2009/01/13号◆スポットライト「HER2標的治療改良への期待」 | 海外がん医療情報リファレンス

2009/01/13号◆スポットライト「HER2標的治療改良への期待」

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2009/01/13号◆スポットライト「HER2標的治療改良への期待」

同号原文 

NCI Cancer Bulletin2009年1月13日号(Volume 6 / Number 1)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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スポットライト

HER2標的治療改良への期待


患者が標的治療の候補となるのはどのような場合か。HER2陽性の定義を「HER2タンパクを過剰に産生する乳癌」とするのは制限しすぎである可能性を示唆した研究が2007年に複数発表されて以来、その問いに対して一部の乳癌研究者らは躍起になってその答えを追究している。これらのレトロスペクティブ研究で示されたのは、HER2陰性の女性患者でさえHER2標的薬トラスツズマブ(ハーセプチン)の恩恵を受けているという事実である。

モノクローナル抗体のトラスツズマブは、分子標的治療薬の黎明(れいめい)期のサクセスストーリーとして最もよく引用されるものである。トラスツズマブはHER2陽性、転移性乳癌の女性患者において無増悪生存期間および全生存期間を延長し、早期HER2陽性患者に対する治癒確率に劇的な影響を及ぼすことを示唆するデータがでてきている。

2007年のこれらの見解を支持する研究ばかりではないが、「従来の定説を再考する必要性」を示す十分なエビデンスがあると、ダートマス・ヒッチコック医学センターでノリス・コットンがんセンターの医学部内科教授Dr. Peter Kaufman氏は述べた。

何らかのヒントである―しかし何を意味するのか?

乳癌の専門家は、最近の研究はあらたな仮説を生む研究ではあるが、現在の実地臨床に影響を及ぼすべきではないという意見に賛同している。なんといっても、HER2の状態に基づいて乳癌患者の治療を選択することは治療戦略として成功したものであると、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校ヘレンディラー総合がんセンターで乳癌治療計画を指揮するDr. Laura Esserman氏は述べた。

「一般にHER2を標的とするのは正しいことが証明されています」と彼女は語った。「われわれが有効な治療方法を行っているのは非常に明確だと思います。ただし、それは完璧なものではなく、まだ改良の余地があります」。

標的の測定

例えば、研究者らは25~30%にとどまっているトラスツズマブに対する奏効率を上げる方法を見つけたいと考えている。またHER2検査の精度については懸念されており、米国臨床癌学会(ASCO)と米国臨床病理医協会(CAP)はHER2検査に対する臨床ガイドラインを作成するに至った。

「これは治療選択のための単独の決定要因として用いられている腫瘍マーカーです」とガイドライン委員会共同議長のジョンズホプキンス大学シドニーキンメル総合がんセンターのDr. Antonio C. Wolff 氏は説明した。「それゆえに、病理学者はガイドラインをできるだけ遵守し、臨床医は検査の質を問うことが重要なのです」

トラスツズマブやラパチニブ(タイケルブ〔Tykerb〕)のようなHER2標的治療の使用についての臨床研究を続けることも重要であるとWolff氏は付け加えた。「真のHER2陽性あるいはHER2陰性腫瘍であると絶対的に確信できることが必要です。そうすることではじめて、臨床結果について検討することが可能になるのです」と彼は言った。

奏効率と検査精度の問題は、一般にIHCとFISHという2種の検査法で判定されるHER2陽性の定義(表参照)に対する疑問と重なっている。

標的の測定
IHC(免疫組織化学)およびFISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)はASCO/CAP HER2検査ガイドラインで推奨される2種の検査方法である。検査方法の詳細と、HER2陽性、HER2陰性、擬陽性やボーダーラインの結果はどのように判断されるのかという詳細である。IHC解析では癌細胞内で発現したHER2タンパク量を測定し、FISH解析では癌細胞内のHER2遺伝子のコピー総数か、HER2遺伝子と染色体17のコピーの比率のどちらかを測定して解析する。結果    IHC     FISH (2種の方法)

 陽性     3+           1細胞あたりHER2 のコピーが6以下あるいはHER2とch17の比は2.2~1
陰性    0+, 1+   1細胞あたりHER2 のコピーが4以下あるいはHER2とch 17 の比は1.8~1以下
擬陽性   2+     HER2 のコピーが4~5あるいはHER2とch17の比は1.8~2.2

