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英国で起こった乳癌検診のパンフレットに関する論争/Medscape

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英国で起こった乳癌検診のパンフレットに関する論争/Medscape

Medscape
2009年2月26日

英国において、マンモグラフィ-検診の招待状と一緒に女性に送られた乳癌検診のパンフレットが、不適切で操作的であると専門家から激しく批判され、書き直されることになった。

論争の中心は、パンフレットにマンモグラフィ-検診のリスクと利益のバランスが公平および正確に記載されているかどうかである。[pagebreak]この「乳癌検診:データ」というパンフレットは英国保健省によって作成された。2002年に最初に書かれ、2006年に改訂された。

ニュース報道によると、このパンフレットは廃棄され書き直される予定である。

国家がん対策長官(National Cancer Directr)であるMike Richards教授は、公式な再検討が現在行われており、新しいパンフレットは2009年秋までに準備できるだろうと述べた。

その声明は今週出されたが、それは、1月27日にBMJ誌電子版においてパンフレットが批判され、2月19日にThe Times紙への投書で取り上げられたほんの数日後であった。その投書は23人の専門家、疫学者、家庭医、患者代表によって署名されていた。

「いずれの検診の招待状にも真実は記載されていない」と、The Times紙への投書の筆頭署名者であり、英国ロンドンのユニバーシティ・カレッジ外科学名誉教授で医師のMichael Baum氏は言う。

「意図的ではないが結果として、女性は参加するように仕向けられている」と投書には書かれている。このパンフレットが書き直されるのは「絶対に必要な」ことである。

[b]真実が述べられていない[/b]

英国の乳癌検診プログラムは1990年に始まり、50~70歳までのすべての女性を、3年に1度、無料でマンモグラム撮影に招待する。批判にさらされているパンフレットはこの招待状と一緒に送られ、検診で何が期待できるかを説明している。

そのパンフレットは「インフォームドコンセントのための基礎資料としては不適切である」と、BMJ誌に記事を書いたデンマークコペンハーゲンのノルディック・コクラン・センターのPeter Gøtzsche氏らは言う。それは検診の利点を‐彼らの意見では不正確に‐強調しているが、弊害についてはほとんど情報が書かれていないと彼らは述べている。

特に、検診の重大な弊害‐つまり検診を受けなければ見つかっていなかった無害な病変に対する治療‐については触れられていないとGøtzsche医師らは指摘する。

「その弊害は、検診に前向きな人々の間でさえ広く知られ、認識されている。」と彼らは付け加える。「特に検診が健康な人々を対象とする場合に、このよく起こる害について記述がないのはインフォームドコンセントを定めるガイドラインと法律に違反している。」

パンフレットでは、マンモグラフィ-検診を受けた女性のなかには、痛くて不愉快だと思う人がいることや、追加検査のために再び呼び出されることは「不安を引き起こす可能性がある」ことが記載されている。しかし、これらの再検査の結果、一部は偽陽性(間違い)と判明することは詳しく説明されていない。また、英国の乳癌検診プログラムでなされる診断の約20%を占める非浸潤性乳管癌(DCIS)については全く述べられていない。これらのDCIS症例のうち浸潤癌に進行するのは半分未満だと彼らは指摘している。

Gøtzsche医師らは、検診の利点の述べられ方も問題視する。パンフレットでは、検診により、「乳癌で死亡する女性のリスクが減少し」、英国で毎年約1400人の命が救われていると述べられている。

しかし「検診によって命が救われることは証明されていない」と彼らは主張する。新しいエビデンスによると検診はこれまで考えられていたより利益は少なく、実質的により有害であることが明らかになっている。

事実、このリスクと利益のバランスは、近年大きく変化したので乳癌検診プログラムを全国的に行うことは認められなくなるだろうと彼らは言う。「もし、20年前に検診の導入決定がなされる時に、政策作成者が現在の事実を知っていたとしたら…マンモグラフィー検診はおそらく導入されなかっただろう。」

[b]利害関係の対立[/b]

この乳癌検診の情報提供に関する重大な問題は、検診プログラムを運営する団体と検診を行う団体が同じであることが原因となっており、そこに利害関係の対立があるとGøtzsche医師らは言う。弊害に関する情報によって女性は参加を思いとどまる可能性があり、これらのプログラムの成功には高い参加率が必要なのである。

