人の免疫系は、考えられていたほど大きくは違わないことが研究で明らかに/フレッドハッチンソンがん研究センター | 海外がん医療情報リファレンス

人の免疫系は、考えられていたほど大きくは違わないことが研究で明らかに/フレッドハッチンソンがん研究センター

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人の免疫系は、考えられていたほど大きくは違わないことが研究で明らかに/フレッドハッチンソンがん研究センター

この知見から、癌やその他の疾患に対する新たな検出、診断、治療方法が生まれる可能性がある
フレッドハッチンソンがん研究センター
2010年9月1日

ヒトの免疫系の機序について、これまで考えられていたほど個体間に違いがみられないことがフレッドハッチンソンがん研究センターの研究者らによる新しい研究で示された。[pagebreak]この知見は癌やその他の免疫系疾患の検出、診断、治療方法を新たに開発する上できわめて示唆に富むものである、とScience Translational Medicine誌9月1日号に詳細が掲載されている論文の責任著者であるHarlan Robins博士は語った。

Robins氏らはヒトの適応免疫系における極めて重要な因子であるT細胞受容体の配列解析を、1つのサンプルから一度に数百万も行うことができる新しい手法を開発した。異なる個人間の免疫系プロファイルを比較すると、従来考えられていたよりも更に研究者の見解に近いことがわかり、研究者らを驚愕させた。

「人が2人いれば、まったく同じT細胞受容体が数万個あることがわかりました。これは、各個人はT細胞受容体を、他人と重複することはほとんど皆無である個別のセットとして持っているという従来の定説に反するものです」と、情報生命科学者でフレッドハッチンソンがん研究センターの公衆衛生科学部助手である Robins氏は語った。

この知見は、自己免疫疾患や癌の診断および治療に役立つ可能性がある。

「異なる個人の間に強く認められる適応免疫細胞の類似性は、個体が異なっても、ある疾患がある同一の反応を引き起こすことを示しています。」とRobins氏は述べた。「この論文の技法を用いると、たとえ免疫反応の度合は低くても、このような反応を容易に検出することができます。したがって、ある特定の疾患の診断ツールとして、これら共通のT細胞を1種以上使える可能性があります」

新しい病原体に対する防御反応を担うヒトの免疫系は適応免疫と呼ばれるが、数千万からなる異なった細胞のサブタイプから構成されている。各細胞サブタイプは、細胞表面上に異なった受容体を発現している。これらの受容体はタンパク質で、それぞれが独自の形態をとっているため、様々な形態の病原体に幅広く結合することが可能となっている。ここで研究されている受容体の一群はT細胞受容体と呼ばれるもので、胸腺で産生される。他のヒト・ゲノム遺伝子と異なり、これらのT細胞受容体をコードする遺伝子は遺伝されない。つまり、各個人で別個に産出される。各個人のT細胞はその量の膨大さと多様さが壁となって、今日まで徹底的な研究が難しかった。

本研究では、Robins氏らはフレッドハッチンソンがん研究センターの臨床研究部において、健康な7人の提供者から採取した1人あたり5百万以上のT細胞受容体の遺伝子配列の解析を行った。これらの配列を比較したところ、2つの重要な結果が得られた。

第一に、ヒトの免疫系におけるT細胞受容体の配列群は、すべての可能性を持つランダムな断面ではなく、研究者が実質的に同定することができる一貫した特性を持つ小規模なサブセットである。

「各個人の適応免疫系は予想以上に類似しています」とRobins氏は述べた。

第二に、7人の提供者のT細胞受容体を塩基対ごとに比較した場合、民族が異なっていても、塩基対を共有している受容体が数万もあることがわかった。

この発見は自己免疫疾患や癌にとってとりわけ示唆に富むものである。1型糖尿病や多発性硬化症といったある種の自己免疫疾患では、T細胞が体細胞を攻撃するために、T細胞自体が発病機序に関与していると考えられている。1型糖尿病では適応免疫系が膵島細胞を攻撃し、多発性硬化症では免疫系は脳や脊髄のニューロンを包む髄鞘を形成する細胞を攻撃する。ほとんどの自己免疫疾患は疾患の経過がかなり進行した後にはじめて診断が下される。しかし、この時点では修復不可能な細胞の損傷が既に起きている。

「われわれが今回検出できた特定のT細胞の組み合わせが発病機序に関与している可能性があることを、この論文の結果は示しています。さらに、この標的とされる組み合わせの検出は、現行の診断方法よりもずっと早い段階で可能ですから、現在行われている治療薬を予防的に投与することで、生きている細胞の機能を保護することができる可能性があります。また、T細胞のクローンも発病原因であるため、これらもまた標的として治療が行われます。原則的には、これらのT細胞クローンを標的として自己免疫性の発作を予防するモノクローナル抗体の開発が考えられるでしょう」。

この知見は、まだ治癒可能な段階での、癌のバイオマーカーによる疾患の早期発見にとって、新たな道筋を示すものでもある。大腸癌など多くの癌では、T細胞の免疫反応が誘発されていることを強く示す証拠が挙げられている。免疫系の作用はクローン増殖と呼ばれる過程を通じて行われる。疾患に侵された細胞と結合する特定の受容体を持つT細胞の一群が、みずからのコピーを数百万も産生し、病んでいる細胞全体と戦う兵隊を作る。

「実際のところ、免疫系は増幅器の役割をします。ですから、ごく微小な腫瘍であっても大きな免疫反応を引き起こす可能性があるわけです。われわれはこのような反応を検出することが可能になりました。この論文の結果から考えると、複数の患者が同じタイプの腫瘍に対して類似の反応を示すということもあります。従って、これらの類似反応を検出することが、ある特定の癌のタイプで早期診断ツールとなりうるのです」。

実験から生み出される膨大な量のデータを処理し分析するため、ImmunoSEQと呼ばれるシークエンス解析技術とImmunoSEQ Analyzerと呼ばれる関連ソフトが開発された。フレッドハッチンソンがん研究センターはシークエンス技術に関する特許について出願中である。これらの技術はこれまで、シークエンス作業や解析作業を請け負う地元企業であるAdaptive TCR社に独占的ライセンスが認められていた。

本研究は、米国国立癌研究所と米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute for Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)の助成を受けている。

マスコミ向け情報

本論文の入手方法やRobins博士へのインタビューの日程に関するお問い合わせはDean Forbesまでお願いいたします。

Dean Forbes
Fred Hutchinson Cancer Research Center
(206)667-2896
dforbes@fhcrc.org

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窪田美穂 訳
辻村信一(獣医学/農学博士、メディカルライター)監修
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原文


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