トラスツズマブの効果と相関するIHCとFISHの閾値は、転移性乳癌女性患者に関する臨床試験に基づいて確立されたとNCI癌治療・診断部門の診断評価支部の副部長Dr. Tracy Lively氏は説明した。さらに最近のデータからは、早期乳癌の治療を受ける女性では、これらの閾値は修正したほうがいいかもしれない。

ASCOの2007年度年次総会で、ピッツバーグの全国外科乳癌・大腸癌術後補助療法プロジェクト (NSABP)の病理学部門所長 Dr. Soonmyung Paik氏は、研究前には同様の仮定をした。Paik氏らは、B-31試験により得られた腫瘍サンプルについて、事前計画ではなかったレトロスペクティブ分析を行った。B-31試験は、HER2陽性早期乳癌女性患者を対象に術後補助療法として化学療法とトラスツズマブ併用と化学療法単独を比較したものである。

腫瘍標本の再検査後、10%の患者が、真にはHER2陰性であること (その女性患者らは本試験に登録すべきではなかったという意味)が判明した。それでもなお、トラスツズマブ治療を受けたHER2陰性患者は転帰が改善するという統計的に有意な傾向があった。事実、HER2陰性のすべての患者にとってベネフィットがあったことを認めた(一部は統計学的な有意差を示せなかった)。

この所見は、CALGB9840試験で転移性乳癌の女性患者から採取した腫瘍サンプルを用いて行われた Kaufman氏主導によるもう一つの事前計画なしのレトロスペクティブ分析を含め、総会で提示された別の二つの研究データとも一致した。CALBG 9840試験では、FISH法によればHER2陰性だが、染色体17のポリソミー(HER2遺伝子が存在する染色体17の過剰コピー)がある一部の女性患者の腫瘍では、化学療法単独と比較して、トラスツズマブと化学療法併用治療は高い奏効率が得られた。

「驚くことが沢山あります」とKaufman氏は述べた。「しかし、また一方、これらの所見は予備的なものです。サンプルサイズは小さく、レトロスペクティブな分析であり、偶然生じた結果かもしれません」。

この話題についての報告は続いており、南カリフォルニア大学ノリス総合がんセンターのDr. Michael Press氏主導の最近の研究によれば、HER2陰性女性患者でラパチニブの効果を認めなかった。

今後の展開

分子生物学的に、HER2陰性とHER2陽性の中間に属する腫瘍を持つ一部の女性患者に、HER2標的治療による効果があるかを検証する大規模臨床試験が必要であるとLively氏は語った。

このような研究はすでに始まろうとしている。Paik氏の当初の研究成果を確認する検証試験は「急速に進められています」とNSABPの医療担当部長Dr. Charles Geyer氏は説明した。その結果が肯定的なものであれば、と彼は続けて、「HER2低レベル」のカテゴリーに分類される乳癌患者が、HER2標的療法による臨床上恩恵を受けるかどうかを調べる臨床試験を行う計画がNSABPにはあるという。

その一方で、得られた結果からは難題がいくつか生じたものの、自分は肯定的に捉えているとEsserman氏は言った。

「これらの検査方法が間違っているということではありません」と彼女は言った。「おそらく、測定するのにもっとよい方法があるということです。」

例えば、Esserman氏は、早期乳癌女性患者に対する術前化学療法を検証するI-SPY試験の責任医師の一人である。本試験は、定期的な生検の分子生物学的分析および、定期的なMRIスキャンにて、治療に対する反応マーカーを同定することを試みている。このような可能性がある部位として彼女があげたのは、HER2タンパクのリン酸化レベル(タンパクへのリン酸基付加であり、タンパク活性を制御している)であり、他の測定法によるHER2発現値やトラスツズマブへの反応と相関しているという。

検査方法の領域での進歩は、サンフランシスコ拠点のモノグラムバイオサイエンス社によって開発されている、HERmarkと呼ばれるものである。開発元によれば、この方法では、HER2レベルならびに、癌細胞表面に存在するHER2 タンパクによって形成される複合体(二量体と呼ばれる)の範囲をより正確に測定できる。国内の会議で発表された小規模研究では、本検査法でHER2陽性患者を含む女性患者がトラスツズマブに反応することをさらに正確に予測できるということが予想された。

「新たな、よりよい検査方法を開発するための意欲が高まったことに、議論の余地はないと思います」とEsserman氏は述べた。

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M.F 訳

後藤 悌(国立がんセンター中央病院 内科)監修

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