英国の検診プログラムは成功していると見なされている‐2007~2008年の間に、220万人の女性が検査に招待され、170万人が検診を受けたとThe Times紙で報告されている。

ノルディック・コクランの研究者はこの問題について以前に書いており、検診プログラムに公的に資金を提供する他の6カ国‐オーストラリア、カナダ、デンマーク、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン‐における乳癌検診のパンフレットを批判していた。(BMJ.2006;332;538-541)

その当時、そして現在再びGøtzsche医師らはエビデンスに基づいた乳癌検診の情報を伝える見本文書を公開しており、ノルディック・コクラン・センターのウェブサイトからダウンロードできる。

この文書では利益と弊害は以下のように説明されている
・もし2000人の女性が10年間定期的に検診を受けると、1人の女性が検診により恩恵を受け乳癌では死亡しないだろう。
・同時に、10人の健康な女性が乳癌と診断されてしまい、不必要な治療を受け、多くは外科手術、放射線治療、化学療法を受ける。
・約200人の健康な女性が誤った警告(偽陽性)を経験するだろう。

「検診の利益と弊害のどちらを重視するかは、招待された女性の価値判断の問題である」とGøtzsche医師らは結論している。その判断のために女性は情報を与えられる必要があり、自分たちのパンフレットによって、女性と担当医師が、参加・不参加を判断する十分な情報が得られることを彼らは望んでいる。

[b]しかし数値については議論がある[/b]

投書において、Baum医師らはこの見本を使って現在のパンフレットを書き直すように英国機関に要請している。その見本には、利益と弊害がどのように併存するかの全体像が書かれていると彼らは言う。ただし、正確な数値については議論の余地があり、利益を受ける女性はより多く、不必要な治療を受ける女性はもっと少ないことを示唆するデータもあることを彼らは認めている。

これらの数値については、政府に指名された専門家の間で議論されている。英国ナショナルヘルスサービス(NHS)がん検診プログラムの統括者であるJulietta Patrick氏によると、4~5人の命が救われ、4~5人が不必要な治療を受けるとみられ、比率はほぼ1:1である。彼女のコメントはNHSのウェブサイトで最近の報告についての記事に載っており、これらの数値はがん政策の責任者であるRichards教授が報道機関へ発表する時に使用された。

「利益があることを私は疑っていません」とRichards教授は述べた。

情報の提供方法について議論することはできるが、「大きな利益をもたらしたプログラムを人々が怖がり敬遠するようになるのは危ういことである。」と英国がん研究所の主任臨床医であるPeter Johnson医師は述べた。

NHSのウェブサイト記事によると、ノルディック・コクランのグループは以前、系統的な分析を行い、「検診はおそらく乳癌死亡率を低下させて」おり、相対リスクを約15%減少させると結論づけている。

また、検診に関連した弊害の多くはDCISの不確定性に関係すると説明している。DCIS症例の約半数だけが浸潤癌に進行するが、どれが浸潤癌になるかは予想できないので、検診でDCISが見つかったすべての女性は手術、放射線治療、化学療法を用いて同じ治療を受ける。浸潤癌に進行しなかっただろう女性にとっては、この治療は不必要だったことになる。

[b]すべての見直しが必要[/b]

Baum医師は利益が大きいとする証拠はないと主張する。「検診により見つかる症例は劇的に増加しているにも関わらず、発見される浸潤癌の数は減少していない」と彼はThe Times紙で語っている。「早期発見すればDCISはそれ以上進行しないので、深刻な癌(進行癌)は減少すると期待するであろうが、実際の所、これはつじつまが合っていない。」

すべての女性を検診するという政策は見直されるべきで、家族歴や地理的傾向のリスクが大きい人々を対象にするべきだと彼は提案した。さらに、侵襲的な治療を行う現在の傾向に疑問を持ち、前立腺癌の場合のように「注意深い経過観察」という選択肢もあるかもしれないと提案した。

「何が何でも検診サービスを続けるべきだと考えるのは、無関心で横柄である」とBaum医師は述べた。「すべてを再考すべき時期であるが、聖域である検診の問題をあえて取り上げるのは誰にとっても大変なことである。」

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野長瀬祥兼 訳
原 文堅(乳腺科)監修
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原文


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