2010/04/20号AACR特集◆癌研究ハイライト | 海外がん医療情報リファレンス

2010/04/20号AACR特集◆癌研究ハイライト

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2010/04/20号AACR特集◆癌研究ハイライト

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年4月20日号(Volume 7 / Number 8)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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癌研究ハイライト

・マイクロRNAがトラスツズマブ耐性および脳転移と関連
・糖尿病薬メトホルミンがマウスの肺癌を予防
・癌リスクの評価ツールには定期的な再調整の必要性
・気道細胞分析により癌リスクがもっとも高い喫煙者を特定
・ペプチドは化学療法剤が腫瘍の奥深く浸透する手助けをする
マイクロRNAがトラスツズマブ耐性および脳転移と関連

マイクロRNA(miRNA)量の上昇と、HER-2陽性乳癌患者の標的薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン)耐性に関連があることが研究者により示された。別の研究チームはメラノーマ患者の脳転移からmiRNAの’特性(signature)’を発見した。これは初期の原発腫瘍にも存在し、脳転移リスクの高いメラノーマ患者を識別可能にするかもしれない。これら2つの研究結果は昨日の米国癌学会(AACR)年次総会で発表された。

前者の研究は、実験的にmiR-21量を上げたHER-2陽性乳癌細胞株は、miR-21の少ない細胞株に比べ、トラスツズマブに耐性を有することがテキサス大学M.D.アンダーソンがんセンターの研究チームにより示されたもので、Dr. Dihua Yu氏の研究室の大学院生Sumiyah K. Rehman氏が記者会見で今回の知見を発表した。トラスツズマブ治療に耐性であるHER-2陽性腫瘍患者のサンプルでもmiR-21量が増加していた、とRehman氏は説明した。

乳癌の細胞株およびマウスモデルのいずれにおいてもmiR-21量を抑えることでトラスツズマブ感受性が上昇した。また、低量のmiR-21は癌抑制因子遺伝子PTENの発現量減少と関連していた。PTENはすでにトラスツズマブ耐性との関連が示されている。今回の知見からmiR-21およびPTENの発現が「トラスツズマブ治療に反応するか否かのバイオマーカーになるかもしれない」とRehmen氏は述べた。

後者の研究は、ニューヨーク大学医学部の研究者らがメラノーマ患者集団59人の転移腫瘍サンプルを分析したところ、脳転移サンプルでは他の部位の転移と異なるレベルのmiRNAの特性が7種確認された。この特性は別の患者集団36人のサンプルでも検証できた、と研究代表者のDr. Eva Hernando氏は報告した。同じ患者の原発腫瘍からも、転移巣ほどではないが同種のRNAのうち一部の指紋が認められた。

細胞株およびマウスモデルでの研究で、遺伝子特性にあるmiRNAの一種miR-199-3pのサイレンシングと関連してメラノーマ細胞が上皮細胞に接着し脳へ転移する能力を獲得することが示された。

Hernando氏は、これらmiRNA特性により「(メラノーマ)患者で脳転移リスクの高い人を識別できるかもしれない」と述べ、これらの患者がサーベイランス強化や臨床試験への登録により識別される可能性を示した。これら関連するmiRNAの一部は「新治療法の標的になるかもしれない」とHernando氏は述べた。

糖尿病薬メトホルミンがマウスの肺癌を予防

糖尿病薬メトホルミンにより、たばこに含まれる発癌物質に曝露されたマウス腫瘍の発生が予防されたことがAACR年次総会で発表された。メトホルミン投与マウスでは、未処置マウスに比べ、ニコチン由来ニトロソアミンという発癌物質に曝露させた後の肺腫瘍の大きさが53%減少した。マウスにはヒトで効果を発揮する量の経口メトホルミンを13週間投与したという。

今回の結果を発表した代表研究者でNCI癌研究センター所属のDr. Phillip A. Dennis氏は、「癌予防薬としてのメトホルミンは非常に興味深い」と述べた。「たばこに含まれる主要発癌物質に曝露したときに発生しうる肺腫瘍の半分以上を予防することができました。これは事実であり、大きな減少率です」。 Dennis氏のグループはFDA承認薬メトホルミンを肺癌リスクがもっとも高い人に投与する臨床試験を計画しているという。

メトホルミンを注射によりマウスに投与したところ、薬剤濃度は高くなり抗癌作用はさらに強くなった。結果、未投与群と比べ肺癌が72%減少した。この投与法は人での癌予防には適さないが、より強力な類似物質であればメトホルミン自体より効果的かもしれない、とDennis氏は指摘した。化学予防薬は何であれ毒性を最小限にすることが重要であるが、メトホルミンのマウスでの忍容性は良好であった。実のところ、処置したマウスの肝臓に毒性を示す徴候はなかったばかりか、未処置のマウスより健康であった。

