卵巣癌治療の最前線  | 海外がん医療情報リファレンス

卵巣癌治療の最前線 

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卵巣癌治療の最前線 

2011年8月2日

卵巣癌は治癒可能なステージで診断するのが非常に困難なため、治療を成功させるのが難しい癌である。米国においては、もっとも致死率が高い婦人科癌であるにもかかわらず、有効性が認められた、あるいは証明された検査方法がないことも、卵巣癌の初期診断を難しくしている。今日までのところ、下腹部の内診や経膣超音波、CA-125測定(血液内のCA-125のレベルが基準値を上回っているかどうかの測定検査)を含め実施されているさまざまな検査が卵巣癌による死亡を減らすという根拠は示されていない。これらの検査は、卵巣癌を早期に診断する手段にはなっておらず、また癌が存在していないのに良性の腫瘍を誤って癌だと示唆するリスクが高すぎる。こうしたことは、不必要な手術や治療につながり、患者にもストレスを与える。

卵巣癌の症状は、かなり非特異的である。このため、初期の限局的なステージで診断されるのは、約19%でしかない。2011年には、米国だけで22,000人の女性が卵巣癌の診断を受け、15,000人が卵巣癌により死亡すると推計される。こうした困難な状況の中でも、研究者らはこの数年、卵巣癌患者により良い治療の選択肢を見つけようと、化学療法レジメン、手術手法、生物療法で重要な臨床的前進を果たしてきた。

原文参照

上図は、卵巣癌のステージIA、IB、ICの描写である。最初の図は、ステージIAの腫瘍で、片方の卵巣内にとどまっている。2つ目の図は2つのステージIBの腫瘍で、両方の卵巣内にそれぞれ存在している。3つ目の図が2つのステージICの腫瘍で、それぞれの卵巣内にあるほか、1つの腫瘍は被膜が破裂している。挿入図は、癌細胞が腹部臓器の回りにある腹水に浮かんでいる様子を示している。

卵巣癌治療における手術の主目的は、腫瘍の切除である。現在の手術目的は、可視可能な癌をすべて除去することを目標としているため、これまでの研究結果では、切除、すなわち腫瘍の除去が完全であるほど臨床転帰も良いことが常に示されてきた。しかしながら、すべての患者がこうした手術を受けられるわけではない。このため、最近では欧州の婦人科癌グループ (EORT-GCG)とカナダ癌研究所の臨床試験グループ (NCIC-CTG)が、手術後に化学療法を施行するか、ネオアジュバント化学療法と呼ばれる手法で手術前に化学療法を実施した方が良いのかを調査する臨床試験を行った。試験結果は、二つの手法で差異がなく、同程度の生存転帰であること、および最初に手術を行うことによる副作用の増加を考えれば、術前化学療法を考慮する可能性を示唆した。婦人科腫瘍グループ(GOG)による新たな臨床試験では、医師と患者に術前化学療法を選択するか、あるいは悪性腫瘍除去手術の後に標準的な化学療法を実施するかの選択を委ねる予定である。

1978年、米国食品医薬品局(FDA)は白金を含む抗癌薬(プラチナ製剤)であるシスプラチンを転移性卵巣癌の治療薬として承認した。承認後まもなく、腹腔内化学療法(IP)が抗癌剤の投与手法として確立された。これは皮下に埋め込んだカテーテルを通して、抗癌剤を腹腔内に注入する方法である。この手法では薬剤を直接腹腔内の癌に投与することで、局所的に薬剤の暴露を高められる。シスプラチンや類似のカルボプラチンなど、腹腔内化学療法で投与される薬剤によっては、さらに体内で吸収され、循環することにより体内の他の場所に散らばった卵巣癌にも作用する。

その次に訪れた顕著な薬学的進歩は、90年代半ばに承認されたパクリタキセルである。これはタキサン系抗癌薬と言われる種類の薬剤で最初に承認を受けた薬である。パクリタキセルは、癌細胞のように成長および分裂が早い細胞に作用する。プラチナ製剤と異なり、タキサン系抗癌剤は腹腔内に注入しても体内吸収されないので、局所的に高濃度の薬剤暴露が可能となる。

