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トラスツズマブ(ハーセプチン)による心臓障害は短期間では増加しない

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トラスツズマブ(ハーセプチン)による心臓障害は短期間では増加しない

Heart Problems From Trastuzumab (Herceptin®) Do Not Increase in the Short Term
(Posted: 06/25/2007, Updated: 06/22/2010) – トラスツズマブ(ハーセプチン)治療を受けている乳癌女性は、治療中に心臓障害のリスクを有する。今回、長期的影響は不明であるが、この障害は短期間では発症しないという研究結果がシカゴで行われた2007年ASCO年次総会で報告された。

 


キーワード

乳癌、HER2、トラスツズマブ(ハーセプチン)、うっ血性心不全

要約

化学療法との併用療法でトラスツズマブ(ハーセプチン®)を投与しているHER2陽性乳癌の女性は、治療中に心臓障害のリスクが高まることが知られている。そのような心臓障害の発症は短期間では増加することはなく、多くの女性は最初の心機能の低下後に心臓の健康状態を取り戻していることがある研究により示されている。その一方で、トラスツズマブの心臓への長期影響についてはまだ解明されていない。

出典

2007年6月4日にシカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会(学会抄録参照)。 2010年6月7日付け Journal of Clinical Oncology誌電子版で発表された結果も参照のこと(ジャーナル要旨参照)。

背景

乳癌の約20%は、HER2と呼ばれるタンパク質を大量に産生(過剰発現)する。そのような腫瘍は、そのタンパク質を過剰産生することのない腫瘍に比べて増殖が速く、また再び発現(再発)する可能性が高い。

分子標的薬剤のトラスツズマブは、HER2を過剰発現する細胞を死滅させる。2005年、数々のランダム化臨床試験により、化学療法と併用してトラスツズマブを投与することで、HER2を過剰発現する腫瘍(HER2陽性乳癌という)を有する女性の約半数において乳癌再発のリスクを低下させるという結果が示された。

しかし、トラスツズマブを投与した女性において、うっ血性心不全(心筋損傷により心臓が正常に拍動することが困難な状態)あるいはその他の心臓障害が多くみられることも、これらの試験により示された。下記に示す試験において、研究者らはこの心臓障害リスクが時間の経過とともに変化するかどうかを確認するために、トラスツズマブのランダム化臨床試験の5年間の追跡期間のデータを検証した。

試験

研究者らは、National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project試験(NSABP-31)の5年間の追跡期間のデータを調査した。本試験では、周辺のリンパ節への転移が認められたHER2陽性乳癌女性を、ドキソルビシン(ドキシル®)およびシクロホスファミドによる化学療法の治療後、パクリタキセル(タキソール®)に加えトラスツズマブを52週間投与する群(被験群)と、パクリタキセルを単独投与する群(対照群)とに無作為に割り付けた。

トラスツズマブの使用資格を得るためには、試験に参加する女性は心機能が正常であり、また心臓疾患の既往歴または現病歴が無いことを条件とした。全ての女性に対して、治療開始前および治療開始後3、6、9、18カ月の時点において心臓の精査を行った。研究者らは、トラスツズマブ投与群の女性と対照群の女性における、うっ血性心不全あるいは心臓障害による死亡として定義される心疾患数の差について、治療開始後5年間にわたり比較した。

試験はNational Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)が管理を行った。5年間追跡試験の著者は、NSABPのPriya Rastogi 医師である。

結果

治療開始から5年経過時点で心疾患を経験していたのは、トラスツズマブ投与群においては3.8%であったのに対し、対照群では0.9%であった。これらの数値は追跡期間3年目に確認された数値(トラスツズマブ投与群においては4.1%、対照群では0.8%)と本質的に変わらず、心疾患の累積発現率は増加していないことを示した。

さらに、最初に心機能低下を経験した女性の約3分の2において、心機能の大幅な回復が認められた。

研究者らは、トラスツズマブ投与群の女性におけるうっ血性心不全に対する3つの危険因子を次のように特定した。年齢(50歳以上の女性のリスクが高い)、高血圧の薬剤の使用(高血圧を低下させる薬剤)、正常範囲内の心機能の低下。

制限事項

重要なことは、トラスツズマブの心臓への長期影響についてはまだ知られていないということであると、ASCO総会でこれらの結果の討議を行ったスタンフォード大学の循環器内科の教授であるSharon Hunt医師は説明した。

「3年間あるいは5年間の追跡期間は、化学療法に起因する心臓毒性の本当の自然歴を明らかにするのに十分ではありません。」とSharon Hunt医師は述べた。「化学療法による10年間の累積毒性を予測することはできません。これは取得するべき非常に重要なデータであり、トラスツズマブ投与を行うかどうかの選択肢を患者さんと話し合う場合、リスク対効果比について患者さんと共通意識を持てるようになります。」

心機能が回復した女性であっても治療前のレベルまで回復することはないという理由から、長期的リスクのデータは特に重要であると、Sharon Hunt医師は説明した。これらの患者は、高血圧あるいはウイルス感染などの疾患による心臓への付加的なダメージを特に受けやすい可能性があると、Sharon Hunt医師は述べた。

コメント

心臓におけるトラスツズマブの長期影響についての問題はまだ解決されていないが、「トラスツズマブがいかに効果的であるかということには本当に驚きます。トラスツズマブは、明らかに転移性乳癌の化学療法への重要な追加療法であり、また補助療法においてもそれは同じです。」とHunt医師は述べた。「この薬剤の素晴らしい有効性について語る一方で、その否定的な側面についても語らなければなりません。」

「トラスツズマブは非常に有効な治療であり、それは乳癌の治療という意味において非常に期待感が高まるものであり、したがって短期間におけるこれらの結果は有効性を確信させるものであります。」と、米国立癌研究所Center for Cancer Research(癌研究センター)の乳癌専門医であるJennifer Eng-Wong医師は同意した。

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栃木和美 訳

林正樹(血液・腫瘍内科)監修

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