今回の研究は肺癌予防でのメトホルミンの可能性を初めて示した研究と言えそうだが、乳癌のマウスモデルを用いた前臨床試験でも同様に効果ありとの結果が出ている。さらに、何十万という2型糖尿病患者における疫学研究でも、メトホルミンを服用する患者では多くの癌のリスクが低下することが示されている。これらの結果はともに、癌のさまざまな臨床症状に対するメトホルミンの効果について研究する根拠となる、と研究者は述べた。

癌リスクの評価ツールには定期的な再調整の必要性も

一般にゲイル(Gail)モデルとして知られる女性の乳癌リスク評価のための統計ツールに、結果に影響を与えうる集団において常に変動する統計値を計上するためには、このようなツールを定期的に更新する必要があることが新たな研究で示唆されたと4月5日付オンライン版Journal of Clinical Oncology誌で報告された

ゲイルモデルの追試研究によると、このツールは2つの集団ベースの大規模コホート研究における女性の浸潤性乳癌の患者数を過小評価していた。つまり、再調整されたモデルに基づくとタモキシフェンラロキシフェンなどの予防的化学療法の対象になったかもしれない少数の女性が、その推奨閾値に達しないことを意味していた。このコホート研究とはNIH-AARP Diet and Health Study(米国国立衛生研究所(NIH)-アメリカ退職者協会(AARP)食生活と健康試験)およびProstate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Trial[前立腺癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌(PLCO)スクリーニング試験]であった。

アメリカ国立癌研究所Division of Cancer Epidemiology and Genetics(癌疫学・遺伝学部門)のDr. Ruth M. Pfeiffer氏率いる研究者らは、この過小評価の主な原因は、ゲイルモデルを開発するのに用いられた乳癌罹患率(1983年から1987年のSEERデータ)と、追試で用いられたコホート研究で対象となった期間における罹患率(1995年から2003年のNIH-AARPおよび1993年から2006年のPLCO)との差異にあるとした。

アメリカにおける乳癌罹患率は1990年代に徐々に上昇し、2000年頃に横ばいになったが、更年期のホルモン治療が乳癌リスクと関連付けられた2003年以降に大幅に低下した。モデルのパフォーマンスは、それが1995年から2003年のSEERデータ上の浸潤性乳癌の罹患率に更新された後、大きく改善したと研究者らは指摘する。ゲイルモデルは、追試が2003年から2006年のPLCOデータに限定された時に適切に調整された。

多くの女性と医療関係者は、乳癌予防についての判断に必要な情報を得るために、乳癌リスク評価ツール(BCRAT:Breast Cancer Risk Assessment Tool)と呼ばれるゲイルモデルの一般公開バージョンを用いる。女性の病歴や出産歴だけでなく乳癌の家族歴も考慮に入れるこのツールは、SEERプログラムから得られる罹患率のデータを使って更新され、今後も定期的な更新が継続されると研究者らは言う。最新のSEERの罹患率はGailモデルに組み入れられている初期の罹患率と類似しているため、更新を行うことが現在のBCRATの結果に大きな影響を与えることはないと思われるが、将来的にさらに重要な役割を担う可能性がある。

「われわれの研究で、リスクモデルが臨床的判断の際に引き続き有用であることを保証するためには、モデルが定期的に更新されなければならないことがわかった」とPfeiffer氏は言う。「重要なのは、正確なリスク予測をするためには、モデルに影響を与えうる集団の統計変化に長期にわたって注意を払う必要があるということである」。

気道細胞分析により癌リスクがもっとも高い喫煙者を特定

喫煙者および元喫煙者の気道細胞にみられるあるシグナル伝達経路の異常な活性化は、肺癌発生の初期段階であることが研究者により確認された。さらに、前癌病変を有する患者でこのPI3Kという経路を阻害する化合物を特定した。ボストン大学医学部のDr. Avrum Spira氏およびユタ大学のDr. Andrea Bild氏らが率いる研究チームが4月7日のScience Translational Medicine誌でこの知見を報告した

同氏らは以前の研究で、患者の気道細胞の遺伝子80種類を分析することで喫煙者の肺癌の有無を区別できる可能性を示した。気管支鏡で採取した気道細胞は顕微鏡下では正常に見える場合もあるが、肺癌と関連する異常な遺伝子活性パターンを示す可能性もある。たばこに含まれる有毒物質が気道全体の細胞の遺伝子状態を変える可能性があり、この変化をとらえて診断に応用可能かもしれない、と研究者らは述べた。

