2009/03/10号◆特別レポート「一人の患者の遺伝子が膵臓癌への手がかりとなる」 | 海外がん医療情報リファレンス

2009/03/10号◆特別レポート「一人の患者の遺伝子が膵臓癌への手がかりとなる」

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2009/03/10号◆特別レポート「一人の患者の遺伝子が膵臓癌への手がかりとなる」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年3月10日号(Volume 6 / Number 5)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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特別レポート

一人の患者の遺伝子が膵臓癌への手がかりとなる

遺伝性疾患に対する感受性遺伝子を見出す1つの方法は、多くの遺伝病患者のいる家系のDNAを解析することである。しかし、この方法は、残念ながら遺伝性膵臓癌には使えない。というのは、遺伝性膵臓癌はきわめて致死性が高く適当な検体数を提供できる家系はほとんどないからである。

遺伝子配列は問題解決の糸口になるかもしれない。ジョンズホプキンス・キンメルがんセンターの研究者らは、1人の患者の正常細胞と癌細胞の両方における遺伝子配列を調べることで、両方の細胞で変化している遺伝子を示すことができると初めて報告した。これらの変化のいくつかが正常細胞と癌細胞の同一遺伝子で起こっている時、感受性遺伝子を同定する手助けとなる可能性がある。

同研究チームは遺伝性膵臓癌の男性患者でこの方法をテストし、一部の家系で家族性膵臓癌を引き起こすと思われる遺伝子を発見した。

上記患者遺伝子の正常細胞と癌細胞の両方のコピーにおいて、20,600の同定された遺伝子配列のうち3つに不活性化変異があった。研究者らは通称PALB2という遺伝子に注目した。というのは、同変異で離断タンパク質になったためと同変異遺伝子が先行研究で癌と関連していたためである。さらなる解析で明らかになったのは、PALB2 がテストを実施した家族性膵臓癌患者96人のうち3人で変異していたことである。

新たな戦略

電子版サイエンス3月5日号の知見において、同研究者らはPALBの変異は家族性膵臓癌の約3%で重要である可能性があると報告した。彼らが強調したのは、同研究には家族性膵臓癌だけにとどまらない意味があるということである。 「この戦略は遺伝性感受性遺伝子を発見するための新たな方法を提供していますし、他の癌だけではなく他の遺伝性疾患にも適用できます」とジョンズホプキンスの全国家族性膵臓癌登録を主導する第一著者Dr. Alison Klein氏は述べた。

家族性膵臓癌の主因である主たる容疑者を見いだすためのプロセスでは、何千もの正常な遺伝子変異と明らかに無害なDNAの変化をふるいにかける。PALB2遺伝子は、ファンコニ貧血と乳癌に関与しており乳癌感受性遺伝子であるBRCA2とも相互に作用する。BRCA2は通常、損傷したDNA修復を助け、癌におけるBRCA2遺伝子の欠失は確かに納得のいくものであると研究者らは話した。

「BRCA2遺伝子は癌のきわめて重要な経路の一部分であり、われわれにはすぐに標的候補だと解りました」と共著者でありジョンズホプキンスの病理学、内科学、腫瘍学教授のDr.Michael Goggins氏は語った。さらなる状況証拠として、乳癌遺伝子の相方であるBRCA2の突然変異が一部の家族性膵臓癌を引き起こすとGoggins氏は述べた。

しらみつぶしに解析

同報告書の結果は、遺伝子コピーの両方が欠失または損傷している場合、特にその遺伝子が通常DNAを修復し腫瘍を抑制している場合に癌が生じる可能性があるという見解を支持している。この理論によると、患者は、1つのDNA修復遺伝子の変異コピーを遺伝的に受け、その後、後天的にもう一つのコピーに突然変異を獲得すると考えられる。

このシナリオを考えると、本研究で用いられた「しらみつぶし」の解析方法はもしかすると「これらの遺伝子を発見するのにきわめて迅速で生産的な方法の1つです」と共著者でありジョンズホプキンスの病理学、腫瘍学準教授のDr. James Eshleman氏は語った。基金の結果を待って、Eshleman氏のグループは、昨年報告した膵腫瘍のゲノム解析を用いて始めた仕事をさらに拡張して8人の家族性膵臓癌患者の配列を決定することを計画している。

「本研究の背後にある科学的論理は信頼できるものであり、時の試練に耐える実例に基づいています」とトロント大学の研究者Dr. Steven Gallinger氏はコメントした。「これは明らかに大きな進歩です。そしてすべての進歩と同様、この進歩は有効であると確認されることが必要ですが、認められればわれわれは次の仕事に取りかかり、他の遺伝子を発見できます。」

少数の家族性疾患を遺伝学的に理解することは、大腸癌や他の癌でもそうであったように、より一般的な疾患に対しても洞察をもたらすと期待していると、同研究に関与しなかったGallinger氏は付け加えた。

膵臓癌の予防

家族性膵臓癌は多くの遺伝子が関与している可能性があり、「この研究は従来の膵臓癌の遺伝子解析に関連した問題点を回避する方法を示しています」 と同研究報告書の著者ではないワシントン大学医学部のDr. Teresa Brentnall 氏は言った。

同氏は、将来PALB2が家族性膵臓癌患者の評価に用いられていた検査値の1つとなる可能性があると慎重ながら楽観的な見方をしている。最も発症の多い癌10位の中にはないにもかかわらず、致死的な癌の第4位である膵臓癌の徴候を早期発見する有効な方法はない。

易変異性のテストは膵臓癌ハイリスク患者を同定し、前癌病変についてのモニタリングを可能にするのに役立つかもしれない。「われわれがハイリスク家系を同定できたなら、その家系をスクリーニング計画に登録してその家系の膵臓癌自体を予防できる可能性があります」とGoggins氏は述べた。

PALB2の変異のための臨床検査は、まだ行われていないが実施される可能性はある。この臨床検査は、広い変異スペクトルを捕らえるための配列に基づく検査とする必要があろう。これらの変異の頻度をさらに評価し、これらの変異のある患者がどの位の頻度で癌に進行するのか調べるために大規模研究も必要であろう。

新たな問題

よくあるように、この知見はこれから探索可能となった興味深い問題を提起する。1つは、臨床的特徴(BRCA2 突然変異対PALB2突然変異など)を有する家族性膵臓癌と同定できるグループがあるかどうかであると家族性膵臓癌患者を研究、支援する試験実施施設の共同研究を主導するメイヨー・クリニックのDr. Gloria Petersen氏は指摘した。

「この研究はきわめて刺激的です。というのは、この研究が、1人の患者におけるタンパク質コード遺伝子の配列決定により新規の感受性遺伝子の発見をもたらしうることを初めて明らかにしたからです」とPetersen氏は話した。「われわれは、この方法が膵臓癌のゲノム解析を実施している研究者たちにとって速やかに実現可能なものとなり、続いてわれわれのグループがデータの掘り下げを開始できることを期待しています」と同氏は付け加えた。

この計画で個人の遺伝子の全配列を決定する費用は約15万ドルである。配列を決定する費用は近年著しく減少し、今後も低下し続けると予想されている。

 

— Edward R. Winstead

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福田 素子 訳

林 正樹(血液・腫瘍医)監修

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