンを留める、財布の中の硬貨を取り出す、歩くなどの正常な日常的動作が困難になることがある。これらの状態は化学療法による末梢神経障害(CIPN)と呼ばれ、化学療法を受けた癌患者の30〜40%がこのような症状を経験すると推定される。

CIPNは、癌患者が治療を早期に中止する最も多い理由の一つである(CIPNの原因となる薬剤は囲み記事を参照)。一部の人では、化学療法を減量するか一時的に中断することにより症状が軽減され、数週間以内に痛みが和らぐ。しかし、それ以外の人では、化学療法中止後に症状が何カ月も何年も続き、永久に持続することさえある。

「末梢神経障害は著しく衰弱させる副作用と思われます」とNCI癌予防部門の緩和ケアプログラム責任者Dr. Ann O’Mara氏は説明し、「誰に発症するか、どの程度対処できるのか、われわれは予測することができません。予防や治療の観点から、この問題には多くの課題があります」と述べた。

臨床試験以外では、通常別のタイプの神経痛と似た方法、すなわち理学療法、マッサージや鍼などの補完療法、およびステロイド、抗うつ薬、抗てんかん薬、激痛に対するオピオイド(麻薬様物質)などの薬物療法の組合せにより、CIPN症状を管理する。しかしこれらの治療法は本当にCIPNに有効であることが立証されておらず、実際末梢神経障害の治療に使用する薬剤のすべてはそれ自体に副作用がある。

神経障害を伴う生活

Cynthia Chauhan氏は患者擁護活動家で癌コミュニティで精力的に活動している。彼女は、NCCTG(North Central Cancer Treatment Group)、SWOG(Southwest Oncology Group)などNCIが支援する臨床試験グループに助言するいくつかの理事会・委員会に加わり、トランスレーショナル乳癌研究共同体(Translational Breast Cancer Research Consortium)の患者擁護ワーキンググループ(Patient Advocate Working Group)の共同議長を務めている。また、末梢神経障害の辛さや現在の治療法の弱点もよく理解している。

2つの癌を経験した癌サバイバーであるChauhan氏は約15年前に自然発生した特発性ニューロパチーと呼ばれる末梢神経障害を抱えて生きている。症状は、手足の激痛、激烈なしびれ感、ピリピリ感、および感温性の欠如などである。母親はステージIVの卵巣癌治療中に慢性CIPNを発症し、現在痛みのため睡眠がきわめて困難である。「母は神経障害を引き起こした薬剤なしには生きていられなかったでしょう。だから、その事実をもってマイナス面とのバランスをとっているのです」とChauhan氏は述べた。

続けて「私はもともと楽観主義者です。持っていないものではなく、持っているものに目を向けたいのです。私はまだ歩けますし手も使えます。私はアーティストですから私にとって手は大切なものです。今も手が使えるということはとても素敵なことです」と述べた。

彼女は神経障害に対しいくつかの薬物療法を試したが、いずれの全身薬も耐え難い副作用を引き起こした。現在彼女はリドダームパッチおよび誘導イメージ療法と瞑想により痛みに対処しており、誘導イメージ療法と瞑想は主に痛みから気をそらす役割をしているという。「何も痛みを止める術がありませんでした。常に私につきまといます。薬の効く人がいることは知っています。とても精通した医師の下で有効な薬物療法が見つかれば、それは素晴らしいことです」「でも、わたしたち現在症状のある者には、基礎的、トランスレーショナルな研究がもっと行われることが必要なのです」。

CIPNに関連する化学療法薬
•白金化合シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)
•ビンクリスチン
•タキサン系(ドセタキセル、パクリタキセル)
•エポチロン系(イクサベピロン)
•ボルテゾミブ
•サリドマイド
•レナリドミド

痛みを理解する

Chauhan氏がメンバーとなっているNCIの症状管理・健康関連QOL運営委員会は、昨年メリーランド州ロックビルで会合を開き、これらの問題について議論した。この運営委員会はNCIに助言をするいくつかの委員会の1つで、臨床試験の効率を改善して、提案された治療仮説が迅速に患者の新しい検診、治療、予防の選択肢になるように活動する。

何が実際にCIPNを引き起こすのかについては、細胞レベルや組織レベルでまだほとんど推測の域を出ていない。周囲の体液の塩濃度が変化するため、または塩で神経インパルスが誘発されるチャネルが機能しなくなるため、神経が感作されるとの証拠がある。これらまたは別の変化が実際に神経構造を損傷している可能性がある(上の画像参照)。

「基礎的な病因は化学療法薬ごとに、また患者間でも異なるため、CIPNの原因を明らかにして予防・軽減する方法を特定するためには、臨床試験に加えて動物モデルを用いた研究がさらに必要です」と、ミネソタ州ロチェスターのメイヨークリニック乳癌研究部門の教授であり、運営委員会の議長であるDr. Charles Loprinzi氏は述べた。