研究者らはシスプラチンとパクリタキセルを広範囲に研究して、両タイプの薬剤の併用化学療法レジメンが、卵巣癌の再発予防および生存期間の改善にもっとも有効であることを見いだした。化学療法が有効である卵巣癌患者に対しては、シスプラチンとパクリタキセルの併用が、推奨される標準治療法となった。この療法のさらなる改善として、手術後に静脈内投与(IV)と腹腔内投与(IP)の併用で化学療法を受けた進行卵巣癌患者は、生存期間が約1年長かったことが、2006年のGOGによる研究結果で示された。薬剤の静脈および腹腔内への直接投与を同時に行うことで、無増悪生存期間が改善した。これは腹腔内への直接投与が起因したのかもしれないが、IVとIPを併用した群ではより多量の化学療法剤が投与されたことから、用量密度と呼ばれる薬剤投与量が要因となった可能性もある。

生物療法も、卵巣癌の治療法として研究が進められている注目分野である。研究者らは卵巣癌を含む多数の癌の治療法として、モノクロナール抗体や小分子の形態での標的薬剤の有益性について研究を続けている。腫瘍が新たな血管を生成するのを妨げる血管新生阻害剤も、小分子薬剤または抗体を使った標的療法のひとつで、臨床の場で有望性を示している。一次治療に血管新生阻害薬剤の一つであるベバシズマブを加えることで、臨床転帰が改善するかどうかを調べる複数の臨床試験が現在実施されている。2010年には、初期の化学療法期間および初期化学療法の終了16ヵ月後までベバシズマブ(アバスチン)投与を続けた卵巣癌患者は、化学療法のみを受けた患者と比較して、進行リスクが28%低かったことがGOGの研究で明らかになった。この有益性が短期間にとどまったことから、医療界はこれを新たな標準治療に展開するかどうか決めかねている。今春発表されたOCEANSと呼ばれる新たな臨床試験では、最初の再発卵巣癌患者に対し、ベバシズマブをカルボプラチンとゲムシタビンに加えて投与した。この試験では、進行リスクが顕著に下がり、生存期間も改善した。これらの研究が今後の治療に与える影響はまだ定まっていない。

卵巣癌をめぐる最も顕著な最近の進展は、新たな種類の標的薬剤PARP阻害剤の発見および活用である。PARP阻害剤の一つであるオラパリブ(olaparib)は、細胞が損傷したDNAを修復するのに必要とするPARP1とPARP2タンパク質の活動を阻害する。この物質は、BRCA1またはBRCA2の生殖細胞系変異を有する乳癌および卵巣癌患者に対し、臨床的に有効であることがわかった。またオラパリブは、上皮性卵巣癌の一つである高悪性度の漿液性卵巣癌にも活性を示した。研究者らは、オラパリブのようなPARP阻害剤とプラチナ製剤のような標準的な抗癌剤を組み合わせることで、化学療法またはPARP阻害剤単剤と比較して、より顕著な抗腫瘍効果をもたらすことを期待している。この手法は、高レベルで損傷したDNAを蓄積すると細胞は生き残れないという所見を基にしている。さらなるPARP阻害剤が開発途中であり、BRCA1とBRCA2変異を有する卵巣癌患者とそれ以外の卵巣癌患者を対象に、PARP阻害剤の役割が試されている。

卵巣癌の予後不良を認識し、NCI(米国立癌研究所)が支援する癌ゲノムアトラス(TCGA)は、ゲノム変化を詳細な地図にする最初の対象の一つとして、高頻度にみられる漿液性卵巣癌を選んだ。TCGAによる解析の目標は、遺伝子発現と患者の生存期間の違いの関連を探り、特定の遺伝子変化を治療の奏効に関連づけられるかどうかを確定することである。現在までのところ、TCGAは卵巣癌における総括的なシーケンシング、特性評価、およびゲノム変化解析を完了した。Nature誌に発表されたばかりの初期知見には、多くの研究者が関心を寄せている。初期知見では、他の多くの固形腫瘍と異なり、卵巣癌では癌を引き起こすような遺伝子変異で頻繁に見られるものはなかった。漿液性卵巣癌は遺伝的複雑性と遺伝的多様性で際立っている。研究者らはこれらの注目に値するデータの集積を組み合わせ、より顕著な臨床的有益性、生存期間における優位性に向け、また毒性と患者の傷害を低減させる治療法に絞り込めるよう、卵巣癌を分類する手がかりを特定すべく取り組んでいる。

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片瀬ケイ 訳

林正樹(血液・腫瘍内科) 監修

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原文

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’NCIベンチマーク’は、医療や科学ライター向けに、癌研究に関するトピックの背景を紹介するNCIメディア広報部提供のシリーズです。

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