多くの癌に関連するPI3K経路が活性化することを確認した後、研究者らはこの活性化に対抗する薬剤はないか探した。気管支異形成のある喫煙者における小規模な臨床試験で、ミオイノシトールという食物の一部に自然に含まれマウスでの抗癌作用を示した化合物を投与すると、大半の対象者で前癌病変が退縮した。病変が退縮した対象者ではPI3K経路の活性が減少し、病変に変化がなかった対象者では活性にも変化がなかった。

「これらの結果から、肺癌発生の初期における重大な可逆的イベントとして、喫煙者の気管支気道上皮細胞のPI3K経路が制御されなくなることが示唆され、比較的採取しやすい位置にある気道細胞の遺伝子解析により各個人に適応した化学的予防や治療が可能となるかもしれない」と研究者らは結論づけている。

初期の肺癌でPI3K経路の果たす役割を確認し、ヒトでのミオイノシトール投与を評価する大規模試験が必要だ。NCIは気管支異形成のある参加者を対象にミオイノシトールの第2相臨床試験を継続中である。この試験では、ミオイノシトールが肺の前癌病変を正常に回復する能力の評価、肺癌および肺癌リスクのマーカーの測定、安全性プロファイルの確立を行う。

ペプチドは化学療法剤が腫瘍の奥深く浸透する手助けをする

多くの抗癌剤は、それらを腫瘍に運ぶ血管からわずか細胞数個分のところまでしか浸透せず、奥深くに存在する細胞を死滅させる抗癌剤の効果を制限している。カリフォルニア大学サンタバーバラ校のDr. Kazuki Sugahara氏率いる研究者らは、概念実証研究でiRGDと呼ばれる腫瘍浸透性ペプチドを数種類の一般的な化学療法剤とともに注射することにより、マウスの腫瘍細胞に到達する薬剤の量が大幅に上昇したと発表した。この結果は4月8日付Science誌で報告された。

iRGDは腫瘍血管の内側にあるタンパク質と結合するが、正常細胞内のタンパク質とは結合しない。iRGDは結合の際に、薬剤を血流から腫瘍細胞に輸送する能動輸送の過程を引き起こすとみられる。

研究者らは、ヒト腫瘍の異種移植片を有するマウスに化学療法剤とともにiRGDを注射した。これらを併用することにより、ナノ粒子に埋め込まれたパクリタキセルの乳癌細胞における蓄積が単独投与時と比較して12倍に、前立腺癌細胞におけるドキソルビシンは7倍に、乳癌細胞におけるトラスツズマブでは40倍に増加した。iRGDが化学療法剤と化学的に結合していない場合でもこのような増加がみられた。

iRGDの追加により薬効もまた増加した。たとえば、1mg/kgのドキソルビシンとiRGDを静脈注射すると、iRGDなしで3mg/kgのドキソルビシンをマウスに投与した場合の腫瘍根絶と同じ効果が、毒性を高めることなく得られた。

「iRGDの併用は、癌治療研究の主要目的、つまり抗癌剤の副作用を抑えつつ有効性を増進させる方法となるかもしれない」と著者らは結んだ。研究者らは、ヒトにおけるiRGDの安全性および有効性試験はまだ実施されていないと警告している。

その他の医療ジャーナル記事:小児癌治療を成功させるには小児癌の統計の新たな分析は、米国で1975年から2006年の間に、主に新薬や改善された治療戦略、臨床試験における過去の投資のおかげで38,000例の小児の癌死が回避されたと推量する。しかし研究著者らは4月19日付Journal of Clinical Oncology誌で、これらの疾患に対する臨床研究は岐路に立たされていると警告している。従来の化学療法の投与方法を最適化することで着実に転帰が改善できる時代は終わろうとしており、標的療法時代が始まったばかりだと著者らは記述する。「われわれの進歩はペースを落としてしまったため、いまや小児癌の生態、それを制御する遺伝子、およびその経路をより深く理解する必要がある」と筆頭著者であるNCIの癌治療評価プログラムのDr. Malcolm Smith氏は声明文で述べた。「これを理解することで、われわれは治療に利用可能な感受性を同定でき、癌と診断されたすべての子供たちのための根治的療法というゴールに向かって動き続けられるのである」。

この戦略の展望は、小児癌およびゲノム分析が専門の研究者を結集させたNCI支援のプロジェクトChildhood Cancer TARGET Initiative(小児癌TARGETイニシアチブ)などの初期の結果により実証されている。

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橋本 仁  山本 容子 訳
小宮 武文(胸部内科医/NCI研究員・ハワード大学病院) 寺島 慶太(小児科医/テキサス小児がんセンター)監修

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