「多面的なアプローチが必要」と説明し、「動物で何がCIPNを引き起こしているか、どのような薬剤が予防と治療に有用であるかをさらに解明できれば−必ずしもその薬剤がヒトでも全く同じとは限りませんが、有望な化合物を選別する機会を得られるでしょう。動物で症状をうまく軽減できる化合物は、ヒトを対象にした臨床試験に進める可能性があります」。

適切な解明方法を

Dr. Susan Niebur氏は、母親として、炎症性乳癌のサバイバーとして自身の経験を記録しているブログ「Toddler Planet」に、「今までこれが発症しなかったのはとてもラッキーでした、本当に…。これはまさにこの10週間受けてきた化学療法(タキソール)の副作用と思われます。これが今週化学療法を中断している理由です」と、2007年に末梢神経障害の経験を綴った。

「願わくば1週間の休薬期間に私の体が回復し痛みが軽減するといいのですが…。すでに、私の脚は私が考えている以上に反応しており、左足を感じることができるのです(車椅子はいやです!)。わたしの右足は膝の上まで今なおピリピリして触ると痛いのですが、これもこの数日間でなくなることを願っています」。化学療法の中止後2年以上、Niebur氏はなお右足と時たま手に残存性の神経障害を抱え、「現在これは主にしびれ感で、何よりも厄介なものです」とEメールに記した。

Niebur氏が記述したような化学療法中および終了後の患者自身による転帰報告(PRO)は今後のCIPN研究の重要な要素となると思われる。NCIが開発し、臨床試験で癌治療による有害作用の記録に通常使用されるツールCTCAE(有害事象共通用語規準)は、「この症状を十分理解する上で適切ではない」とし、「医療従事者が患者の症状を要約するのではなく、患者に自身の症状を直接記録してもらうのがはるかに望ましいのです」とLoprinzi氏は述べた。

PROには通常、様々な症状についてかなり詳細で正確な情報が含まれる。運営委員会は、EORTC-QLQ-CIPN20と呼ばれる20項目の患者への質問票を含むいくつかのツールを特定し、これによりこのレベルの情報をより収集できるであろう。

今後の臨床研究

いくつかの新薬はCIPNまたは糖尿病やHIVに関連する神経障害の患者を対象にしたパイロット試験で有効性を示し、運営委員会は、その中のいくつかの有望な薬剤について、大規模プラセボ対照ランダム化臨床試験で引き続き検討することを推奨している。これらの臨床試験の一部はすでに患者登録を開始しているが、他はまだ計画段階である。これらの臨床試験に関する詳細な情報はNCIのホームページでみることができる。

CIPNに関連する痛みの治療に有望と考えられる薬剤として抗うつ薬デュロキセチン(本号の 「注目の臨床試験(原文)」参照)とベンラファキシンがあり、いずれもセロトニン/ノルエピネフリン再取り込み阻害薬である。その他の有望な薬剤は局所筋弛緩薬バクロフェン、抗うつ薬アミトリプチリン、鎮痛薬ケタミンである。

CIPNの発症を防ぐために、委員会は以下の薬剤の臨床試験を進めることを推奨した。静注カルシウムとマグネシウムは、オキサリプラチンの投与を受けた患者が参加した臨床試験で、CIPN症状をプラセボの約半分に減少させた。グルタチオンと呼ばれるペプチドは、重金属に結合すると考えられ、白金製剤による化学療法を受けた患者を対象にした小規模な臨床試験で有望な結果を示した。アセチル-L-カルニチンは、動物モデルおよび糖尿病とHIV患者で有効であった。他に抗酸化剤αリポ酸がある。

薬理ゲノミクス試験もCIPNを発症しやすい患者の特定に役立つと期待されている。そのような試験がメイヨークリニックで計画され、タキサンやカルボプラチンの代謝を調節する遺伝子の変化が各人のCIPN発症リスクにどのような影響を及ぼすかを検討する予定である。

「私は医療および研究を行う上で比較的慎重な人間ですが、この分野に関しては非常に高揚しています。われわれはまさに取りかかろうとしているのです。今後数年で試験結果が明らかになり、1つか2つ、あるいはもっと多くの薬剤が患者に利益をもたらすと確信しています」と、Loprinzi氏は述べた。

——Brittany Moya del Pino

【画像下文訳】
上図:健康な人の手のひらから採取した皮膚組織では多数の緑色線維(汎神経タンパク質PGP9.5の蛍光染色)がみられ、正常な神経支配が認められる。なお青色染色はコラーゲンを示す。下図:緑色が少なく、化学療法に伴う慢性神経障害患者の手のひら表皮では神経支配が消失していることを示す(画像はM.D.アンダーソンがんセンターDr. Patrick Dougherty氏の厚意により提供され、ミネソタ大学Dr. William Kennedy氏の研究室と共同で処理した)

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榎 真由 訳
小宮 武文(胸部内科医/NCI研究員・ハワード大学病院) 監修

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